没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます

六山葵

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課外授業編

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マルクス達の班は何度か交代して魔法を使い、その魔法の光を追いかけた結果、一つの洞窟を発見した。

「すごい、きっとこの中にオルガナイトの鉱物があるんだよ」


洞窟の中に吸い込まれていく魔法の光を見てマルクスが興奮した様子で言う。

他の班員の生徒達も気持ちは同じようで、止めなければ今にも入っていってしまいそうな様子だった。


「ちょっと待って、皆。まずは安全を確認しないとね」


引率としてついてきたルイズは生徒達を引き留めた後、自らの魔法で水精霊のアーティアを呼び出した。


「アーティア、中の探知をお願いできるかしら」


ルイズにそう頼まれて、水精霊のアーティアは素直に頷いた。

生物のほとんどは体の中に水分を持っている。
水精霊というくらいなのだから、アーティアにとってはその水分を感知することくらいお手のものである。


本来、一人前の魔法使いならば見つけた洞窟内の安全確保くらい一人でこなせて当然ではあるのだが、集まった学生たちは全員一年生。

例年よりも若い上にまだ入学してから一ヶ月と少ししか経っていない。

事前にレオンから学院側に提出された課外授業の内容には「魔法による鉱物の発見の補佐」と記されており、ルイズの聞いた説明では生徒達が主導で行動するのは「洞窟を発見するまで」となっていた。

つまり、ここから先は生徒達の安全を考慮してルイズが主体で動くことになる。


「中には生物がやたらと多いみたいね……しかも、人間。それに、この洞窟の広さ……」


ルイズはアーティアから得た情報を元にある推測をたてる。

そして、連れてきた五人の子供達に決して自分から離れないようにと指示を出すと洞窟の中に入っていくのであった。


ルイズを先頭に、再び一列で進む一行。
最後尾にはマルクスが立ち、その前にロドリクがいる。


「なぁ、さっきは……その、ありがとう」


ロドリクは自分の前にいる他の三人の生徒には聞こえないように、後方にいるマルクスにお礼を言った。

助けてもらったとわかったその時から、ずっと「お礼を言わなくては」と思っていたのだが、その前に自分がマルクスに対して思っていたことを思い出すとバツが悪くて言い出せなかったのだ。

今も、声を潜めているのは照れ臭かったからである。


「いいさ。それに、僕もごめん。いきなり突き飛ばして……考えてみたら、ルイズ先生があのクモに気づいてないわけもなかったし、任せておけばよかったよ」


とマルクスは返した。

マルクスの言う通り、ルイズはロドリクの頭上に迫る毒グモに気づいていたが、それに気付いて動きだしたマルクスのことも見えていた為、子供自主性に任せたのである。

ルイズであればロドリクが気付かない速さで毒グモを魔法で撃ち抜くことも可能であっただろう。

突き飛ばす必要もなかったため、マルクスは謝罪したのだ。


「そんなの関係ねぇよ。結果としてお前は俺の命を救ってくれたんだ。命の恩人さ」


ロドリクはもう一度マルクスにお礼を言うのと同時に、入学してから今までずっと心の中で思ってきたこと全てに対して、やはり心の中で謝罪した。

ロドリクはその感情を一度としてマルクスに伝えたことはなかったため、今それを口に出して伝えてもマルクスは戸惑うだけだろう。

ロドリクは謝罪の言葉を口に出して伝える代わりに、今までのように父親の言葉に振り回されるのではなく、自分の目で見たマルクスと向き合っていこうと心に誓うのだった。


「なぁに? 二人してコソコソと話して」


ロドリクの一つ前を歩くミアが振り返って尋ねた。

二人が何を話しているのかまでは聞こえなかったが、様子が気になったのだ。


「ば、ばか……なんでもねぇよ」


ロドリクは焦ったようにそう言うと、ミアを追い抜かして行ってしまう。

洞窟の中が薄暗くて誰にも気付かれなかったが、ロドリクは耳まで顔を真っ赤にしていた。
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