没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます

六山葵

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魔法学院生徒受入編

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クルザナシュの領主、レオン・ハートフィリアはまさか自分が会ったこともない山賊の首領に狙われているなどとは梅雨知らず、来たる魔法学院の生徒受け入れのための準備を進めていた。


「だからダメだって言ってるだろ。俺達が学生の時とは年齢も練度も違うんだ。危険なことは絶対にさせるな」


不思議な形をした魔道具を耳に当て、そこから聞こえてくるマークの声を聞きながら、レオンはいつものように書類作業に追われていた。

レオンが耳に当てているのは、念話器と呼ばれる魔道具で離れたところにいても魔力を通じで会話ができるという、今エレオノアール中で話題になっている魔道具である。

作成者はレオンのよく知るクエンティン・ウォルスで、彼が以前作った「遠くの人と会話をできる鏡」の改良品である。


あの鏡は、いちいち大きな鏡を運び込まなければならないという欠点と「話をするためにいちいち人前に出る格好をしなければいけないのがめんどくさい」という主に女性の魔法使いから殺到した意見によって不評だったのだ。


そこでクエンティンは声だけで遠くの人と話ができるこの念話器を作成したというわけだ。


学院を卒業してからというもの、クエンティンの魔道具開発は留まるところを知らず、多彩な発想と卓越した技術で国内の魔道具開発に大きく発展している。

その上、商売人としての才覚も遺憾なく発揮して、今では国中で知らないものはいないほどの有名人である。


それなのに、そんなことを鼻にもかけず、学院時代の後輩であったレオンに未だに頻回に連絡をとり、必要な人材や作成した魔道具の試作品を惜しみなく提供してくれるクエンティンにレオンは頭の下がる思いだった。


そんなクエンティン作の念話器を使って、レオンが王都にいるマークと話しているのは、正しく魔法学院の一年生受け入れの件である。

マークは生徒の護衛の隊長として、各地を回ることになったのだ。


使者が来た時の件といい、重要な役回りを任されているところを見るに、マークも順調に出世への道を歩んでいるようである。


「いいか、レオン。新入生は皆十二歳だ。まだ成人の儀式も終わってねぇ。俺たちは監督官としてだけじゃなくて保護者の義務もあるってことを忘れるなよ」


マークにそう念押しされて、レオンは姿が見えないのをいいことに口を尖らせて反発する。

「やってきた新入生に鉱山の発見を手伝ってもらいたい」

と提案したところ、マークに却下されたのだ。

すでに見つけた洞窟で採れたオルガナイトを使い、それと同じ成分を含む鉱石を魔法で探知するだけ。

レオンからしてみれば簡単なことだと思ったのだが、マークの意見は違った。


まず、学生達がまだ入学して間も無く、「飛行」の魔法すら使えないということ。

そして、鉱山を探して山の中を歩き回れば、班ごとの別行動ということになるが、それを引率する教員の数が足りないことが理由だった。

王都近辺や、もっと見晴らしがよく危険の少ない地域ならば別だろうが、荒れたクルザナシュで生徒達だけの班を自由行動させるわけにはいかないのである。


活躍して大怪我をするかもしれないし、猛獣に襲われるかもしれない。

まだ入学したばかりの生徒達では、そんな時に対処する術がないのだ。


「わかったよ……」


「おい、不貞腐れてんのが声に出てるぞ」


顔が見えない、声だけの会話とはいえマークにはレオンの行動が筒抜けだったらしい。

レオンは慌てて口を尖らせるのをやめて姿勢を正した。


「とにかく、その方法でやりたいならそっちで引率の魔法使いを集めてくれ。変なやつじゃなくて、身元のしっかりした一流の奴らだぞ」

マークは最後にダメ押しで年を押すと、念話を終了させた。


身元のしっかりした一流の魔法使いとなると、大抵は貴族である。

平民だったとしても魔法使いで、腕がいいのであればそれなりの役職についている。

そんな人達を雇うためには当然大きな金額が必要になるわけだ。

鉱石が見つかり、それを使った道具の開発にクルザナシュ全体で力をいれているとはいえ、それはまだ始まったばかり。

現実的には魔道具の試作品の一つもまだできていないような状態だ。

そんなクルザナシュの財政では、魔法使いを雇うのなど到底無理だった。

つまり、マークは暗に「諦めてくれ」と言ったのである。
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