没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます

六山葵

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魔法学院生徒受入編

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二国の使者が訪れて、街を視察してから半月が経った。

レオンから国に起こった事件と、悪魔がこの街に住むことになった経緯を聞いたライナスはどこか納得した様子であった。

「悪魔達の存在のことは私がなんとかしよう」

そう言ったライナスは自国から命じられた「悪魔の抹殺」という目的を遂げるつもりは無い様だった。

何か独自の考えが彼にはあるようで、難しい顔をしながらも「心配するな」と言い残してエレオノアールを去っていった。


サンブック王国のアルナードもまた、レオンの話を聞いて何か考え込むような仕草を見せていた。

もともと学院の生徒であった彼は、当時の記憶とレオンの話を照らし合わせたのだろう。

どこか納得のいった表情で、国へと戻った。

彼は特にサンブックから指令を受けていたわけでは無いようで、視察は滞りなく終わったのである。


共和区クルザナシュ。
エレオノアールに新しくできた街の噂は半月の間にようやく国内中に広まりつつあった。

噂というのは尾鰭がつくもので、「一週間で街ができた」という真実は「三日で立派な城が建ったらしい」、「杖を一振りすると道ができたらしい」、「住人達は働かなくても魔法がなんでもやってくれるらしい」とどんどん大きくなっていった。

しかし、全てが順調に進んだわけではない。
レオンの思惑の一つだった「悪魔達の評判を上げる」という点においては中々うまくいっていなかった。

街の評判は勝手に広まっていくのに、どういうわけかその手柄は全てレオンの物になってしまっているのだ。


もちろん、近隣の街や王都など情報が正確に伝わりやすいところでは悪魔達の優秀さは理解され始めている。

しかし、クルザナシュの街から離れれば離れるほど噂は事実よりも大きくなり、悪魔達よりもレオンの話題の方が大きくなってしまうのであった。


思うようにいかずとも、いつかはわかってもらえると信じるしかない。

そう考え、引き続き悪魔達の評判を上げることに力を尽くしたいレオンは悪魔達を連れてクルザナシュの西方にある山の中に来ていた。


クルザナシュは方々を山に囲まれた窪地に造られた街である。

街の周囲は岩の塀で囲まれて、正門は門は南を向いている。

南の山には馬車が二台横に広がって通れるほど幅の広いトンネルも掘られた。


そして、その隣。他の山よりも一回り大きい、岩だらけのゴツゴツした山が西の山である。


レオンがここにきたのは他でもない。

この山の中で鉱物の採れる洞穴を住人が見つけたからだった。

その住人はクルザナシュに住む平民の男で、岩陰に生える珍しいキノコを探して歩いていたのだが、偶然洞穴を発見したらしかった。


試しに入ってみると洞穴の入り口付近で明らかに岩肌の違うところを見つけた。

それが鉱床だと気づいた男は奥に行けばさらに見つかるのではないかと考えた。

男の仕事は街の周囲で採れた食材を街で売ることで、鉱物には興味はなかった。

しかし、クルザナシュの周囲の山が鉱山だと判明すればレオンが喜ぶと男は知っていた。

男はレオンのために洞穴に入ったのだ。


しかし、少し進んだところで男は足を止めた。

洞穴の奥から何やら音が聞こえてきたからだ。


グウオォォ、グウオォォと低い音が聞こえる。

男はそれが何やら動物のイビキだと気づき、「これはいかん」と急いで引き返して来たのだった。


そんなわけで、レオンはその男に呼ばれて洞穴にやって来た。

中に何がいるかはわからないため、お供としてついて来た悪魔は二人。

ア・シュドラとア・ジムルという名前の悪魔である。

シュドラはかつてレオンと戦ったことのある女性の悪魔である。

ア・ジムルは男の悪魔で、器となったシドルト族の肉体が小さく、幼い顔立ちなのもあって遠目で見ると子供のように見える。

一度はレオンの体の中に魂が入っていたため、面識がないとは言えないのだが、レオンはこのジムルとあまり話したことがなかった。

幼く無邪気に見える見た目とは裏腹に、彼は無口であまり言葉を発しないのだ。


わざわざあまり話をしたことのない悪魔を連れて来たのには理由がある。

悪魔達のことをもっとよく知ろうとしているのだ。

レオン自身、悪魔の魂をその身に宿し、彼らの考え方や文化の一部を記憶として保持しているため、わかっていることは多い。

しかし、悪魔にも性格がある。
何が好きで、どういう風に考えているのかは個々によって違う。

それを知ろうというのだ。

そのために、レオンは最近あまり話したことのない悪魔達とも積極的に話すように心がけていた。

シュドラがいるのはいわばレオンと他の悪魔達との仲介をするためだった。

悪魔の中では比較的人間に心を許しているシュドラに他の悪魔との仲を取り持ってもらっているのである。
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