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二国の使者編

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翌日、朝早くからクルザナシュの街は賑わっていた。


なにしろ街にとっては初めての来客である。

それも出来て日の浅い街のだ。


住民達は自分たちがこれから住む街に他国の使者が視察に来たことが気になって仕方がないようで、期待半分、そして不安半分な様子で朝からソワソワとしていた。


落ち着かないのは住民達だけでなく、レオンもであった。


いつもよりも早い時間に目を覚ましたレオンは着替えを済ませると朝食も取らずに外に飛び出していた。


レオンが落ち着かない理由は今日来るもう一人の来客のせいである。


来るのはヒースクリフ・デュエン。
この国に生まれた新国王である。


もちろんレオンにとっては親しい友人の一人で、普段であれば緊張する必要など全くない。


しかし、この日ばかりは事情が違った。


というのもヒースクリフがクルザナシュを訪れる理由が二国の使者に関係しているからだった。


二つの国を代表して来たライナスとアルナード。その二人を迎えるのに一貴族だけしか応対しないというのは国としての格好がつかないのである。


国王が出向き、直接挨拶を交わすことで最大限の歓迎の意を示すことになる。


また、ライナスとアルナードの二人にとっても国を来訪しておいて国王に挨拶の一つもしないのでは自国の品位を疑われる行動になってしまう。


そういうわけで、ヒースクリフがクルザナシュにやって来るのは完全なるデモンストレーションであり、レオンには当然貴族としての応対が求められていた。


さらに、この件に関してレオンには事前にダレンからの手紙が届いている。


貴族的な堅苦しい挨拶と遠回しな表現で書かれた手紙を解読するのにレオンは苦労したのだが、オードの力を借りてなんとか読み解いたところ、要約するとこういう意味の手紙であった。


「今回の国王の来訪に関しては、ヒースクリフを友人だと思うな。もしも国王、及び来賓に失礼な行動を取れば貴族の位剥奪もあると思え」


文章だけなのに、その手紙から受ける強烈な圧力にレオンは肝を冷やした。

レオンが貴族になってからまだ半年も経っていないのだ。
それなのに、もう貴族の位を剥奪される危機に瀕している。


手紙を読み上げたオードも苦笑いだった。


一応、レオンが貴族になったのは自分によくしてくれた義理の両親に楽をさせてあげたいからという目的があったからだ。


貴族になってその夢が叶うかと思ったところ、何故か両親はレオンの申し出を断った。


その理由はまだはっきりとしてはいないが、レオンが貴族を続ける理由は無くなったかのように思える。


しかし、そういうわけでもない。


レオンが貴族になり、クルザナシュという領地を管理することには意味がある。

悪魔達との約束だ。レオンは悪魔達と戦い、そのリーダーのディーレイン、そしてア・ドルマの二人に「自分が悪魔も安らかに暮らせる場所を作る」と約束した。


その約束を果たすためには今、貴族の位を剥奪されるわけにはいかないのである。


そんな諸々の理由でレオンは今、どうにか失礼のないように今日一日を乗り越えたいと考えているのであった。


「随分難しい顔をしているのだな。問題か?」


レオンが気を紛らわそうと早朝の街を散歩していると、突然声をかけらた。

顔を上げ、声のした方に目をやるとそこにはディーレインが立っている。


「ディーレイン……」


同じ街に住んでいて、顔を合わせることも少なくないはずなのに何故かレオンは久しぶりに会ったような気がした。


「そんなに大変なのか、使者とやらの応対は」


「うん、まぁね。でも、何とかなるよ。そっちはどうだい? 皆、何かに不自由してない?」



悪魔達の管理や地下に作った陰と陽の魔力が共存した場所のことはほとんどディーレインに任せてしまっている。


何か問題があれば知らせが来るはずだが、新しい生活で、その上他国からの使者が来るという事態に街の住人達はざわめきだっていて、悪魔達に何かストレスを与えていないかレオンは心配だった。


「あいつらなら問題ないさ。思いの外上手くやってるようだ……俺もな」


遠慮がちにディーレインは笑う。

ディーレインがこの街にいる理由は悪魔達のそれとは少し違う。

彼が求めているのは一族の人間を甦らせることであり、それを果たす最も有効的な手段を持つのが悪魔達だったからここにいるのである。


しかし、現状彼の一族を甦らせる手段には達成の目処がたっていない。


それがわかっているからレオンも歯痒い思いをしていた。
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