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二国の使者編
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しおりを挟むこの世界の魔法使いの基礎的な魔力を一日に火球の魔法を連続で撃ち続けられる回数に例えるならば、おおよそ五十回前後となるだろう。
実際には魔法の使用の合間に休息を挟むことでもう少し連続して魔法を使用することができるのだが、あくまで目安とする分には問題はない。
それに対して、レオンの場合はどうだろうか。
一日に五十発程度の火球の魔法でレオンが魔力切れを起こすことはないと断言できる。
実際に試したわけではないが、魔力総量で言えばレオンは火球の魔法であれば二千発程度打ち続けても魔力切れを起こさずに行動できるだけの魔力を有していた。
その理由は幼少期から魔力を限界まで使うという訓練を続けてきたからである。
レオンはこの方法を前世の知識、正確にはエレノアの記憶の中から知り、じっせんしていたがこの方法は人間界には浸透していない。
人間にとって魔力というのは神から与えられた特別な力であり、その総量は生まれた時あるいは魔力が発言した時に既に決まっていると信じられている。
これは、唯一神レターネを崇めるレイテリア教会の教えであり、実際に魔力には個人差もあるために今も尚疑われることのない事実となっていた。
したがってレオンはこの魔力の総量を無理に上げる方法を滅多に人に教えることはなかった。
マークやオードに聞かれて教えたことはあるが、それ以外の人に教えても信じてもらえず、異端扱いされるとわかっているからだった。
しかし、魔界では幼少期より毎日魔力を限界まで使うという方法の方が主流なのである。
エレノアやア・ダルブと言った悪魔達は生まれてすぐに魔力を発現し、歩けるようになる頃には手遊びの感覚で魔法を使うことを覚える。
そうした幼少期からの魔法教育によって彼らは莫大な量の魔力をその身に育てていくのである。
そして、魂となりシドルト族の体に乗り移った後もその膨大な魔力量は保持されていた。
驚くべきことに悪魔は全員が一日に三千発もの火球の魔法を撃ち続けられるだけの魔力を持っているのである。
クルザナシュの街の開拓にはそんな彼らの力が大きく役立っていた。
レオンは移住してきた人間達と悪魔達の関係を悪くさせないために、一定数距離を置かせることを心掛けていたが、その間にも悪魔達の評判を上げる方法をずっと考えていた。
その方法の一つが街の開拓なのである。
悪魔達はレオンに頼まれて魔法で道を整備し、家を建て、農地を開墾する。
その様子を遠くから眺めていた人間達は魔法を惜しむことなく使用する悪魔達に感謝するのだ。
そして、街が発展していくにつれ活気も生まれ、悪魔たちに感謝する言葉も増えてきている。
問題が完全になくなったわけではない。
悪魔達はまだ人間を下等な生物だと見下している節があるし、人間達もまた悪魔に対する恐怖が完全に無くなったわけではなかった。
それでも、人間の中には直接に悪魔に御礼を言いにいく勇気ある人もいて、悪魔達も感謝されると満更でもない様子であった。
こうして大きく発展したクルザナシュの街を二国の使者、ライナスとアルナードに見せたのだが、その反応はレオンが十分に満足できる物だった。
今回の二国の視察、その目的は「悪魔の脅威度を確認するため」ではないかとレオンは予測している。
サンブック王国のアルナードの真意はまだわからないが、聖レイテリア神聖国のライナスの目的は間違いなくそれであろう。
レイテリア教会にとって、悪魔という存在そのものがあまりいい印象を持たれていない。
当然悪魔を国の民として認めたエレオノアールも敵視される可能性がある。
レイテリア教会の人達はその目で確認しておきたかったのだ。悪魔が一体どういう存在か。
伝説の通り、人に害をなす存在なのかどうか。
それがわかっていたからレオンは街の開墾に最も大きな影響を与えているのが悪魔達であると隠さずに明かしたのである。
悪魔達のことをまるで優れた道具であるかのように紹介するのはレオンの本意ではない。
しかし、今は何よりも悪魔達の評判を上げることが大事だと判断した。
そして、その評判を上げるという点においてはここまでは十分に成功していると言えるだろう。
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