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二つの国編
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しおりを挟む二国の使者とその従者達を乗せた馬車はザオの街を出立した。
レオンが馬車に乗り込む際、ザオの領主ゼントレンはレオンに別れの挨拶をし、レオンもそれに応えた。
馬車は街を出てすぐ、森の中へ入っていく。
先導するのは魔法騎士団の団員が乗った馬で、その後ろを複数の馬車が続く。
馬車を取り囲むように配置された魔法騎士団達の馬によって、その一行はいかにもといった重々しい雰囲気を放っていた。
そんな中で、レオンの乗っていた馬車だけは外の雰囲気などお構いなしに会話が飛び交っていた。
その会話の中心にいたのはアルナードである。
彼は王国側が用意したサンブックの人用の馬車には乗らず、レオン達の馬車に同乗することを希望したのだ。
「旧友との再会だ。中で昔話に花を咲かせようじゃないか」
と言うアルナードの言葉に特に断る理由もなかったレオンが賛同したためだった。
そんな訳で、レオンの馬車にはレオンとアルナード、護衛のマーク、そしてエルシム司祭の四人が乗っている。
「見た前、この服を。サンブックの特産品で『練服』という者だ」
馬車の中でアルナードは自分の着ている服をレオン達に紹介してみせた。
それは、魔法使いの着るローブによく似ていたが生地の質感は全くの別物で、さらには赤や黄色の装飾が施された民族衣装のような物だった。
「美しいだろう。我が国ではこれを祝い事や公の時に着るのだ。どうだ、レオン。欲しければ一着進呈するぞ」
鼻高々に着物を自慢するアルナードに対し、レオンは苦笑して首を横に振った。
アルナードは少し残念そうな顔をする。
「そうか。美しさと刃も通さぬ頑丈さを持った素晴らしい物なのだが……素材はルシミヤという植物でな。これもまたサンブックにしか咲かない珍しい物で……」
「アルナード。いいかな?」
アルナードの止まらない話を遮ってレオンが尋ねる。
アルナードは話の腰を折られたことを特に気にする様子もなく、レオンに対して頷いた。
その様子を見てレオンは話を続ける。
「アルナード、僕はこういったことは不得手だし、君は友達だ。だから、お互いの腹の中を探り合ったりせずに直接聞きたい。君達は何が目的なんだい?」
レオンの問いかけの意味はアルナードにしっかりと伝わった。
サンブックはクルザナシュに来て何をするつもりなのかとレオンは聞いているのだ。
アルナードはその問いかけに対し至極真面目な表情になって、それから一つ深く息を吐いた。
「レオン、君は友達だ。それに、私も国の政に利用されるのは好きじゃない。だが、我が国の望む全てを君に伝えることはできない」
腹の内を明かすつもりはないというアルナードの答えにレオンはため息を吐く。
「エレオノアールは世界中の国に対して声明を出した。国王の名でだ。それによって人々は伝説の存在だと思っていた悪魔のことを知らされたんだ。この意味がわかるか?」
アルナードの真剣な問いかけにレオンは頷いた。
伝説上の存在、脅威とされていた悪魔を一つの国が認め、その者達を民にすると宣言した。
それは国を守るためだったが、同時に世界中の国に対する宣戦布告にもなる。
「君達は自分達が戦争で勝つ手段を手に入れたと知らしめたんだ」
アルナードにそう言われてレオンはそれを否定しようとした。
「そんなことはしない」と。
しかし、その言葉はアルナードに手で遮られてしまう。
「わかっている。君達にそのつもりがないことは。だが、他の国がどう思うか。それはその国次第だ」
アルナードはまた大きく一つ息を吐いた。
レオンが思っているよりも、アルナードは今回のことを大きく、重要だと考えていた。
それこそ、世界を左右してしまうような瀬戸際。
そう感じたからこそアルナードはこの国に来たのだった。
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