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新たな時代編
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しおりを挟むクルザナシュに新しく住人達が移り住んでから三日が経った。
開墾された農地は街のすぐ横に広がっている。
農地のすぐそばには地下の水脈から水を汲み上げる井戸が設置された。
新しく出来たまだ何も植えられていない畑を見ながらマルクスは空を仰いだ。
大きな鷹が空を泳ぐように飛んでいた。
鷹は一声高い鳴き声を上げると山の向こうへ飛んでいく。
「マルクス、行こうか」
声をかけられてマルクスは振り返った。
カバンを持ったレオンが立っていた。
マルクスはレオンの元まで駆け寄っていき、二人はそのまま山の中へと入っていった。
「兄さん、この山では何が獲れるの?」
「さぁ、どうかな。ディーレイン達は赤い羽根の山鳥を獲ってたけど探せば猪とかもいるかもね」
この日、二人はクルザナシュの山中に狩りに来たのである。
誘ったのはマルクスからだった。
レオンは溜まっていた仕事を一先ず片付けて、マルクスのために時間を取ったのである。
二人が山に入ってすぐ、岩肌をかける鹿のような生き物を目にした。
「兄さん、あれ」
マルクスがその生き物を指差し、右手で丸を作り魔法の狙いをつける。
レオンはマルクスのその手に自分の手を重ねて、手を下ろさせる。
「あれはカーゼルっていう種類の草食動物だね。あの大きな角は雄特有のもので、雄の肉は筋張ってて硬い。狙うなら他のにしよう」
レオンの言葉にマルクスは頷き、二人はさらに山を登った。
「ねぇ、兄さんは父さんとよく狩りをしたの?」
山を登っている途中でマルクスはそんなことを聞いた。
レオンはかつて自分がドミニクの後について山を登っていたあの頃を思い出しながらそれに答える。
「ああ、父さんは狩りの名人だからね。マルクスも連れていってもらったかい?」
レオンがそう聞くとマルクスは首を振った。
「ううん、父さんは最近なんか忙しいみたいであまり家にいなかったんだ。兄さんがいなくなってからは特に口数も減って、あんまり話してなかったから」
悲しそうにいうマルクスにレオンは何も言わなかった。
なんと声をかけたらいいかわからなかったというのもあるが、目の前を歩く獲物を見つけたからでもあった。
「猪だ。大きい。」
マルクスが声を潜めて言った。
「どこか森から迷い込んだのかもね」
レオンはそう言いながら魔法で狙いをつける。
今度はそれをマルクスが止めた。
「兄さん、僕にやらせて」
マルクスの言葉にレオンは頷き、マルクスが魔法の狙いを定めるのを静かに見守った。
マルクスが使おうとしたのは風の魔法だった。
魔法で作られた風の刃は獲物に向かってまっすぐに飛び、対象を切り刻む。
しかし、マルクスの作り出したそれはまだ未熟だった。
生み出された風の刃が猪に届くことはなく、届いた時には刃はただの微風に変わっていた。
猪はレオン達に気がついたようだ。
低く唸り、レオン達に向けて大きな牙を剥いた。
「マルクス、下がって」
レオンはマルクスの服の襟元を掴むと後ろに引っ張り、その身を庇うように前に突き出た。
怒りを露わにした猪がレオン達に向かって突っ込んでくるが、レオンは焦らなかった。
冷静に杖を振り、風の刃の魔法を打ち出す。
刃は綺麗に猪に向かっていき、首筋をスパリと引き裂いた。
バタリと猪は倒れた。
「兄さん、ごめんなさい」
倒れた猪の前でマルクスが謝罪する。
レオンは笑った。
「気にするなよ。魔法はいきなりやってできるってもんじゃない。何回も練習して、精度を高めていくんだ。マルクスはそのために学院に通うんだろ?」
「兄さんも最初は失敗したの?」
「ああ、一発でできるようになった魔法はほとんどない。安心して、マルクス。学院の先生達はきっとお前に寄り添ってくれる。お前には才能があるよ」
レオンにそう言われてマルクスの顔がぱあっと明るくなった。
兄弟水入らずの時間を過ごしたマルクスはこの二日後に魔法学院に向かって出立するのだった。
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