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人魔都市編
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しおりを挟む「侵略行為だ! 人間はまた過ちを繰り返す!」
ダルブは声を荒げる。
人間を傷つけない、というレオンとの約束は守ったがダルブの怒りは全く治っていないらしい。
勝手にやってきて、我が物顔で自分たちの領地を荒らし始めたライル達に嫌悪感を表している。
レオンはダルブをなだめるために、彼の背中をさすりながら声をかける。
「ありがとう、ダルブ。君の言っていることは正しい。それに、約束もしっかり守ってくれた。ありがとう」
レオンが声をかけると、ダルブはいくらか心を落ち着かせたようだ。
ただ、それ以上その場にいたくなかったらしく地下の洞窟へと戻っていく。
「ダルブ、他の皆は?」
ダルブの背中にレオンがそう問いかけるとダルブは岩山の方を指さして
「……狩りだ」
と短く言った。
どうやらダルブは一人で留守を任されていたらしい。
その責任感から彼が怒ったのも納得がいくものだろう。
ダルブがそこを去った後、レオンはライル達に向き直った。
建築士と思われる男や他の作業員達は明らかに怯えた様子でこちらを見ており、ライル自身も肩を落として縮こまっている。
「さて……」
レオンはため息混じりに言葉を続ける。
新しくできた建物は、確かに立派な建物だった。
しかし、それをレオンに黙って勝手に作ったことは看過できない。
「手伝ってくれるのは嬉しい。君達がクエンティン先輩の部下だというのが本当なら信用もできる。でも、こういった無茶をされると素直に君達の手を借りることができなくなる」
レオンはわざと語気を強めてそう言った。
悪魔を倒した新しい貴族の噂は既に王国中に広まっている。
レオンのその強い物言いにその場にいた作業員達は明らかに怯えた様子だった。
しかし、レオンはこの新しい土地の領主となったのだ。
そのレオンに何の許可も取らずに勝手な行動をされては領地の運営はままならなくなる。
レオンがあえて強い言い方をしたのは最初にそれだけはわかってもらいたかったからだった。
一通り伝えたいことを伝えたレオンだったが、困ったのはその後だった。
それはライル達の今後の扱いについて。
クエンティンに連絡をとり、彼らの素性を確かめるのはもちろんだが問題なのはこのままここで働いてもらってもいいのかどうかだった。
レオンとしては、これから作る街は悪魔と人間が協力できるような街にしていきたい。
一度問題を起こしたライル達にダルブや他の悪魔達は嫌悪感を抱いてしまうだろう。
怯えている作業員達の様子から見てもこのままここで働くのは難しいように思えた。
クエンティンには悪いがこの作業員達には帰ってもらうか、とレオンがそう思った時ライルが突然地面に両手足をつけ、頭を下げた。
「ハートフィリア様、申し訳ありませんでした」
ライルのこの頭を地面につける仕草は王国では服従のポーズとされている。
謝罪の時にこれを用いるのは恥やプライドを捨てた最大限の反省を意味する。
生まれて初めてこの姿を間近で見たレオンは呆気に取られた。
「いや、何もそこまで……」
頭を上げて、と声をかけようとしてレオンは言葉を止めた。
レオン個人としては人にこのような行動を取らせたならすぐに許すだろう。
しかし、領主としての立場だったらどうか。簡単に許してもいいものなのか。
貴族という新しい立場になったレオンにとってそれは難しい決断だった。
レオンが何も言えなかったその間に、ライルはさらに謝罪を述べる。
「私は何としてもクエンティン様のお役に立ちたかったのです。……初めて直接用を言い渡されて、嬉しさのあまり先走ってしまいました。どうか、どうか今一度のチャンスをください……このままでは、クエンティン様に合わせる顔がありません」
ライルのこの行動に戸惑ったのはレオンだけではなかった。
先程までは怯えていた作業員達も突然のことに驚いて、困惑した表情になっている。
彼らにとってライルは立場が上の人間だった。
こんな風に謝罪をしているところなど見たことがない。
レオンは、結局この謝罪を受けてライル達を許すことにした。
クエンティンの好意を無下にできないというのもあったが、ここで彼らを帰すことは悪魔達にとってもよくないと思ったからだった。
わだかまりができたまま、それを解消せずにいるよりもお互いのことをよく知る機会を設けた方がいいと思ったのだ。
それには慎重を期するため、レオンはライル達にしばらくは悪魔達と下手に関わらないことという条件をつけた。
さらに、何かをする時には必ず自分に許可を取ることを約束させてこの騒動は一先ず終わりを迎えたのだった。
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