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人魔都市編
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しおりを挟む前置きともとれる話が終わると、レイナルドは懐から何か小さな袋のような物を取り出しレオンの前に置いた。
「……これは?」
「開けてみなさい……直接は、触らないようにな」
言われるままにレオンが袋を開け、その中身をテーブルの上に乗せる。
それは黒い、角のような物だった。
「覚えているかね、これは五年前の襲撃の時に空から現れた魔物の一部だ」
レオンは五年前のことを思い出す。
王都に悪魔であるア・シュドラ達が襲来した際、空に大きな裂け目のようなものができて、そこから魔物と呼ばれる魔界の生物達が入り込んでいた。
「あの時出現した魔物は全て倒され、そのほとんどは黒い塵のようになって消えた。しかし、何体かはこうして自らの体の一部を残していったのだ」
レオンは机の上の魔物の角をもっとよく見ようと思い、指先でつまみ上げようとした。
「やめなさい」
とレイナルドが止める。
レイナルドは杖を取りだして、角に向けて「浮遊」の魔法をかけた。
角はふわりと浮き上がり、レオンの前で静止する。
「恐るべき物体だ。角は一見すると何の変哲もないように見えるが、その中には多くの魔法の痕跡を残している。下手に触ると怪我をするぞ」
レイナルドは浮かせた角を操り、自分の後ろにあった棚の上へと移動させる。
そこに置かれていたガラスのケースに角は綺麗に収まった。
「同様の物が、この国だけではなく他国にも出回っている。誰が手引きをしたのかはわからぬが、金に目のくらんだ愚か者がいたようだ。魔物の角を欲する者達の目的は一つ、より強い武器を作るつもりなのだ」
レイナルドはレオンに角の有用性を話した。
魔法の痕跡を多く含んだこの角は魔道具の良い素材になるのだという。
杖に組み込めば、より強い魔法を少ない魔力で唱えることができるようになるはずだとレイナルドは言った。
しかし、この研究は未完成である。
王国の魔法研究者達は誰一人としてこの角を有益に使った魔道具を完成させてはいない。
角を使えば魔道具を強化できるというのは、研究者達の予想した理論でしかなかった。
そしてこれは魔物の角が流れた全ての国で取り組まれていて、そのどの国でも実用段階ではないだろうと、レイナルドはそう言った。
「その理由が何故だかはわかるかね?」
レイナルドの問いにレオンは頷く。
「研究に必要な魔物の角の数が少ないからですね」
現在人間界に出回っている魔物の角は五年前に襲撃を仕掛けてきた魔物達の物のみ。
色々な国に角が出回っていることを考えればもしかしたら他にもあるのかもしれないが、数は少ないだろうと予測できる。
魔物が大量に現れるような事態になっていれば、五年前の王都と同じように大きな話題となっているはずだからである。
「この話を私が君にした理由はわかるね」
レイナルドのその問いにレオンはまた頷いた。
魔物というのは、魔界に住む生物だとされているがその根源にあるのは悪魔の力だった。
悪魔の魔力が元となり生み出される生物のため、魔物を作れるのは悪魔だけである。
今まで、世界中の魔法研究者達が魔物の角に関する有効な研究成果をあげられなかったのは素材となる魔物の角が少なかったから。
そして、魔物を作り出せるのは悪魔だけ。
その悪魔達は今、レオンの統治する土地に住んでいるのだ。
レイナルドはレオンにこう言いたいのである。
「魔物の角を求めて、悪魔達を狙う者がいるかもしれない」
と。
「悪魔というのは、我々人間にとって長い間伝説上の存在だった。そして、彼らはしばしば恐怖の対象とされる……だが、レオン。君が彼らと和解し、協力関係を築いたことで、局面は大きく変わったと私は思う。もちろん、今でも悪魔は強力な力を持っていて畏怖の対象となるだろう。しかし、それ以上にそこに有用性を求める者達が現れるだろう」
レイナルドは話の結びにレオンにこう伝えた。
「君は大きな戦いを一つ乗り越えた。しかし、まだ終わりじゃない。本当に厳しいのはここからかもしれないぞ」
と。
それは、決してただの脅しなんかではなくレオンの身を案じた警告だった。
それがわかっていたからこそ、レオンは大きく一つだけ頷いた。
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