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人魔都市編
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しおりを挟むレオンの話を聞いたオードは荒れた土地でもよく育つと評判の作物をいくつか教えてくれた。
その中でもレオンの興味を特に引いたのは「イネガシア」と呼ばれる穀物だった。
「イネガシアは最近になって発見された新種でね。別名『魔法のパン』って呼ばれてる食べ物さ」
オードの言う通り、イネガシアは新種の植物だった。
西の大陸で最初に発見され、それが旅商人によって運ばれてきたのだ。
小麦のような実をつけ、同じように加工してパンにすることができる。
味も悪くなく、成長するのに水をほとんど必要としないという特徴がある。
さらにもう一つ特異な効果があり、それが「魔法のパン」と呼ばれる所以だった。
「実はこのイネガシア、食べた者の魔力を少しだけど増やす効果があるらしい」
そう、魔法使い限定だがイネガシアにはそういった効果があった。
そのために、今魔法使い達の間で密かに注目を集めているのだ。
「それはすごい……でも、そんなすごい食べ物ならもっと普及してるような気がするけど」
レオンの疑問は尤もであった。
イネガシアに本当にそんな効果があるのならば、魔法使いにとって価値の高い食べ物であるはず。それなのに、レオンはその名前を一度も聞いたことがなかった。
レオンがあまり周囲に関心を向けないため、無知だっただけとも考えられるがこれにはしっかりと理由があった。
それは、イネガシアの育て方の問題だった。
「実はこの作物、水を必要としない代わりに魔力を必要とするんだ。それも大量にね」
イネガシアは水を必要としない。
それは、例えばクルザナシュのような荒れた土地でもよく育つような利点と言えるだろう。
しかし、その代わりに一般的な成人した魔法使い一人分の持つ魔力を一日に必要とする特徴があった。
このように成長するのに魔力を有する植物は魔法使いの間では「魔法植物」と呼んでいた。
オードがよく使う「吸魔草」や「蓄水樹」なんかもこの「魔法植物」にあたる。
魔法植物はその特性として種類によって成長に必要な魔力の量が変わる。
オードが戦闘に用いるのは比較的少量の魔力で、成長速度の速い物が多いがイネガシアはそれらとは逆の植物であった。
一日に必要とする魔力も多いが、イネガシアは実をつけるのに三ヶ月かかる。
それだけ毎日大量の魔力を与え続けるのはレオンでも相当に至難の業だった。
「実は国内でも既に何人かの研究者がイネガシアの栽培に挑戦してるんだけど、成功した人はほとんどいないんだ。定期的に収穫できた人はゼロだと思う」
オードが何故、この難しい作物をレオンに進めるのか。
そこには、レオンならば育てられるだろうという希望があった。
「僕とデイクイーンがクルザナシュに行って、彼の力を使えば作物はすぐに育つだろうけど、僕はそれをしたくない」
オードの精霊、デイクイーンの能力を使えば植物の成長速度を上げることができる。
その力を使えばイネガシアの栽培もそう難しくはないだろう。
しかし、それはある種と奥の手だった。
本来ならばゆっくりと成長するはずだった植物を急速に成長させるのはリスクが大きい。
自然界のバランスを崩してしまう可能性があった。
さらに、オードは貴族として王都に住んでいるためクルザナシュに移住することはできない。
毎日オードがクルザナシュに足を運ぶ必要があるという点でも現実的ではなかった。
レオンも元々オードのこの力に頼る気はなかったので「わかってる」と短く返事をした。
「でも、君には幼少期から積み重ねてきた鍛錬で得た膨大な魔力がある。それに、今は君は一人じゃないだろ?」
オードがレオンに期待したのは単にレオンの魔力量が多いからというだけではない。
貴族となったレオンには今、領民がいるのである。
それも、魔力を持つ魔法使いか持たない一般人かに分けられる人間とは違い、生まれてくる全ての生命が魔力を有している悪魔という種族の領民が。
さらに、悪魔一人一人が持つ魔力はレオンと同等かそれ以上に多い。
彼らの協力が得られれば、イネガシアの栽培も不可能ではないとオードは考えたのだった。
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