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人魔都市編
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しおりを挟むレオンが頼ったのは学院時代からの友、オード・マグナガルである。
場所は王都にあるオードの屋敷であった。
学院を卒業した後、正式にマグナガル家の当主となったオードは王都内に三軒の屋敷を持ち、そのうちの一つを本宅として使用している。
レオンが訪れたのはまさにその本宅であった。
屋敷の門を叩くと使用人が顔を出し、レオンを見て少し嫌な顔をした。老齢の男の使用人だった。
「当家に何か御用でしょうか」
言葉遣いとは裏腹に冷たく感じ取れる声色で聞く使用人にレオンは用件を伝える。
事前に伝令用の使い魔を飛ばしてオードと約束はしているはずだが、使用人は
「確認しますので少々お待ちください」
というと屋敷の中に引っ込んで行った。
手持ち無沙汰になったレオンは屋敷の外観を改める。
正門やその奥にある玄関、庭とどれをとっても高級そうな出立だった。
レオンは自らがクルザナシュに作った簡易的な小屋を思い出し、「あれでは貴族の屋敷とは言えないな」と心の中で思った。
再びオードの家の扉が開き、使用人が顔を覗かせる。先程とは別の使用人だった。
歳はレオンよりも多少上だがまだ若く、レオンを見ても浮かべた笑顔を崩さなかった。
「お待たせして申し訳ありません、ハートフィリア様。当家の主人がお待ちです。どうぞ、ご案内致します」
若い使用人はそう言って扉を開け、レオンを中に招き入れる。
屋敷の中は外と比べても見劣りすることがない程には豪華だった。
廊下に施された装飾も、室内に飾る美術品の一つ一つを見てもそれが高価な品だとはっきりと分かる。
その光景に圧倒されつつも、レオンは違和感を持っていた。
自分のよく知るオードの姿とその屋敷の趣味が合わないように感じたのだ。
使用人に案内される途中、レオンが階段を昇ろうとした時に声が聞こえてきた。
「……裏切り者の血が当家を汚した……先代様がお知りになったらどう思われるか……」
声は一階の奥から聞こえたようだ。
その声が最初に出会った使用人のものと同じであるとレオンはすぐに気づいたが、目の前を歩く若い使用人には聞こえていないようだったので、レオンも聞こえなかったフリをした。
階段を昇りきり、案内された部屋に向かうとそこにはオードが待っていた。
学院のローブや、戦いでボロボロになった服を着ている彼ではなく、襟のついたシワのないシャツを着た気品のある格好だった。
「やぁ、レオン。待ってたよ」
格好とは違い、いつもと同じ笑顔を浮かべながらオードはレオンを出迎えた。
レオンに椅子に座るように促し、自分も正面に腰掛ける。
使用人が持ってきた紅茶がレオンとオードの前に並べられた。
「ごめんね、ここに入る時嫌な思いをしただろう」
紅茶に口をつけながらオードが謝罪する。
レオンは肯定も否定もしなかったが、頭の中にはしっかりと最初に会った老齢な使用人の姿が浮かんでいた。
レオンを見て顔をしかめたあの男の表情には明らかに侮蔑の意思があった。
「ラックスは父の代から家に仕えてくれていてね、その分平民への差別意識が濃く残ってしまっているんだ」
その言葉でレオンは納得した。
先程の老齢の使用人……ラックスはレオンを平民だと勘違いしたようだ。
アーサーとヒースクリフ。二人の王子が王位を巡ったあの戦いでの活躍により、レオンはヒースクリフから直々に貴族の位を授与されている。
口頭での任命だけでなく、既に正式な契約も交わしているためレオンは公的に貴族となったと言えるだろう。
しかし、その見た目は酷いものだった。
古着店で買ったヨレヨレのシャツに、ツギハギだらけのズボン。
極め付けにクルザナシュ地方での作業のために服はボロボロになってしまっている。
目の前に座るオードの格好を貴族らしいというのならば、今のレオンの格好は平民らしいと言えるだろう。
「そうか、その場に似合った服の重要性を学んだよ」
自分の服装を皮肉るレオンにオードはクスクスと笑う。
「僕はその方がレオンらしくて好きだけどね」
レオンも笑い、二人の間には和やかな空気が流れていた。
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