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新たな国編
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しおりを挟む三日が経った。
その三日のうちで王都では戦いの事後処理が行われた。
朽ちた魔導人形の残骸は魔法研究者達によって回収され、多くの魔法使い達が破壊された街の復興に当たっている。
その全てがヒースクリフの指示だった。
魔法使いでない者達も自らにできる範囲で復興を手伝い、街は少しずつ元の形を取り戻していった。
そして、今日。新たな王を決めるための戴冠の儀式が再び行われようとしていた。
王宮の一室、最上階にある部屋をレオンは訪ねた。
形式通りに扉を数回ノックすると、中から「どうぞ」という声が聞こえる。
扉を開けるとそこには礼装に着替えたヒースクリフがいた。
白いローブに青い線の入った神官服のようなものを着たヒースクリフは、緊張で表情を強張らせていたがレオンの姿を見て幾分か和らいだ笑顔を見せる。
「レオン、来てくれたのか」
ヒースクリフの言葉に、当然だろうとばかりに頷いたレオンは促されるままに椅子に座る。
「お兄さんの具合はどうだい?」
レオンがそう聞くと、ヒースクリフは表情を曇らせて首を横に振った。
第一王子アーサーは魔導人形の特殊攻撃を喰らったあの時から目を覚ましてはいなかった。
他の全ての者達が目覚める中で何故かアーサーだけが。
魔導人形とアーサーの体を調べた魔法使いによれば、アーサーが魔法を使えないことが目が覚めない原因ではないかということだった。
アーサーは今、王宮にある自身の部屋で深い眠りについている。
ヒースクリフにとって、どんな性格だろうとアーサーは家族である。
当然、目の覚めないアーサーを心配に思う心があった。
しかし、アーサーが目覚めなかったおかげで円滑に進んだ部分もある。
まず、魔法使いのほとんどがヒースクリフを支持するようになった。
戦争に負けたアーサー派の者達でさえ、ヒースクリフを次の王として認めたのである。
そこには、敗戦の不利を少しでも受け流そうとする打算もあったのだろうがヒースクリフは元々対立する魔法使い達を罪に問うつもりはなかった。
自分が新たな王となるのに反対しない代わりに彼等の財を没収するなどといった行為をしないと約束し、アーサー派の魔法使い達を味方につけたのだ。
味方と言っても、それは表面上だけの話でしかない。
内心ではヒースクリフのことをどう思っているのかわからない者達ばかりなのだ。
しかし、その表面上の味方がヒースクリフには必要だった。
その理由が現国王のアドルフであった。
洗脳の魔法を解かれたアドルフは状況を理解すると冷たく言い放ったのだ。
「アーサーを処刑しろ」
と。
さらに、自らが王を継続する旨を国中に知らせろと言い出した。
ヒースクリフはこれに反対する。
「お言葉ですが父上……この王都にいる全ての者が父上の続投を望んではおりません。後はこの私に任せ、どうか遠方の友好国で余生を過ごされますよう」
ヒースクリフからそんな言葉が出るとは思ってもいなかったアドルフは呆気に取られる。
そしてすぐにその言葉の意味を理解し、顔を真っ赤にした。
元々ヒースクリフ派だった魔法使い達。
そして、新たに加わったアーサー派の魔法使い達。
さらに、王都で繰り広げられた魔導人形の戦いを見ていた住人達の全てがヒースクリフを支持したのである。
アドルフにはもはやいうことを聞いてくれる味方はいなかった。
こうして、新たな王になるための障害のほとんどを取り除いたヒースクリフは今日、国王となるのである。
「儀式は謁見の間で行うことにした。視覚共有鳥を使って、国中の人達にもその様子を見せる。……レオン、どうか僕の友として、そして新たな王の騎士として隣に立ってくれるかい?」
ヒースクリフの言葉にレオンは頷く。
それを断る理由など一つとしてなかった。
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