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悪魔と人編

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青く光だした魔導人形に向けてレオンは突っ込んでいく。

拳に魔力をためているのはダルブの能力だ。


「レオン、何をする気だ? 無闇に攻撃しても意味がないぞ」


シュドラが警告するがレオンは止まらない。


「大丈夫!」


と叫んで、魔導人形めがけて飛んでいく。


レオンが狙ったのは魔導人形の左胸である。
魔力の流れの中心となっているそこは人間で言うところの心臓部。

魔導人形の核となる場所だった。

レオンはそこにダルブの能力を使って渾身の一撃を打ち込んだ。


魔導人形が魔力障壁を自ら解いたおかげか、レオンの拳は直に魔導人形に届いた。

ビキビキと硬いものが割れる音がして、心臓部を覆っていた殻のような装甲が剥がれていく。


その内側にあった青色の大きな鉱石のようなものが露出した。


「これだ……これがこいつの弱点なんだ」


レオンは魔導人形の胸元の上でバランスをとりながら両足で立つ。

自爆をしようとしている魔導人形はレオンを排除しようとはしなかった。

爆発が開始するその時まで動くことができないようだ。


「これが奴の急所でいるのは確かだろう。だが、どうする? 今更これを破壊してもここに集まった魔力は無くならない。爆発は止められないぞ」


シュドラのその言葉にレオンはまた「大丈夫!」と答えた。

そして、右手で青い鉱石に触れた。


爛々と光る鉱石は魔導人形の魔力が集まる場所である。その鉱石に触れればどうなるか。

今まで魔導人形に流れていた魔力が右手を通してレオンの中に流れ込む。


それは、想像を絶するほどの激痛だった。
腕は焼けるように痛み、レオンの体が魔導人形の青い魔力で包まれていく。


「バカ! 何をしている。他者の魔力に触れるなんて……」


シュドラの声が頭の中で響くが、それに応える余裕はレオンにはなかった。


魔法使いが操れるのは自分の魔力のみである。人間の中には他者の魔力を操作できる得意な種族が存在するものの、大抵の人間にそんなことはできない。

他者の魔力に触れるというのは、魔法を直接の体に喰らうのとほぼ同義である。

そしてそれは相手が生命を持たない魔導人形だったとしても同じだった。


流れる魔導人形の青い魔力はレオンにダメージを与える。

その苦しみに耐えながら、レオンは左腕を空に向けた。


そしてそのまま魔法を放つ。
それはなんでもないただの魔法だった。

痛みに耐えながら明確な魔法をイメージすることはできなかった。

ただ、魔導人形の魔力をどこかに逃すためにレオンは空に向けて魔法を放ったのだ。


青く光っていた魔導人形の魔力はレオンの体の中を通り、レオンの魔力と一体化して空に放出される。

その魔法に名前はないが、レオンの頭上に青白い光が束になって放出されているのをその周りにいた住人達は見た。

その光景はまるで天まで続く、一筋の柱。


「ああ……レナード神のお導きだ」


誰かが言った。
気がつけばレオンと魔導人形の戦いを見ていた住人達は地に跪き、神への祈りを捧げていた。



「レオン、もういい! こんなことをしていたらお前の体が持たない!」


シュドラが叫ぶ。
レオンの体に流れ込む魔力は大きすぎた。

体内に流れ込んでくる魔力ならば悪魔達が頑張れば対抗もできる。

問題なのはレオンが直接触れている右手の方だった。

巨大な魔力に直接触れている右腕は、炎の中に手を入れ続けているようなもの。

火傷のようにレオンの腕を焼き続け、レオンに痛みを与える。


「……大丈夫……これで失うとしても、僕の右手くらいだ……君達には……危害を加えない……」


レオンは額に汗をかきながら虚な目でそう言った。

痛みのせいで今にも気を失いそうだった。

しかし、耐える。

ここで自分が倒れたら、付近にいる住人達に被害が及ぶ。

それだけはダメだと強い意志を持って、立ち向かっていた。


魔導人形が再び雄叫びを上げる。
その大きな体の中に溜まった魔力の何割をレオンは削ぐことができたのか。

爆発まではもう時間がなかった。



「ダメだ……間に合わない……」


シュドラの声が、諦めとも取れる声色で聞こえてきた。

レオンは再び意識を手放しそうになり、すんでのところで踏みとどまる。

魔導人形の体が青みを増し、その光が街中を包み込んだ。


この時の爆音は遠く離れた村にまで響いたと言う。

王都の街は強大な青い光に包まれたのだった。
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