没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます

六山葵

文字の大きさ
上 下
119 / 277
悪魔と人編

319

しおりを挟む

魔導人形は手も足も出せずにいた。
ドリスの能力で出現した燃える岩はレオンの魔力によって強化され、ドリス本人が使うよりも威力が高い。

加えてシュドラの能力によって手に入れた機動力は魔導人形を一人で撹乱できるだけのものであった。

魔導人形の魔力障壁がバリバリと音を立てて剥がれ始める。


周りにいた街の人々は逃げるのも忘れて戦いを見守っていた。

そのうちの一人がこんなことを言った。


「あれは……五年前にヒースクリフ様が倒した悪魔じゃないのか?」


そう言った男は五年前に王都上空で繰り広げられたレオンとヒースクリフの嘘の戦いを見ていたのだ。

戦うレオンの姿はあの時と同じ。
男はそれを思い出したのだった。


その声をきっかけに人々に動揺の声が上がり出した。


「ほんとだ……あの時の悪魔だ」


「なんで悪魔が……」


戸惑うようなその声は人々に伝播する。

明らかに自分達を害そうとした巨大な兵器。

それを止めてくれたのは敵であるはずの悪魔だった。


その事実に誰もが狼狽えた。


そんな中、一人の女性は違うことを言った。


「頑張って……お願い、この街を助けて」


腕の中にまだ幼い少年を抱く女性は先ほどの母親だった。

母親の近くにいた男が彼女を咎める。


「やめなさい、悪魔を応援するなんて……」


「いいえ……やめません。彼が悪魔であろうと、私たちを救ってくれた事実に変わりはないはず。命の恩人を応援している何が悪いのですか」


母親は強く、真っ直ぐな目をしていた。

死を直前に迎え、絶望しかけたその時に現れたレオン。

その姿は母親に希望を与えたのだ。


母親のその声に影響されてか、動揺していた人々の声は次第にレオンを応援するものに変わっていく。



「頼む、お願いだ、アイツを倒してくれ!」


「あんただけが頼りなんだ! 頼む!」


それはあまりにも都合のいい言葉だっただろう。

先程まで敵とみなしていながら、自分達の命を守るために縋り付く言葉だったのだから。

しかし、その言葉は確実にレオンに届いていた。

その言葉達がどんな思いで発されたのかはレオンにはあまり関係ない。


重要なのは彼らがレオンを「悪魔」と認識していながらも「応援」していることだった。


「シュドラ、ドリス、ダルブ……君達には彼らがどう映る? 憐れで滑稽に見えるかい? でも、僕には違うように見える。彼らのほとんどは君達悪魔のことをよく知らないだけなんだ。ここにいる人達が僕を応援してくれているこの光景は、僕にとって悪魔と人間が手を取り生きていく未来の最初の一歩なんだ」


レオンの言葉に三人の悪魔は敢えて返事をしなかった。
ただ、レオンの中から逃げずに応援を続ける人間達を見ていた。



グオオオオオオオと叫び声のような音が鳴る。

魔導人形の周りにあった魔力障壁が全てなくなった。

レオンが削り切ったわけではない。

魔導人形が自ら障壁を取り除いたのだ。

その理由は何か、それは魔力障壁分の魔力を吸収するためである。


魔力を供給する術がなくなった魔導人形は残された魔力で暴れることをプログラムされている。

そのため弱い人間を優先的に狙うような仕組まれていたのだが、最後に一つ残された機能があった。

それは行動を邪魔した者とその周囲の人間を最大限に害する機能。「自爆」である。


魔導人形の体が青く光出した。


「奴の中に魔力が集まり出している。このままでは爆発するぞ」


頭の中で響くシュドラの警告にレオンは頷いた。

状況がやばいことは見ればわかる。
問題はどう処理するか。


「シュドラ、君の能力でアイツをどこか人のいないところに運ぶのは可能?」


レオンの問いにシュドラは難色を示した。

「できるが、私の能力は運ぶものの大きさによって使用する魔力が違う。あんな大きなものを運んだら今のお前の魔力ではギリギリだ。運んだ後、戻って来れずにお前だけ爆発を喰らうことになる」


レオンが一人だけだったらこの作戦をすぐにでも実効していただろう。

他の人を助けられるなら、レオンは自分の犠牲など厭わない。

しかし、今は違う。
レオンの体の中には三人の悪魔がいるのだ。

彼らに共に犠牲になってもらおうと言う気はレオンにはなかった。


「それじゃあ、どうすれば……」

悩むレオン。その解決策は三人の悪魔が導き出してくれた。


「気のせいかと思ったが、あの人形……体内の魔力が流れるように循環しているな」


「そうだね、それに流れた魔力が加速するところがあるよ」


「あの流れ……人間の血液のようなものか。だとすると……」


ダルブ、ドリス、シュドラの三人は直接戦ったことにより、魔導人形の魔力をより鮮明に感じ取れるようになっていた。

それによると魔導人形の中の魔力は全身を循環しているとわかる。

左胸を中心に流れ出た魔力は腕から足先をまでを経由してからまた左胸へと戻っているのだ。

その流れは人間の血液の循環と同じだった。


「つまり……あそこにあるのは心臓?」


閃いたレオン。
魔導人形の体はすでに爆発するには十分なほどの魔力をためていた。
しおりを挟む
感想 187

あなたにおすすめの小説

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

野草から始まる異世界スローライフ

深月カナメ
ファンタジー
花、植物に癒されたキャンプ場からの帰り、事故にあい異世界に転生。気付けば子供の姿で、名前はエルバという。 私ーーエルバはスクスク育ち。 ある日、ふれた薬草の名前、効能が頭の中に聞こえた。 (このスキル使える)   エルバはみたこともない植物をもとめ、魔法のある世界で優しい両親も恵まれ、私の第二の人生はいま異世界ではじまった。 エブリスタ様にて掲載中です。 表紙は表紙メーカー様をお借りいたしました。 プロローグ〜78話までを第一章として、誤字脱字を直したものに変えました。 物語は変わっておりません。 一応、誤字脱字、文章などを直したはずですが、まだまだあると思います。見直しながら第二章を進めたいと思っております。 よろしくお願いします。

【完結】公爵家の末っ子娘は嘲笑う

たくみ
ファンタジー
 圧倒的な力を持つ公爵家に生まれたアリスには優秀を通り越して天才といわれる6人の兄と姉、ちやほやされる同い年の腹違いの姉がいた。  アリスは彼らと比べられ、蔑まれていた。しかし、彼女は公爵家にふさわしい美貌、頭脳、魔力を持っていた。  ではなぜ周囲は彼女を蔑むのか?                        それは彼女がそう振る舞っていたからに他ならない。そう…彼女は見る目のない人たちを陰で嘲笑うのが趣味だった。  自国の皇太子に婚約破棄され、隣国の王子に嫁ぐことになったアリス。王妃の息子たちは彼女を拒否した為、側室の息子に嫁ぐことになった。  このあつかいに笑みがこぼれるアリス。彼女の行動、趣味は国が変わろうと何も変わらない。  それにしても……なぜ人は見せかけの行動でこうも勘違いできるのだろう。 ※小説家になろうさんで投稿始めました

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

病弱が転生 ~やっぱり体力は無いけれど知識だけは豊富です~

於田縫紀
ファンタジー
 ここは魔法がある世界。ただし各人がそれぞれ遺伝で受け継いだ魔法や日常生活に使える魔法を持っている。商家の次男に生まれた俺が受け継いだのは鑑定魔法、商売で使うにはいいが今一つさえない魔法だ。  しかし流行風邪で寝込んだ俺は前世の記憶を思い出す。病弱で病院からほとんど出る事無く日々を送っていた頃の記憶と、動けないかわりにネットや読書で知識を詰め込んだ知識を。  そしてある日、白い花を見て鑑定した事で、俺は前世の知識を使ってお金を稼げそうな事に気付いた。ならば今のぱっとしない暮らしをもっと豊かにしよう。俺は親友のシンハ君と挑戦を開始した。  対人戦闘ほぼ無し、知識チート系学園ものです。

転生前のチュートリアルで異世界最強になりました。 準備し過ぎて第二の人生はイージーモードです!

小川悟
ファンタジー
いじめやパワハラなどの理不尽な人生から、現実逃避するように寝る間を惜しんでゲーム三昧に明け暮れた33歳の男がある日死んでしまう。 しかし異世界転生の候補に選ばれたが、チートはくれないと転生の案内女性に言われる。 チートの代わりに異世界転生の為の研修施設で3ヶ月の研修が受けられるという。 研修施設はスキルの取得が比較的簡単に取得できると言われるが、3ヶ月という短期間で何が出来るのか……。 ボーナススキルで鑑定とアイテムボックスを貰い、適性の設定を始めると時間がないと、研修施設に放り込まれてしまう。 新たな人生を生き残るため、3ヶ月必死に研修施設で訓練に明け暮れる。 しかし3ヶ月を過ぎても、1年が過ぎても、10年過ぎても転生されない。 もしかしてゲームやりすぎで死んだ為の無間地獄かもと不安になりながらも、必死に訓練に励んでいた。 実は案内女性の手違いで、転生手続きがされていないとは思いもしなかった。 結局、研修が15年過ぎた頃、不意に転生の案内が来る。 すでにエンシェントドラゴンを倒すほどのチート野郎になっていた男は、異世界を普通に楽しむことに全力を尽くす。 主人公は優柔不断で出て来るキャラは問題児が多いです。

没落貴族の異世界領地経営!~生産スキルでガンガン成り上がります!

武蔵野純平
ファンタジー
異世界転生した元日本人ノエルは、父の急死によりエトワール伯爵家を継承することになった。 亡くなった父はギャンブルに熱中し莫大な借金をしていた。 さらに借金を国王に咎められ、『王国貴族の恥!』と南方の辺境へ追放されてしまう。 南方は魔物も多く、非常に住みにくい土地だった。 ある日、猫獣人の騎士現れる。ノエルが女神様から与えられた生産スキル『マルチクラフト』が覚醒し、ノエルは次々と異世界にない商品を生産し、領地経営が軌道に乗る。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。