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悪魔と人編

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いつの間にか空が暗く澱んでいた。
夜にはまだ早い。魔導人形の体から漏れ出た魔力が空中に溜まっているのだ。

避難所から飛び出した平民達は我に返り空を見上げた。

レオンが空中に静止している。

レオンの視線の先には大通りに背中をついて倒れる魔導人形がいた。

危なかった……とレオンは心の中で呟いた。

もう少し遅れていたら住民達に危害が及んでいただろう。

間一髪で駆けつけたレオンが拳に魔力を込めて力一杯に魔導人形を殴りつけたのだ。

レオンの拳は魔導人形の魔力障壁に阻まれたが、結果的にはその障壁ごと魔導人形を押し除けた。

しかし、まだ完全に倒したわけではない。

魔力障壁に阻まれた以上、魔導人形本体には傷一つついていないだろう。


ただ、魔導人形を吹っ飛ばした力にレオンは手応えを感じていた。


「これなら……勝てる」


拳を握りしめたレオンは魔導人形が立つのを待った。

レオンがここに来るのに遅れたのも、新たな力を携えてきたのにも理由がある。

話は数分前、魔導人形の特殊な攻撃によってマーク達が気を失った後の話である。

レオン達には見向きもせず、避難所に向かい始めた魔導人形に対してレオンはすぐに攻撃を仕掛けようとした。

それを止めたのはディーレインだ。


「さっきまでのあの大人数でも歯が立たなかったんだ。お前が一人で行っても意味がないだろう」


それは確かに正論だったが、レオンは反発する。


「でも、このままじゃ街の人たちが襲われる! 僕はそれを見過ごすわけには行かない」


レオンはディーレイン達に協力してほしいとは言わなかった。

説得し、協力体制に入ったとはいえ悪魔達に人間を助けるために動く義理がないとわかっていたからだ。

ところが、レオン飲み思惑とは違い悪魔の一人が声を上げた。


「私に考えがある……もちろん、レオンが了承し他の者も協力してくれるというのなら、だが」


そう言ったのはア・シュドラだった。

その言葉を予想していなかったレオンは少し驚いた。
横にいたディーレインもそうだったようで意外そうな顔をしている。


「シュドラ、お前人間に協力するつもりか?」


悪魔の中の一人が声を荒げる。
レオンが名前を知らない悪魔だった。


「イレイヴ、協力というならば私たちはすでにそれをしている。それがドルマ様の命令であったことをもう忘れたか?」


イレイヴと呼ばれた悪魔はシュドラにそう言われて黙り込む。

ドルマの命令でここまで来て、魔導人形と一度は戦ったがまだ全ての人間を認めてはいないのだろう。

頼まれてもいないのに自ら協力するシュドラはイレイヴにとって理解できなかったのだ。


「それで、考えって?」


それ以上イレイヴが反論しないようだったので、レオンは話を戻す。


シュドラは何かを確信したように言った。


「まずは空間に結界を張る。ランザス、頼む」


シュドラは大柄な悪魔に頼んだ。ランザスは不満そうな顔をしていたが、両手を地面につけて結界を張る。

その様子を見てシュドラが頷いた。


「よし、これで一先ずこの空間で抜け出た魂は一時的に存在を保たれる」


シュドラのその言葉にレオンは不思議そうな顔をする。
シュドラがなんの目的でこの空間を作ったのかわからなかったのだ。


「いいか、レオン今から私がこの体を抜け出してお前の中に入る。そうすれば、お前は私の力を使えるようになるはずだ」


その言葉にレオンは五年前のことを思い出していた。
確かに五年前、レオンは取り込んだシュドラの能力を使って魔界から人間界に転移したことがある。

しかし、転移の魔法を使えたのはその一時期の間だけだった。

時間が経つに連れて転移の仕方がわからなくなり、能力を使えなくなったのだ。

そのことをシュドラに伝えるとシュドラはフッと笑った。


「それは私が抵抗したからだ。初めは勝手がわからなかったが、次第にお前の精神に抵抗する方法が分かり始めた。だからお前は能力を使えなくなったんだ……だが、今回は安心しろ。お前の仲間のためにしっかりと協力してやる」


シュドラはそう言ってからディーレインを見た。


「この結界の中にいれば、お前の妹の肉体も保たれるだろう……とはいえ、今私に命令できるのはお前だけだ。お前がやめろというのならば私は従う」


それはディーレインがそうは言わないと分かっての言葉だった。


「ファナの体に危害が加わらないのなら、止める理由はない。やれ」


ディーレインのその言葉を聞いてからシュドラは準備に入った。
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