没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます

六山葵

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悪魔と人編

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無傷の魔導人形を前に魔法使い達の間には幾らかの動揺があった。

その動揺を少しでも落ち着かせようと声を上げたのはアルガンドの賢者、ガジンであった。


「攻撃が当たる直前、魔法障壁のような者が見えた。おそらくそれを先にどうにかせねばならんのだろう」


飛びながら近づいてきたガジンにレオンは頷く。

「魔法障壁って……あれに魔力が宿ってるってことっすか?」


ガジンの近くにいたアルガンドの賢者カールが「うへぇ」という声を漏らす。

見かけは金属でできた人形である。
それが魔法使いのように魔力を操り、魔法を使っているのだからタチが悪い。



「恐らく近くにアレの魔力の供給元があるはずです。そこを止めた方がアイツを倒すよりも早いかもしれない」


レオンの声にガジンは頷いた。


「アルガンドの賢者達よ! 集え、移動するぞ」


ガジンはアルガンドの魔法使い達を集めると指示を出す。

精霊の力を操る彼らならば魔導人形に供給された魔力を辿れる。

ガジンはレオンとの話の中でそれが自分たちの役目だと理解し、レオンも頼った。


ガジン達がその場を離れようとするとそれを阻むように魔導人形が腕を伸ばす。

どうやら魔導人形はアーサーの意思を汲むようになっているらしい。

アーサーが「レオンを止めろ」と思えばレオンに向かい、「魔法使いを逃すな」と思えば逃げようとする魔法使いを追う。

その仕組みにいち早く気づいたのはヒースクリフだった。


ヒースクリフは魔導人形がガジン達を狙って振り下ろした拳の横を浮遊ですり抜け、その奥にいたアーサーを狙う。



「兄上! 悪あがきはやめてください!」


「何が悪あがきだ! ここまできて王位を諦めるなどありえぬ!」


アーサーは立ち向かおうと構えるが、なんの力も持たない人間が魔法使いに太刀打ちできるわけがない。

飛びながら放ったヒースクリフの魔法がアーサーに直撃する。

それは大した威力もない魔力を固めただけの魔法だったが、対抗する力のないアーサーを止めるには十分すぎた。

ヒースクリフとしては敵対しているとはいえ兄であるアーサーを必要以上に傷つけまいという思いが働いたのだが、それを汲み取れるアーサーではなかった。


「貴様……ついに俺を傷つけたな……おとうとという立場でありながら、兄に楯突いたな」


よろよろと立ち上がるアーサーは恨めしそうにヒースクリフを睨む。

ヒースクリフを再び足がすくむような緊張感が襲う。

もう何度その目を見ただろうか。

物心がついてから今日まで何度も見たアーサーの暗い雰囲気。

その雰囲気を纏ったアーサーに意見を言えたことなどなかったかもしれない。

かつてのヒースクリフだったならばここで引いてしまったかもしれない。

しかし、今の彼は違う。
親友であるレオンの無実を晴らし、自らの国に再び帰ってきてもらうために彼は立ち上がったのだ。


ヒースクリフの拳に力が入る。


「兄上……やはり、兄上は間違っている……人は、人には……上も下もない。僕はそれを学院で学びました。確かに、国を動かすためには貴族の力が必要なのかもしれない。でも、その国の直接の原動力となるのは……国の支えとなっているのは平民達です! 彼らの作る作物がなければ我々は飢える! 彼らの作る衣服がなければ我々に着る物はない! 貴族と平民……確かに立場の違う者たちかもしれない……けれど、それは貴族が平民を見下していい理由には決してならないんだ!」



「偉そうなことを言うな!! 無能なお前達は大人しく有能な俺の言うことを聞いておけばいいんだよ!」


アーサーは叫んだ。
拳を振り上げ、ヒースクリフに向かってくる。

それに呼応するように魔導人形が動いた。

いつのまにか魔導人形はガジン達を狙うのをやめていた。

魔導人形に目はないが、もしもあればその視線はヒースクリフに向いていただろう。


アーサーが拳を振り下ろしたのとほぼ同時。それにシンクロするように魔導人形の拳がヒースクリフに向かって振り下ろされた。


ヒースクリフは迫り来るアーサーに気を取られ、魔導人形の動きに気づくのが一瞬遅れた。

その結果、拳はヒースクリフのすぐそこまで迫り来る。

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