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悪魔と人編

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数分後、アーサーはレオン達の前に姿を現した。

供の魔法使いも連れずに、一人で堂々とだ。

魔法が使えるわけもなく、王子という肩書きがなければただの人であるのにも関わらずアーサーは堂々としていた。

その姿にレオン達はほんの少しだけ気圧される。


アーサーは王宮の正門の前で立ち止まった。

門を挟んでアーサーとレオン達が対峙する。

アーサーの視線がまずヒースクリフを捉えて、次にレオン。そしてディーレインへと向けられる。

ディーレインを見たアーサーは一瞬でも目を丸くしたが、すぐに納得したようにフッと笑った。


「なるほどな……どうにも悪魔達の働きが悪すぎると思ったが、そういうことか。悪魔は契約に厳しいと聞いていたが、そうでもないようだな」


ディーレインの姿を一目見て、アーサーは彼が自分を裏切りレオンと手を組んだことを理解した。

すぐに納得できたのはアーサーが悪魔を心から信頼などしていなかったからだろうか。

アーサーが悪魔側と結んだ契約はお互いの利害が一致した上での一時的な物。

もともと悪魔は人間を滅ぼすつもりだったということをアーサーは知らなかったが、五年前の襲撃の件で何かを企んでいることは察していた。

だからこそ、契約がいつまでも続くわけがないと備えられていたとも言える。

とはいえ、少し意外でもあった。
アーサーが幼少期より蓄えた知識は幅広い。
そして、その中には悪魔に関する物もあった。

そのほとんどが伝説じみた眉唾物ばかりではあったが、その中に「悪魔は力の次に契約を重んじる」とあったのだ。

悪魔は一度契約を結ぶとその内容を満たすまで契約を反故にすることはほとんどないらしい。

ここまでのディーレイン、あるいはア・ドルマとのやりとりを経てアーサーは「これはおそらく事実なのだろう」と思っていた。

アーサーが彼らと結んだ契約は「レオンを差出す代わりに自分を王にする」というもの。

レオンを差し出すという部分は一ヶ月前にレオンが王宮に忍び込んだ時に遂行されている。

しかし、アーサーはまだ王になっていないので契約は続いていると言える。

悪魔が契約を破ったという事実だけはアーサーにとって意外な物だったのだ。



「俺もデストロも契約を反故にしたことに対しては負い目がある。全てが終わった後で罰があるのなら甘んじて受け入れよう」


ディーレインはアーサーに向けて告げる。
人間である彼は悪魔のしきたりに従う必要などないのだが、そうしたいと思ったのはディーレインの意思だった。

アーサーはフンっ鼻を鳴らした。
ディーレインへの興味はすでに失せたらしい。

視線がレオン、ヒースクリフに移る。


「それで? 話とはなんだ。愚行を重ねる弟は別にしても、本来ならばお前のような平民が容易に口を利ける相手ではないぞ。さっさっと要件を済ませろ」


アーサーの言葉にレオン達の雰囲気がピリッとする。

レオンを下に見た発言に怒ったのはマークやルイズだけではない。

アルガンドの魔法使い達や、ディーレインも表情を濁した。

この後に及んでまだ地位を盾にするアーサーに呆れたのである。


「兄上、もうやめましょう。この国は腐敗しきっている。平和に溺れ、その身に近づいた危機にも気付かぬまま己の欲望にしか目を向けていない。このままではこの国は終わってしまう」


ヒースクリフがそう訴える。
アーサーは最初から聞く耳など持っていなかった。


「それで? 俺の代わりにお前が王になるというのか? お前に何ができる。幼少の頃よりお前が俺より勝っていたものがあるか? お前にあるのはその魔法くらいのものだ。お前ではこの国の王は勤まらん」


それは幼少期からの慣れのせいだろうか。
ヒースクリフはアーサーに何かを言われると言葉に詰まってしまうのだ。

今回も、続くヒースクリフの言葉はなかった。

その代わりにレオンが声を上げる。


「そんなことない! ヒースは変わった。今では誰よりも人のことを考えているいい奴だ。あなたや今の国王のような傲慢な態度ではこの国の腐った部分が見えなくても当然でしょう。でも、ヒースは違う。彼なら、きっと今からでも国をいい方向に変えてくれる。僕はそう信じてる」


レオンの言葉の中には明らかに国王とアーサーを批判する意思があった。

国から追いやられ、家族と離れ離れにされたのだからそこに批判の感情が伴っても仕方がない。

場所が場所ならばレオンは不敬を罪に問われたのだろうが、今は関係ない。

アーサーに味方できる者はいない。
レオンに対抗できる者ももういない。

しかし、その状況だったからこそレオンの言葉はアーサーを怒らせた。


「平民が……舐めた口を……。お前らのその態度が気に入らないのだ……魔法使い共。お前らは『もう勝った』と思っているのだろう。だがな……俺にもこういう奥の手があるんだよ!」


アーサーが右手を上げる。
地響きが鳴り、地面が揺れる。


「なんだ……?」


「おい、何かに捕まれ! 普通じゃないぞ」


ヒースクリフ派の魔法使い達は地面に伏せ、揺れに備える。

レオンは地面に手をついた。
鳴り響く音は地面の底から聞こえてくるようだった。

手で触れるとよくわかる。
振動がジョジョに強くなっていることに。



「皆逃げろ! 下から何か来る!」


レオンが叫ぶのとそれが姿を表すのはほとんど同時だった。

一見するとそれは土の塊のように見える。
しかし、よくよく見るとそれが何かしらの金属でできていて、人の形をしているとわかる。

ただ、大きい。
それはレオンの頭など優に飛び越えて、さらには王宮の正門を破壊してグングンと上に昇っていく。

地面から飛び出したそれが足を着く頃にはその全長は王宮の建物と変わり無いほどには大きくなっていた。


「古代の兵器……魔導人形だ! 貴様ら魔法使いが束になっても敵わぬ最強の武器。戦いはまだ終わってないぞ!」


錆だらけの大きな人形の足元でアーサーが叫ぶが、魔導人形の大きさに呆気に取られていたためにその声を聞いている者は一人もいなかった。
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