没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます

六山葵

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二人の王子後編

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ア・ドルマの話を聞いていたレオンは少なからず動揺していた。

人間が精霊を捕まえ始めた時代があったことは精霊王からも聞いていて知っていたが、そんなにも酷勝ったとは思っていなかったのだ。

「人間を好きだ」と言ってくれた精霊達はどれほどの辛い状況を乗り越えてその言葉を伝えてくれていたのか。

今になってその本当の意味がわかる。

ア・ドルマが人間を滅ぼそうと思った理由はよくわかった。

しかし、レオンにも引くことができない理由がある。


「文献の話は事実だと思う。でも、それがいま生きている僕達も同じだという話にはならないはずだ。僕達はそんな過ちを決して犯さない」

レオンは言った。
それは確信を持って言っているようでもあって、これから先の自分に対する宣言のようでもあった。

悪魔が裏で糸を引く二人の王子の王位を巡る争い。もしもそれにヒースクリフが勝利し、彼が王になればレオンは自分に貴族の位を貰えるように頼むつもりだった。

それが学院に入流前からのレオンの目標であったし、悪魔と共存していくには安全な土地が必要になる。

貴族になって領地を貰い、そこに陰と陽で満たされた世界を作るつもりだった。

その土地に住む者は悪魔であれ、人間であれ皆等しくレオンの領民となる。

そうなればどんな脅威が迫ろうとも命懸けで守る覚悟をレオンは持っているのだ。


「本当にそうか? 文献は確かに古い。今いる人間は漏れなく全てその文献よりも後に生まれた者達だろう」

ア・ドルマは「しかし」と言葉を続ける。

「しかし、我は今の時代の人間達もよく観察したのだ。文献の作者が使ったものと同じ魔法でな」


他世界を覗き見るという魔法はそれほど難しいものでは無かった。

文献にはその魔法が事細かく記されていたし、ア・ドルマは元々悪魔の中でも強大な魔法使いだ。

その魔法でア・ドルマは絶えず人間界を観察した。


「どこの国も同じだった。国王が私腹を肥やし、それを支える貴族達もまた己の利益のためにしか動かない。そう、ディーレインの故郷がそうであったように」


ア・ドルマはディーレインを見た。
ディーレインという悪魔に対して親和性の高い肉体を持つ存在を見つけられたのも世界を覗き見る魔法のおかげだった。

はじめ、ア・ドルマはディーレインを信頼などしていなかった。

他の多くの人間達と同じく、自分に利益があればどんな非道なことでもする悍ましい生き物だとさえ思っていた。

しかし、彼は違った。
どんなにボロボロになり、死の淵を彷徨っても彼は自分の妹と仲間達を探し続けたのだ。

その姿を見て、ア・ドルマは胸を打たれたといってもいい。

肉体のことが無かったとしても助けの手を差し伸べていたかもしれないと思うほどにはディーレインのことを認めている。


「お前達人間の全てが他者を害そうとする種族ではないことはわかっている。このディーレインのように……あるいは、レオン……お前のように」


その言葉にレオンは目を見開く。
ア・ドルマの口からそんな言葉が聞けるとは思っていなかった。


「エレノアが作り出した肉体に、ファ族の魂を集結させてできた高貴な精神。なるほどな、確かに立派な人物になる材料は揃っている。ただ、貴様はそれだけではない。そこにしっかりと自分の意思を持ち、一人の人間として立派な男になったと言っていいだろう。奴が肉体の主導権を手放すわけだ」

ア・ドルマは本当に嬉しそうに言う。
ディーレインと同じように心からレオンのことを認めている様だった。


ア・ドルマにとってファ・ラエイルは親友ともだった。

意見がぶつかり、お互いがお互いを殺すつもりの戦いを行ったがそこに恨みの感情はない。

人間を全滅させるか、それとも共存を選ぶか、戦争が始まる最後の最後まで答えは出なかった。

どちらが正しいかなど誰にもわかるはずもなく、自分こそが正しいのだと信じて戦うしかなかっただけだ。

その戦いでそれまでの全てが憎しみに変わるほど二人の関係は浅く無かった。

そんなア・ドルマにとってレオンはまさにファ・ラエイルの息子のような存在に感じた。

髪の色や瞳の形と言った肉体的な特徴だけでなく、一見すると甘い戯言のような考えを臆面もなく口に出すその精神性まで似ている。

レオンの姿にかつての親友の面影をどうしても見てしまうのだ。


「ア・ドルマ……個人では認めている人間もいるというのなら、もう一度だけ考え直して欲しい。その個人を……僕を信じて欲しいんだ」


レオンの懇願はア・ドルマに届いていた。
それは、心の奥底にある最も感情的な部分に伝わったはずだ。

しかし、ア・ドルマはそれを理性で押さえつけていた。


「無理だな……。お前一人では信用に値しない。個人個人は尊い精神持っていたとしても人間は他者に流される生き物だ。大勢集まれば他種族を忌み嫌い、排除しようとするのはわかりきっている」


「そうかもしれない……でも、僕が守る! 仲間と共に力を合わせて、悪魔が安心して暮らせるようにする……だから……」


「無駄だと言っているだろう。貴様のことを認めてはいても、やはり貴様の言うことは理想論にしか思えない……それに、お前の仲間とやらに関しては信用すらできないのだからな」


頑ななア・ドルマに尚もレコンは食い下がった。


「僕の仲間は信用できる! 絶対に悪魔を傷つけたりはしない!」


そう宣言したレオンの言葉にア・ドルマの眉根がぴくりと動く。


「ほう……?」


興味深そうにア・ドルマが言った。
明らかにその場の空気が変わった。


「では、試してみるか?」

ア・ドルマはそう言って指をパチンと一回鳴らした。
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