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二人の王子中編
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しおりを挟む「おい……」
ディーレインの声が低く響いた。
視線の先には跪いたままのレオンがいるが、返事はない。
「おい、死んだのか?」
二度目の問いでようやくレオンは返事を返した。
「……生きてるよ」
「そうか……」
返事を聞いた後もディーレインは返事をしなかった。
レオンは疑問に思う。
全身から血がドクドクと流れ、震えるくらいに体は冷たいのに何故だか頭は冴えていた。
「トドメを……刺さないの?」
「刺して欲しいのか?」
「いや……」
フフッとレオンは思わず笑ってしまった。
大怪我を負い、もはや死んでいてもおかしくないくらいの状況なのにその傷を負わせた相手と冷静に話しているのがどこかおかしかったのだ。
「気が変わった。まだ殺さないことにする」
ディーレインはそう言うと魔法を解除した。
影のナイフが空気中に溶けて消えていく。
ナイフが無くなると不思議なことにレオンの傷跡が少しずつ塞がっていった。
「これは……?」
レオンは自分の肉体に起きた現象に戸惑いが隠せない。
代わりにディーレインが答える。
「悪魔の魂を肉体に入れたおかげだな。魂と肉体が強く結びついて、回復力が上がっているんだろう」
「魂との結びつき……」
ディーレインは自分の腕を確かめるように手を閉じて開く。
「俺もデストロと融合してから体に変化が生じた。お前のその回復力も変化のせいだろう。俺の攻撃を受けても死ななかったのもそれが理由かもな」
ディーレインは頭の中「いや……」と自分の言葉を否定した。
「こいつが生きてるのは決して折れることのない信念の賜物か」
と思い直し、もう一度レオンの方を見た。
レオンは何故突然ディーレインが攻撃をやめたのか分からず戸惑っているようだが、これはチャンスだと思い直した。
説得するならばここしかない、とばかりに意気込んで立とうとする。
しかし、力を入れたはずの右足がふにゃりと曲がりそのまま地面にへたり込んでしまう。
傷は塞がっていても流した血は元に戻っていなかった。
つまり、貧血状態である。
「ちっ……立てねぇのか。」
ディーレインは吐き捨てるようにそう言うと右手でレオンのローブの襟元を掴み引き上げる。
ふわりとレオンの体が浮いた。
ディーレインはレオンを持ち上げたまま歩き出す。
レオンは借りてきた猫のように抵抗しなかった。
体に力が入らないため、抵抗したくてもできないというのが正しいか。
「あの……どこに?」
恐る恐ると言った様子でレオンが問う。
ディーレインはレオンを殺そうとしていたのだ。
それが何故か一人だけ納得したような顔になって急に態度を変えた。
レオンでなくても疑問に思うだろう。
「……王宮の地下だ。そこに用ができた。」
ディーレインはぶっきらぼうにそう言った。
彼自身、何故自分がこんな行動をとっているのかまだ分からない部分が多い。
ただ、思いついてしまったことがある。
それを実践する前にレオンを殺すことは今となってはもうできない。
「……協力する気になったってこと?」
聞くべきか聞かぬべきか少し迷って、結局レオンはそう聞いた。
戦闘行為を急にやめ、自分が怪我をさせた相手を運んでいるこの状況。
どんな理由かは分からないが、ディーレインが考え直して協力する気になった以外レオンには考えられなかった。
ディーレインはその質問には答えなかった。
代わりにレオンの体がフワッと浮いた。
「ぐはっ……」
ディーレインがレオンを放り投げたのだ。
突然のことで体が動けず、レオンは受け身も取れなかった。
しかし、それほど痛くもなかった。
ディーレインがレオンを放り投げたのは学院の広場にある芝生の上だった。
フサフサの草がクッションになり、衝撃を吸収したらしい。
「何をするんだ」とディーレインに訴えかけて、レオンは言葉を紡ぐ。
黒い剣がレオンの喉元に当てられていた。
ディーレインが影の魔法で作り出したものだ。
レオンを放り投げてすぐにこの魔法を作ったのだから驚くほどの早業だと言える。
「勘違いするなよ。俺とお前はまだ敵だ。だから黙って吊るされてろ」
ディーレインはそう言うと影の剣をしまい、今度はレオンの腰を抱えて再び歩き出す。
「お前の答えを聞かせてもらう。」
最後にディーレインがそう言ったのをレオンは言われた通り静かに聞かていた。
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