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二人の王子中編

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競技場の地面には大きな穴が空いていた。
ディーレインの凝縮した魔力が一気に放出され、爆発となり、その爆発が地面を抉ったのである。

後一メートル深く地面が掘られていれば、学院の地下施設を隔離するための鉄の箱が露出していただろう。

立ち上る煙は黒煙と砂埃が混ざったものだった。

眼前にできた穴を凝視しながらディーレインは煙が晴れるのを待った。

レオンの魔力はまだ感じる。それは、レオンがまだ生きていることを示している。


「しぶとい奴だ」

吐き捨てるように言う。
怒りはまだ治っていない。

この怒りの根源が何なのか、ディーレインはまだ気付いていなかった。

最初はレオンの甘さに対する怒りだと思っていた。

しかし、それだけではないような気もする。

自分の王位のためならば何でもするアーサー王子。彼の行動にもイライラする。

それを止めに来たヒースクリフにも。

八人の悪魔にも、ヒースクリフを手助けする魔法使い達にも、目に入るよ全てのものに怒りが煽られる。


「クソ……さっさと終わらせてやる」


まだ立ち上る煙の前でディーレインは魔法を構築し始める。

レオンが見えなくても関係ない。生きているのならば姿を見る前に息の根を止めるつもりだった。

もう一度対峙すればこの理由のわからない憤りが限界に達すると直感しているのだ。


両手に集められた魔力はぐるぐると空気中で混ざり合い、黒く変色していく。

やがてそれは影となった。

影の魔法は悪魔が得意とする傾向にある。

魔力を変質させて生み出された影は自分の言うことを何でも聞く下僕となったり、強化された武器になったりする。

影は決して壊れず、消えず、絶えず自分の後について来る存在。

それ故に魔法使いのイメージと直結しやすく、作られる影の強さも使用者の力量次第で変わりやすい。

ディーレインが生み出した影は最初は彼の姿を纏っていた。

ディーレインが指を振ると影は無数に散らばり、一本ずつナイフに変わる。


影でできた無数のナイフ。
ディーレインが操作すればナイフは一斉に煙の中に向かって飛んでいく。

煙の中が見えず、レオンの位置がわからなくても広範囲に投げつければどれかは当たるだろう。

一本でも当たれば使用者のディーレインにはわかる。

当たった所に残りのナイフを向かわせてレオンを確実に仕留めるつもりだった。


「お前が消えれば、俺の野望を邪魔する奴はいなくなる」


その言葉と共に無数のナイフが煙の中に飛んでいった。

ザクッという感触が魔法を通してディーレインに伝わった。

ナイフのうちの一つがレオンに当たった感触だった。


「そこか」

ディーレインは魔法で残りのナイフを操り、煙の中の手応えのあった所に向かわせる。

全てのナイフが突き刺さる感触。

ディーレインは勝ちを確信した。

どれだけ豊富な魔力を持っていても、巧みな技術があったとしても……悪魔に作られた存在だとしても、その肉体は人間のもの。

無数のナイフに突き刺されて生きているはずがない。

風に乗って煙が晴れていく。

ディーレインはレオンの死に目を見ようと思った。

息通りの正体はわからずとも、レオンの最後は見届ける必要がある。


「……バカな」


レオンは生きていた。
穴の中心で膝をつき、身体中から血を流して苦しそうに息をしているが、確かに生きていた。


「バカな、どうやって……」


レオンが魔法を使った形跡はない。
魔法が発動していれば、魔力の動きでディーレインは気付く。

その魔力の動きがなかったからディーレインは勝ったと確信したのだ。


「お前……なぜ死なない。何をした……」


ディーレインはあからさまに狼狽えた。

目の前にある息も絶え絶えのレオンに不気味さを感じて、少しばかりではあるが恐れが生まれたのだ。

ディーレインの問いにレオンは答えた。

「僕は……死ねない。君とも……戦え……ない……皆が、信じているから……僕たちが共に生きられる……未来を」


か細い声だった。
力なく、途切れ途切れで、振り絞って出したのだとわかる声。

なんてことはない。生きていたのは偶然だ。偶然ナイフの当たりどころが良かっただけだ。

そう思おうとしたが、ディーレインにはできなかった。

か細いながらもそこには確かに強い意志があった。

信念を曲げない強さが眼に宿っていた。

この眼を知っている。

ディーレインは思った。

憤りの正体がわかったような気がした。
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