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二人の王子前編
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しおりを挟む扉の音にダレンもクエンティンも顔を向ける。
「ようやく来たか……ってわけじゃなさそうだな」
「まぁ、彼ならノックせずに入って来れるだろうしね」
王冠を持って入ってくるはずのヒースクリフを待つ二人は互いに顔を見合わせる。
わざわざノックをする相手に不信感を抱いたからだ。
今が平時ならば来客なんて変わったことではない。
なにしろここは魔法具を扱う店なのだから。
しかし今は戦闘の最中。わざわざここに訪ねて来てノックをする人物がいるとは考えづらい。
ダレンとクエンティンが何かしらの罠を警戒するのは当然だった。
「俺が出よう」
ダレンはそういって立ち上がり扉の前まで歩く。
足音を極力殺して、外の様子を伺おうと耳を立てている。
二回目のノックが鳴り響いた。
声はしない。
ダレンは覚悟を決めて扉に手をかける。
開けた先にはアーサー派の魔法使い達が待ち構えているかもしれない。
もしくは悪魔達か。
クエンティンは椅子に座ったまま杖を抜き、ダレンはそんなクエンティンに頷く。
いざ、扉を開けようとした時外から声がした。
「あの……ルイズさんのところに配置されていたシュナウドです。ご報告に来ました」
その声を聞きダレンとクエンティンは胸を撫で下ろす。
確かにルイズが指揮を取る陽動部隊の一人にそんな名前の新兵がいたはずだ。
学院を卒業したばかりで経験は乏しいが「力になりたい」と意欲的に参加してきた人物だったはず。
ダレンはため息をつきつつ扉を開ける。
扉の前に若い魔法使いが一人立っていた。
走って来たのか肩で息をしている。
「ハァ……お前な、まず名前を言えよ。ノックだけだとこっちも警戒するだろ……」
言葉の途中でダレンは目を見開く。
ダレンの背中に隠れていたためクエンティンは反応が遅れた。
ダレンは目の前の新兵、シュナウドを庇うように覆い被さり扉の前から姿を隠す。
「ウォルス! 伏せろ!」
ダレンの声に遅れてクエンティンが反応し、机の下に身を屈める。
爆発はクエンティンのすぐ側で起こった。
建物ごと巻き込む大きな爆発だった。
クエンティンは吹き飛ばされた衝撃で頭を打つ。
ダレンはシュナウドを庇いつつ右手をクエンティンに伸ばした。
伸ばされた手から魔法の鞭が飛び出し、クエンティンの体に絡みつく。
ダレンが腕を引くとクエンティンが引き寄せられてダレンの下まで来た。
ダレンはそのまま魔法で落ちてくる瓦礫を退けながらなんとか外に脱出する。
「おい、ウォルス大丈夫か?」
ダレンが声をかけるとクエンティンは低く唸った。
頭から血を流しているが気を失っているわけではないようだ。
空な目になりつつも、しっかりとダレンの方を見てにこりと笑う。
「君ね、貴族としての階級は上でも後輩なんだから。呼び捨てはやめてってば」
ダレンはクエンティンの安否を確かめてホッとした後、今度はシュナウドの方を見る。
膝をつき、突然のことに放心しているが大きな怪我はしていないようだ。
シュナウドの肩に手を置き、ダレンが落ち着くようになだめる。
「どうやら尾けられてたみたいだな。怪我はないか? ちゃんと呼吸しろ」
ダレンの声かけでシュナウドは少し落ち着いたようだ。
しかし、今度はガタガタと震え出した。
放心した状態から解放されたことで恐怖が生まれたのだろう。
「痛っ……あーあ、血が出てるや」
その間に衝撃から回復したらしいクエンティンは立ち上がり、自分の額に手を当てている。
クエンティンは文句でも言いたげに目の前に立っている男を見る。
「えーっと、確かバルドルト侯爵様か」
魔魔堂を襲ったのはアーサーの側近、バルドルト侯爵だった。
彼は悪魔達とは別行動でヒースクリフを追っていたがその途中でシュナウドを発見し、必死に逃げるその姿にきな臭さを感じて後を追って来たのだ。
「貴様は確か……ウォルス家の……それに第二王子の腰巾着まで。どうやら私の勘は鋭かったらしい」
瓦礫の前でボロボロになった二人を見てバルドルトは言う。
彼の放った火球の魔法は机の下に伏せたクエンティンの真上で爆発した。
その威力は凄まじく、魔魔堂をもはや店とは呼べないくらいに解体している。
それほどの攻撃を受けてもクエンティンが無事だったのは運が良かったと言うしかない。
後は咄嗟にクエンティン自身が張った防御魔法の力だろうか。
「王宮勢力屈指の実力派だ。悪魔ほどじゃないが、手強いぞ。ウォルス、戦えるか?」
シュナウドを解放し終えたダレンがクエンティンに聞く。
クエンティンは愚問だとばかりに鼻で笑った。
「リタ婆から預かってる大切な店をこんな風にされたんだ。弁償だけじゃ済ませないよ」
そう言って杖を構えるクエンティンの言葉には珍しく怒気が篭っていた。
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