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二人の王子前編
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しおりを挟む「あぶない!」
叫んだルイズは手を伸ばし、一人の魔法使いを突き飛ばした。
その魔法使いの背後に敵が忍び寄り、不意打ちで命を刈り取ろうとしていたのだ。
間一髪。まさにそんな感じで振り下ろされた刃の魔法は倒れた魔法使いとルイズの上を通り過ぎた。
ルイズはすぐに身を起こし、助けた魔法使いを抱えて距離を取る。
「大丈夫ですか? ここは私に任せて、あなたはダレンのところへ向かってください」
突然のことに萎縮してしまったのか、ガタガタと震えている魔法使いは辛うじて頷く。
ルイズの目から見てもかなり若い魔法使いだった。
まだ学院を卒業したてなのではないかと思えるくらい。
勇ましく戦いに参加したはいいものの、まさか自分が襲われるとは思ってもいなかったのだろう。
ルイズはその魔法使いが離れるまで敵から目を逸らさないようにした。
つい先程までこの場所に敵の姿はなかった。襲撃者は突如として現れたことになる。
「転移魔法……あながア・シュドラね」
ルイズは目の前に立つ襲撃者……ア・シュドラを睨みつける。
彼女のことはレオンから聞いている。
五年前の王都襲撃の首謀者で、転移魔法を持つ実力者。
五年前は学院の女教師、アイリーン・モイストの体を乗っ取っていたらしいが今のシュドラはまるっきりの別人である。
小柄で可愛らしい顔をしているものの、そこに作り出される表情は酷く不気味にも見える。
何より、彼女が持っている武器。
魔法で作り出された両手持ちの大きな鎌が邪悪さを強調しているようにルイズには見えた。
「いかにも、私がア・シュドラだ。我が主君の命により、お前達を殲滅する」
そう言ってア・シュドラは鎌を構える。
当然ながら交渉の余地はない。
走り出したシュドラに合わせてルイズも迎え撃つ。
振り下ろされた鎌をルイズは体を後ろに反らせて避けた。
鎌の切先がルイズの前髪を数本、はらりと落とす。
ルイズは怯まずに両手に魔力を集め縄のようにして、避けながらそれをシュドラに絡ませる。
縄はシュドラの両足を絡め取り、動きを封じようとする。
シュドラはすぐにその縄を切り落とした。
「小賢しい真似を。力では勝てないから小細工か」
切られて落ちた縄は地面に溶けるように消えていく。
「おあいにく様、私は色々と考えて戦うのが好きなの……それに、力で勝てないとは言ってないわよ」
ルイズはニヤリと笑う。
その瞬間、シュドラの立つ地面から再び縄が飛び出した。
今度は先程よりも太く長い。
地面から現れた縄はシュドラの体に絡みつき、地面と連結する。
その無数の縄に一時的にシュドラは身動きを取れない状態になった。
「なに!?」
突然のことにシュドラは驚く。
彼女が切り落としたはずの縄は実はルイズの罠だった。
地面に消えていくように見せかけて、ルイズは魔法を遠隔で操作したのだ。
シュドラを拘束している間にルイズは別の魔法を構築する。
極大の水の魔法だった。
大きな渦を巻く水がルイズの前に集まり、真っ直ぐにシュドラは目がて放たれる。
水は身動きの取れないシュドラを飲み込み、竜巻のように大きくなる。
今のルイズにできる最大限の魔法ではあるが、それだけで勝負が決まるほどシュドラは弱くはない。
魔力を高め、一瞬のうちに爆発させてその水の中から抜け出してくる。
「……なるほど。力がないと言ったことは撤回しよう」
ルイズの攻撃はシュドラにとって予想外だった。
まさか人間にこれほどの力があるとは思っていなかったのだ。
しかし、彼女にとって脅威と呼べるかというとそうでもない。
「確かにお前は強いようだ。悪魔の一人や二人なら倒せるかもな。だが……それでどうなる。我らには最強の主君がいる。仲間も多い。お前達に勝ち目はない」
言い切るシュドラにルイズは呆れた顔になる。
「あなた、聞いていたよりもお喋り好きなのかしら。それとも余裕の現れなの? 言っておくけどこっちにだってちゃんと作戦はあるわよ……ほら、さっさと戦う準備をしなさい」
そう言ってルイズは構えるが、シュドラはそれでもまだ呆然としていた。
「なんなのだ……お前達は一体。……人間とは」
立ち尽くすア・シュドラを前にルイズも攻撃を仕掛けずにいた。
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