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二人の王子前編
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しおりを挟む王都の西。大通りの真ん中にヒースクリフ派の魔法使い達が集団で作業をしている場所があった。
手押しの荷車に藁を敷き詰めそれに火をつけている。
そのままでは白くなってしまう煙に魔法かけて黒煙を生み出しているのだ。
「あの……マーク隊長。本当にこんなことをしていいんですか? わざわざ敵に位置を知らせるような真似をして」
燃料となる藁を一纏めにしながら青年が聞く。魔法騎士団のマークの部下だった男だ。
マークは王宮のある方角を見上げている。
ここからでは建物が邪魔をして王宮の詳細な情報はわからない。
しかし、明らかに祭り事とは違う騒ぎが起こっていた。
その様子からマークはヒースクリフが作戦の第一段階を成功させたことを察する。
「いいんだよ。俺たちの目的はレオンとディーレインを一対一にさせることだ。こうして目立っておけば相手の注意を引ける」
そう言うとマークは他の魔法使い達に藁をもっと高く積み、火をさらに大きくするように指示を出した。
「大丈夫でしょうか……敵の、その悪魔に憑かれた魔法使い達が集団で攻めてきたらヤバいんじゃ」
青年は尚も不安そうな顔をしているが、マークは特に気にしている様子はない。
同時に八箇所で黒煙を焚いている今、敵は恐らくこちらの狙いに気づいているだろう。
通常ならば戦力を分散させたりしないだろうが、悪魔は違う。
人間を侮っている奴らなら必ず一人ずつバラけてやってくるだろうという確信があった。
「アイツらの目的はヒースクリフが手にした王冠だ。それをいち早く取り返すなら別れた方が効率的だしな」
二人が話している間にも荷車の上の藁はメラメラと燃えている。
そろそろ衛兵達がこちらへやって来てもいい頃だ、とマークが思っていると
「報告! アーサー派の魔法使い達がこちらへ来ます!」
と見張りに行かせていた者が声を上げて戻ってくる。
よし、とマークは手のひらを拳で叩くと
「お前ら、火はもういいぞ。悪魔は俺が相手をする。お前達は他の衛兵を惹きつけてくれ」
と指示を出す。
その頃には「飛行」魔法を使った敵の魔法使い達が建物を飛び越えて姿を見せていた。
マークは腰に差した剣に手を伸ばし、魔力を溜める。
「やるぞ、ファルトス」
マークの声に返事はなかったが、マークは心の中で気持ちが重なるのを感じていた。
現れたアーサー派の魔法使い達は皆、空中で杖を抜き魔法を構築している。
火、風の遠距離魔法が多い。
その魔法が自分たちに届く寸前までマークは待った。
そして、後少しで魔法が当たってしまうというところで剣を引き抜く。
「炎閃」
言葉と共に繰り出される斬撃。
その剣にはマークが貯めた魔力が込められていた。
斬撃は魔法にぶつかり、それを切り裂く。
切り裂かれた魔法は火に包ままれ燃えていく。
自分の生み出した魔法が燃えるという状況にアーサー派の魔法使い達は戸惑い、動きが一瞬止まる。
しかし、マークの斬撃はそれだけでは終わらなかった。
切り裂いたところから生まれた炎は円を描くように広がり、空中にいる魔法使い達に襲いかかる。
「ぐあっ」
それをもろに浴びた魔法使いが痛みで「飛行」を維持できずに地面に落ちる。
辛うじて交わした他の魔法使いがマークに標的を絞り、追撃しようとするが遅かった。
その時にはすでにマークは飛び上がっており、突きを繰り出していた。
空中で繰り出される突きの連撃。
その一つ一つが炎を纏い魔法使い達を襲う。
マークが地面に着地した頃には襲って来た魔法使い達は皆地面に倒れていた。
「火を消してやってくれ。その後は拘束して後方に……誰も殺すな」
マークが指示をすると後ろで見ていたヒースクリフ派の魔法使い達が倒れたアーサー派の魔法使い達にかけよる。
マークが倒した者の中にもう動ける者はいなかった。しかし、誰も死んではいない。
マークは剣を収め、残党がいないか確認した。
今の中に悪魔がいないことはわかっていた。
悪魔がいればこんなに容易く片付くことはなかっただろう。
もしも第一陣に悪魔がいなかったのならば悪魔はそもそもここに来ていないか、それとも隠れてこちらの出方を伺っているかのどちらかだ。
恐らく後者だろう、とマークは思った。
そして、その読み通りその後すぐに悪魔は姿を現したのだ。
「人間のくせに、なかなかやるようだな」
突如として宙に現れたソイツはマークを見下ろして笑う。
マークは再び剣に手をかけ、来訪者を見上げた。
「総員退避……ここは俺に任せろ」
現れた悪魔から決して目を離さずにマークは告げる。
何が起こるのか理解したその場にいた魔法使い達はすぐに指示通りに避難する。
「よし、遊ぼうか小僧」
そう言って宙から降りてくる悪魔。
マークの前に現れたのはア・ダルブである。
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