没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます

六山葵

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二人の王子前編

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呼びつけられるままにディーレインが向かったのは王宮の謁見の間だった。

入ってすぐ室内が異様な雰囲気に包まれていることに気付く。

その理由は考えるまでもなかった。

中央にある玉座には第一王子アーサーが偉そうに座っている。

その横には本来置かれるはずのないもう一つの玉座がある。

そして、その椅子に座るであろう男に付き従う八人の魔法使いがすぐ側に控えていた。ズラリと並んだ彼らは異様な殺気とも呼べる気配を発している。

その様子に戸惑う様な素振りを見せ、不安の色を並べているのはアーサー派の貴族連中である。

彼らは八人の魔法使い達と対象になる位置に立っている。
人数こそ多いが、そのオドオドとした様子はディーレインからは頼りなく見えた。

八人の魔法使いの殺気に充てられたのか、それともこれから始まるであろう戦いに怯えているのか、あるいはその両方か。

とにかく、両者の間になんとも言えぬ空気の違いの様なものがありそれが異様な雰囲気の正体だった。

いや、それだけではない。

ディーレインはアーサー王子の後方に不自然に並べられた二つの椅子を見る。

どちらも簡素な作りで、玉座の後方に置くには似つかわしくない。

その椅子に座らされた二人の人物は仮面をつけているかの様に感情の読み取れない顔をしている。

現国王のアドルフと聖レイテリア教会の司祭エルシムである。

ディーレインはこの二人がア・ドルマの魔法により感情を奪われ従順な人形となっていることを知っている。

しかし、事情を知らないアーサー派の魔法使い達には突如として無口になったこの二人はよほど不気味に見えるだろう。

彼らの不安を煽った一つの要素でもある。


「ようやく主賓のおでましだ。ほら、みんな挨拶して」


アーサー王子は機嫌が良いらしく、扉を開けて入ってきたディーレインを見るとそう告げた。

アーサー派の魔法使い達はお互いに顔を見合わせてからぎこちなく片膝をついた。

彼らはディーレインの正体が悪魔であることを知らない。

戦争が始まりそうになるや否や急に現れた彼に内心では不信感を募らせている者も多いだろう。

しかし、彼らにとってアーサーは唯一絶対の存在であり逆らうことは許されない。

ディーレインは跪く貴族達を尻目に、中央まで歩み寄ると用意されていた玉座に座る。

ソレに合わせて八人の魔法使い達が膝をつく。

ディーレインの同胞であるシドルト族。その肉体を手にした悪魔達だ。

彼らが付き従うのはディーレインではなく、その肉体の中にいるア・ドルマだが多くの人間が見ているこの場ではディーレインを引き立てることに異論はないようだった。

アーサー派の貴族達とタイミングをずらしたのは決してアーサーの命令を聞いたわけではないという主張だ。


「さて……ようやく準備が全て整った。明日になれば僕もついに国王だ。今日まで、皆には様々な苦労をかけたと思う。まずは皆に感謝を述べよう」

ディーレインが席につくとアーサーは語り出す。
台本でも読むようなどこか感情の籠っていないような声だった。

少なくともディーレインにはそう感じられた。
彼の裏の顔を見て知っているからこそ、余計にそう感じたのだろう。

「僕が国王になることは父と司祭殿も認めてくれた。ねぇ、そうでしょう?」

アーサーが後方を振り返り、アドルフとエルシムに伺う。

二人は瞬き一つせず「はい」と声を揃えて答える。


「茶番だ」とディーレインは思った。
魔法で心を操っているのだからアーサーの思うように返答するのは当然のこと。

それにしたってもう少しバレないように装うことはできたはず。

見るからに異様な二人をアーサー派の貴族達が指摘しないのはそこに打算があるからである。

このままアーサー王子についていけば自分の家は安泰だ、という考え。

もしくは単純に逆らうのが怖いだけか。

その様子にディーレインは苛立ちを覚える。

自分には関係のないことだ。
むしろ、この世界を滅ぼすためにはこのままアーサー王子に踊ってもらう方が都合がいい。

そう頭でわかっているはずなのにディーレインの胸の内はグツグツと煮えるように扱った。

その苛立ちの理由にディーレインは未だ気づいていなかった。
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