146 / 330
星下の修行編
263
しおりを挟む星というのはこんなにも綺麗に並ぶのだろうか。
とレオンは空を見上げながら思った。
ドーム状に作り出された空間は、外を覆う膜が透明で空を見上げれば星がよく見えるのだ。
常に一定の暗さを保つ夜空には先刻ルイズに教えてもらった時を刻む五つの星が並んでおり、その横には無数の星達が散りばめられている。
その中のいくつか、五つの星と連動するように垂直並行を保って輝く星があることにレオンは気付いていた。
「綺麗に」というのはそういう意味だ。
別に、星の輝きに心を奪われていたわけではない。
ただ、まるで人工的に並べられたような星の配置を不思議に思っていたのだ。
レオンはふと、「なるほど」と思い直した。
人工的に並べるというのは間違っていないかもしれないと思ったのだ。
今立っているこの場所が作られた世界で、それが人間界のどこか日の当たらない場所にあるとするならば、今見えている星が作られたものだとしても不思議ではない。
大体にしてレオンは「星」がどういうものか詳しくは知らない。
夜になると現れて、月と共に夜を照らしていることは勿論知っているがそれがどういう理屈でできたものかは知らなかった。
その一つ一つがレオンの存在する星と同じような物だとは考えてもいないだろう。
知っているのは何なんか前に学院の天文の授業で聞き齧った程度の知識だけである。
その時教師はなんと言っていただろうか。
夜空を見ながらレオンは何となく授業のことを思い出していた。
「あの星の一つ一つが偉大な魔法使い達の魔力の結晶だと考えられている」
そう、確か授業ではそんな風に言っていた。
長く生きた大魔法使いが死ぬ時、その体内の魔力は体から抜け出して空に浮かび星となるのだという。
レオンが何故今になってそんなことを思い出しているのかと言えば、それは単純明快に他にすることがないからである。
オードと同じく先にこの空間に入ったレオン。体感時間ではすでに数日が過ぎている。
その数日のほとんどをレオンは瞑想をして過ごした。
それはカナルの指示だった。
レオンがこの空間に入ってすぐ、精霊王カナルはレオンの前に現れたのである。
それはちょうどオードが頭上からカナルの声を聞いたのと同時刻であった。
「さて、他の三人には間接的に指示を出すつもりだが……さすがにお前には直接指導した方がいいだろう」
レオンに対してそう言うとカナルは「分身で悪いが」と付け加える。
レオンの前に現れたカナルは本人というわけではなかった。といっても偽物というわけでもない。
カナルの本体は今も尚空間の外でこの魔法を維持しており、レオンの前に現れたのはカナルが魔法で作り出した精神体のようなものだった。
他の三人は精霊との絆を深め、強くなるというのが修行の目的だがレオンは違う。
カナルの作り出した偽の精霊界のような別空間を作り出さなければならず、それを教えるには精神体を使う方が効率的だとカナルは考えたのだ。
そして、その精神体のカナルが最初に命じた修行が「瞑想」だった。
「これからお前が覚える『空間召喚』の魔法だが、原理はそう難しくない。形は違えど、お前達人間もよく使う系統の魔法と原理は同じだ」
カナルの説明を聞きながら、レオンは学院時代の寮のことを思い出していた。
外から見ればただのボロ小屋に見えたあの寮は中に入るとそうとは思えない広さと綺麗さだった。
綺麗さの方は別の魔法だろうが、広さの方は空間を広げているという点が酷似している。
カナルの言う「人間もよく使う」というのは恐らくそういう意味だろうと思ったのだ。
しかし、似ているといっても規模が違う。
部屋を広くするのと世界を丸ごと一つ作り出すのが同じなわけがない。
それは、単純に使用する魔力の量の問題だろうか? とレオンは疑問に思った。
その疑問にはカナルが答える。
「まぁ、一概には言えないがぶっちゃけると量の問題だな。そもそも、難しいのは陰と陽の魔力を併せ持つ空間を作ることなんだ。どちらか一方の魔力だけの空間を作るなら膨大な魔力を持っていればそんなに手間はかからない」
レオンは何やら考え込むように下を向く。
そして、さらに生み出された疑問をカナルにぶつける。
「ならば、陰の魔力だけを持つ世界を人間界に作り出せばいいのではないですか?」
と。
カナルはその疑問に即答した。
「無理だ」
「え……どうして?」
「世界を作る時、その世界は確かに見えない膜のような物で包まれる。ちょうどこんな感じで」
カナルはドーム状の空間を作り出している透明な膜を指差す。
世界を作り出し、元の世界と隔離する構造上二つの世界を遮断する何かがあることはレオンも察していた。
だからこそあの疑問が生まれたのだ。
人間界という陽の世界の中に悪魔の住める陰の世界を作り出せばいいのではないか、と。
「陰の魔力だけの世界を作ってもその世界は外側から陽の魔力に押しつぶされるからだ」
とカナル。
この説明は二つの魔力の性質の話だった。
陰の魔力と陽の魔力はお互いに引きつけ合うようで、反発し合うようでもある。
陰の魔力だけで作られた世界を人間界に作っても陽の魔力が境界を超えて引き込まれ、最後には陰の魔力を飲み込んでしまうのだ。
それを阻止するために作り出す世界には陰と陽の魔力を同等量作り出す必要があった。
つまり、作り出した世界の中で二つの魔力を釣り合わせるのだ。
そうすると、二つの魔力は一つの陰陽の魔力となり外界の陽の魔力が干渉しなくなるのだという。
「なるほど」
まだわからないことも多かったが、レオンは一先ずの疑問が解消されたことで納得の意を示した。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
7,338
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。