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精霊王の下へ編
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しおりを挟む続いて残っていた二人の精霊の一人がマークの前を飛び回る。
「俺は火精霊のファルトス。あんたの体の中が一番住み心地が良さそうだ。借宿にさせてもらうぜ」
アーティアとは違い口調の乱雑なファルトスだったが、その性格はマークととても相性が良かった。
マークは心良くファルトスを受け入れ、活気のある火精霊はマークの体の中に消えていく。
続いて残った最後の精霊がオードの前に出てくる。
「ぼ、僕は土精霊デークインです。ご迷惑はおかけしませんから、どうか体の中に入れてください」
ファルトスと違い、内気そうな性格のデークインはおずおずと言う。
オードは優しく笑うと
「こちらこそ、君の力がないとこの道を行けないらしいんだ。力を貸してくれるかい?」
と言ってデークインを受け入れた。
こうして三人の精霊達がルイズ、マーク、オードの体の中に入り込んだ。
「レオンは大丈夫なの?」
というルイズの問いに体の中からアーティアが答える。
「ええ、レオンの中には私達四人の精霊の魂の一部を残してきました。それに、もともと悪魔の魂が入り込んでいるレオンの魔力は人よりも私達に近いのです」
その説明に納得したルイズはそれ以上何も言わず、四人は青い花でできた道をまっすぐに進み始めるのだった。
アーティアの言った通り、森に住む精霊達はレオン達に興味をなくしたようだった。
といっても彼らの姿はレオン達には見えない。
森の中に身を潜めているのか、そもそも姿がないのかはわからないがキラキラと光る森が続いているだけで声が聞こえてくる程度でしか精霊の存在を確認できなかった。
その声もレオン達には関係のないことばかりを話している。
「西のオルティカがまた面倒を起こしたらしいよ」
とか
「水辺に住むアンテロイは魚と共生して人間界に住むつもりだ」
とか
他愛のない噂話ばかりであった。
その横を通りながらルイズは体の中のアーティアに問いかける。
精霊が体内に宿っていれば声を出さずとも会話ができるらしく、ルイズが問い掛ければアーティアは必ず返事をくれた。
「気になっていたのだけど、ここは精霊界なのよね? あなたの話ではたしか、精霊界が滅ぶことになって、人間界に移住してきたという話だった気がするのだけど」
ルイズはオルセン侯爵で話していたレオンの説明やアーティアの言葉を思い出したが問いかける。
その説明と照らし合わせてみても、今目の前にしている精霊界が滅ぶとは思えなかったのだ。
精霊達は皆安心して暮らしているように見えるし、空気も澄んでいて荒んだ感じもしない。
ルイズの心の中でアーティアから返事がある。
「厳密にいうとここは精霊界ではないのです。精霊王様が力を行使して作り上げた偽の精霊界。詳しい場所は言えませんが、人間界のどこかに位置する場所です」
その言葉を聞き、ルイズは少し驚くがすぐに納得する。
学院での魔法外地実習などを思い出したのだ。
あの実習では教員達が魔法をかけて土地そのものを変化せていた。
人間にもできるのだから、精霊王と呼ばれるほどの精霊が力を行使すればこれほど立派な世界を作り上げることもできるのだろうと思ったのだ。
「もう一つ聞いてもいい? あなた達の名前、あまり一貫性がないわよね。それにも理由があるの?」
精霊王の住む屋敷までは一本道だが、森に住む精霊達に目立たぬようにレオン達は一言も話さずに歩いていた。
そのため、心の中で会話ができるアーティアの存在はルイズにとってありがたく、自然と話が弾んでしまう。
それは他の二人も同じようでオードもマークも己の中の精霊との会話を楽しんでいた。
本当に無言で歩いているのはレオンくらいだった。
「私達精霊は人間が大好きだと言いましたね。実は私達の名前をつけたのは大抵が人間なんです」
精霊の多くは精霊界が滅ぶ前から人間との交流を楽しんでいた。
それは召喚されて共に戦ったり、人の夢枕に立ったりと様々な形ではあったが必ず人にとって有益な存在であった。
そして人は精霊に名前をつけ、共に戦ったり共に暮らしたりしたのだという。
精霊の名前が悪魔のようにア族やファ族といった部族に分かれていないのはそれが理由だった。
精霊達は人間につけられた名前を大切にしている。
人がつける名前だからこそ皆バラバラで人間と同じように一人一人が違う名前を名乗るのだった。
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