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魔法入門
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しおりを挟むルシアさんとセリーナさん。
二人が村を出ていったのは翌朝の早朝のことだった。
珍しく日が出る前に目を覚ました俺は服を着替えるとすぐに家を出る。
朝食の支度をしていた母親が意外そうな視線をこちらに向けていたが、気にしないことにした。
「あら、トルマさん。来てくださったんですね」
村の入り口の前まで行くと、ルシアさんとセリーナさんが荷物を背負って立っていた。
今まさに出立するところだったようだ。
「間に合ってよかった」と俺はホッと胸を撫で下ろす。
セリーナさんは俺が見送りに来たのだと思ったようだが、俺の目的はそれだけではなかった。
「あの、魔法を学ぶにはどうしたらいいのでしょうか」
それは、一晩考えた末に俺が出した一つの結論である。
剣の道を失い、父の背中を追うことも叶わなくなって途方に暮れた毎日。
何に対してもやる気を見出せず、何もできないことに自己嫌悪すら感じる日々。
そんな中で、魔法は俺に一筋の希望を与えてくれたのかもしれない。
魔法を使えるようになりたい、と俺は確かにそう思ったのだ。
セリーナさんは一瞬きょとんとした顔をして、それからパァッと表情を明るくする。
何も言わなくても喜んでいるのが伝わってきた。
それからセリーナさんは背負っていた荷物を地面に置いてその中をがさごそとかき混ぜ始めた。
そして目当ての物を見つけたのか、それを取り出して「ふぅ」と息を吐いている。
「この本、差し上げます。魔法はどこにいても、誰にでも扱える可能性のある技術ですから、この本を読んで練習すればきっと魔法を使えるようになりますよ」
セリーナさんが差し出したのは例の魔法の基礎について書かれている本だった。
セリーナさんの父親が執筆した物だ。
「いいんですか?」
まさか、本を貰えるとは思っていなかった俺にセリーナさんは「はい」と笑顔で答える。
「魔力の発達分野に関しては間違いのあった本ですが、私もルシアもこの本で魔法を学びました。他の分野の記載に関しては概ね信用できますよ」
聞けば、新しく魔法使いになる人のうち半数以上の人はこの本を読んで独学で魔法を習得したらしい。
もっと高度な魔法を扱うには他の文献が必要になるらしいが、魔法を始めるにはこの本はうってつけだとセリーナさんが熱く語る。
もしかすると、「内容の間違っていた本」という情報だけが印象づけられるのが嫌だったのかもしれない。
「もしも魔法を習得して、それ以上に魔法を学びたいと思ったら王都にある騎士団の屯所を訪ねると言い。私はまだしばらく旅を続ける身だし、君に教えられるほど卓越した魔法使いではないが、王都には優秀な指導員が複数いるからな。君が魔法を学べるように私が手紙を書いておこう」
とルシアさんに言われておれは思わず断ってしまう。
「そんな、そこまでしてもらうのは悪いです。まだ魔法を学んでみたいと思っただけで……俺、そうとう根性のない人間ですから途中で挫けるかもしれません。この本を貰えただけで十分です」
咄嗟に口を出た言葉だが、謙遜をしているわけではない。
俺がもっと真っ当な人間だったなら、好意を受け入れていただろう。
怪我をして、村に戻って来てからの俺は誰の目から見てもクズだったと思う。
それは、俺自身に変わるつもりがなかったからだ。
何に対してもやる気がでない、なんていうのは都合のいい甘えでしかなかったと思う。
そんな俺だから、魔法を習得するまで頑張れるかどうか自信を持てなかったのだ。
しかし、ルシアさんは「それでも言い」と言ってくれた。
「手紙には君の素性と私達が世話になったことを書いておくだけだよ。君が無理だと思ったのならそのまま放っておいて構わない。ただ、私は君を高く買っているんだ。その期待だけは勝手だが受け取ってほしい」
ルシアさんにそこまで言われては断ることはできなかった。
俺はもう一度二人にお礼を言い、それから二人の旅の無事を祈って見送った。
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