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第5章

すみれのダブルデート大作戦③ ~照れと涙と仲直り~

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 午前中の練習を終えて昼休みに入った二郎はこの日お弁当を用意していなかったため、校門を出て目の前の信号を一つ渡ってすぐ近くにあるファミマに昼ご飯の買い出しに来ていた。

 店に入りレジの方を見るとそこにはスポーツドリンクと何かしらお菓子の箱を持ってレジに並ぶ忍の姿があった。

(あれ、忍、一人か?これは声を掛けるチャンスじゃねーか!)

 二郎は声を掛けるタイミングはここだと決意して、急ぎ足でドリンクコーナーから最近なぜかハマっているジャスミンティーとポカリを取り、次におにぎりコーナーではこれまた最近よく食べるワカメご飯、ツナ、鳥五目の三種のおにぎりを掴み急いでレジに並ぶと、ちょうど忍が会計を済ませて店を出るところだった。

 遅れまいと二郎も即座にレジに向かうと、ホットスナックコーナーのファミチキに目を奪われ頭の中で買うか買うまいかを葛藤した末に、この日は買わずに1秒でも早く会計を済まして忍に声を掛けることを重要であると結論を下し、ファミチキを諦めてそのままお金を払い商品を受け取り店を出ると、運良く忍は校門前の赤信号に捕まっており十分追いつける距離にいることを確認した。

 二郎はどう声を掛けたら良いモノかあれこれ考えながらも、この機を逃すまいと歩調を速めて横断歩道の前で一人佇む忍の数歩後ろまで来ると焦る気持ちを落ち着かせるように一息ついた後で声を掛けた。

「ふー・・・・忍、ちょっといいか」

 その迷いや不安が入り混じったその声にドキッとしながら振り向いた忍は二郎の姿を見るやいなや、声を出せずに黙り込んだ。

 忍は昨日の放課後に部活をサボって四葉と姿をくらました二郎に対して怒り以上に嫉妬や落胆、そして二人の関係を疑う不安の気持ちがあり、またここ最近の二人の関係を考えても昨日の今日で二郎が自分に声をかけくるとは考えていなかったため大きな動揺を感じて大きく目を見開いた。

「?!!」

 その反応とジッと自分を見つめてくる忍の顔を見て、二郎も柄にもなく心拍数が高まったせいか、上手く次の言葉を出せずにいた。

「え、いや、あの・・・・・」

 周囲には誰も居らず二人だけの空間の中で、そう長くはない時間を自然と見つめ合っていると二郎が先に我に返り、いつの間にか変わっていた青信号が早くも点滅していることに気付き、おもむろに忍の買い物袋を持たない左手を握り手を引いて言った。

「と、とりあいず、信号が変わる前に渡っちまおう」

「え、う、うん」

 忍は突然二郎に手を握られて頭がパニックになるも、手を引かれて二郎の後についていくこの状況を思いのほか自分が受け入れていることを感じて、掴んだ手を強く握り返していた。

 信号を渡り切ると、二人は自然と歩調を緩めて手を握ったまま再び向き合った。

「ごめん、急に。あの~あれだ。横断報道の前でぼーっと突っ立っているのも変だし、早く渡らなきゃと思ったら、思わずな。・・・おっと、もう手を握る必要はないよな、ごめん」

 二郎が自分の取った行動を謝罪するように話していると、未だに握ったままだった忍の手を放して、どこか落ち着きのないように視線を逸らして言った。

そんな滅多に見られない二郎の姿に自然と表情の緩んだ忍が、少しはにかみながらも普段の調子を取り戻して返事をした。

「別に謝る必要なんて無いわ。手を握られるくらい気にしないわよ。・・・ただちょっとビックリしただけだし・・・それで何かあたしに用でもあるの?」

 また怒鳴られると思っていたところ意外にも素直な返答が帰ってきたことにホッとした二郎が本題を切り出そうと言った。

「そうか、それなら良かった。いや、その、実はな。来週の日曜日って部活が休みだろ。それでたまには息抜きというか、どこかに出かけたいと思っていてな。それであれだ。つまり、映画でも見に行きたいと思っていてさ。それで一人で行くもの味気ないし、お前が気になっている映画があるって言うのをすみれに聞いたから、それならまぁ一緒に行くのも悪く無いかと思っていたところなんだが・・・」

 忍は二郎の話が途中から理解できなくなっていた。なぜなら知り合ってからおよそ2年間の中でも二郎が自ら遊びに誘って来ることなど皆無であり、しかも最近の二人の関係からみてもまずあり得ない展開が巻き起こったため、忍は再びパニックの状態に陥っていた。

 そんな状況で忍は頭を左右にひねりながら戸惑った様子で何とか言葉を返して言った。

「え・・・は・・・つまり、ど、どいうこと?」

「だから、要するに、一緒に映画に行かないかっていう誘いだわ。見たい映画があるんだろう。俺もずっと気になっていたから、折角だから一緒に行こうって言ってんだよ!」

二郎は照れとも恥ずかしさとも言える感情を隠そうと語調を強めて忍の問いに答えた。

 そんな様子の二郎の言葉に嬉しく思う反面、どうして突然こんなことが起きたのか理由が分からず半信半疑でいる忍が二郎の真意を確かめるように言った。

「で、でも、どうして急に。あたし達、最近なんか変な感じだったし。あたし二郎に酷い態度を取っていたし。・・・そんなあたしと一緒に映画を見たって二郎だって楽しくないでしょ。本当にあたしなんて誘って良いの?」

 なにかしら後ろめたそうに話す忍の不安げな言葉にしびれを切らした二郎が我慢しきれずに言った。

「あぁーもうしょうがねーな。別に理由なんてたいしたもんじゃねーよ。俺だっていつまでもこんな状況でいるのは嫌なんだよ。だから、あれだ、つまり、仲直りの証だ。だから、お前が俺の事なんてどうでもイイと思うなら、ハッキリ断ってくれ。俺ももうこれ以上は何もしないからよ。でも、お前も前みたいに戻りたいって言うなら・・・一緒に映画でも見に行くべって言ってんだよ!バカヤロウ」

 忍はこれまで全く知ることのなかった二郎の本心に触れて、今にも泣きそうなほど喜びが溢れた表情になっていた。

 それは二郎が自分との関係を大切に思っていてくれたこと、そして、拗れていた関係を修復しようと二郎自ら動いてくれたことが忍にとって何よりも嬉しく、そして今まで通りの関係に戻れる事への安堵感で一杯になっていたからだった。

「二郎・・・・・うん、あたしも行きたいよ。二郎と一緒に映画を見に行きたい。・・・・ありがとう、二郎がそんなにあたしと仲直りしたいと考えていたなんて思わなかったから、あたし嬉しくて・・・」

「バカ、泣く奴があるかよ。別にたいした話じゃないだろう。ただこのままじゃ面倒くさいと思っただけだわ。それに偶然俺も気になっている映画があってそれで誘っただけだ」

慣れない事を言って急に恥ずかしさが湧き上がってきた二郎は照れ隠しであれこれ言っていると、忍が溢れそうになる涙を堪えながら、嬉しそうに二郎をからかうように言った。

「何をあんた照れているの。もっと素直になりなさいよ。あたしとデートが出来て嬉しいですって。あたしがデートの誘いを受けるなんてそうそう無いんだからありがたく思いなさい。もちろん二郎の奢りだからね。楽しみにしといてあげる♪」

 忍のウキウキワクワクと言った様子が伝わったのか、言葉では反論しつつもとにかく当初の目的である忍を映画に誘うというミッションを達成した二郎は安心した面持ちで返事をした。

「ばーか、デートなんて言ってないだろうが、ただ映画に行くだけだ。勘違いするなよ。それと一とすみれも来るからな。そんじゃ来週の日曜日に4人で映画って事で予定空けておけよ」

「え、すみれと一も来るの?・・・そう、まぁいいわ。初めはこんなモノでしょうし、二人にも心配掛けたし、わかったわ。四人でダブルデートって事よね。うん、予定は空けておくわ」

「そうか。よし、それじゃ腹も減ったし早く体育館に戻るか」

「うん、そうだね」

 そんなこんなですみれが計画したダブルデートは忍の参加が決定したことで実現する事になるのであった。

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