上 下
116 / 189
第5章

成田忍の憂鬱② ~強がりエースとカフェデート~

しおりを挟む
 週が明けて9月16日火曜日。日曜はいつも通り部活に出て、月曜は祝日だったこともあり一日部活もなくゆっくり家で過ごした忍は、本来ならばまるっと一日休みを過ごして気分爽快で新しい週を迎えるつもりだったが、逆に家に籠もることであれこれと悩み耽っていたせいで、先週よりもさらにやつれた青白い顔色に目元に大きなクマをくっきりと作ってすでに2、3日ほど飲まず食わずで徹夜でもしていたかのような酷い状況で登校するのであった。

 忍が教室へ入るとそこにはすでに半分以上の生徒が登校しており、その中にはエリカとすみれ、それに一が楽しそうに話をしていた。

「おはよう、皆」

「おはよう・・・忍。あなたちょっとどうしたの。いつになく酷い顔しているわよ」

 そう声を掛けたすみれに続いてエリカも忍の様子を驚いたように言った。

「ちょっとバスケ部はこの3連休で命がけのサバイバル合宿でもやっていたの。忍から生気を一切感じられないのだけれど」

「ハハハ、エリーもボケることもあるんだな。流石にサバイバルはやってないけど、忍にとってはそれくらいキツい休みだったってことかな。はぁ、忍、この前も言ったけど本当にお前大丈夫か。俺に話すのが嫌ならすーみんでもエリーにでも相談しろよ」

「三人とも朝から何を驚いているのよ。体力には自信あるからこれくらいどうって事ないよ」

 もはや強がりにもならないやせ我慢の言葉を忍が返すと、3人にさらなる心配の感情が押し寄せた。


「いや、そう言う問題じゃないだろ。おい、忍・・・」

 忍は一の言葉が終わる前にすっと自分の席の方に行ってしまい静かに席に座るのであった。

「忍、ずっとあんな感じだったの」

「うーん、土曜日に部活で会ったときも元気無かったんだけど、今日はその比じゃないな。早いところ二郎と仲直りできれば良いんだけどな。何か良い手はないもんかね」

「ねえすみれ、今回の一件が解決したことを話すことも含めて学校帰りにでも皆でカフェでも行こうかね」

「そうだね、たまにはゆっくり忍と三佳も誘って4人でガールズトークでもするのが良いかもね」

 二人の会話に一が頼むと言った目線を向けた。

「悪いな、今回の事では力にはなれそうもないから女子達に任せるよ」

「うん、私らも気になっていたことだし、なんとか話を聞いてみるよ。女子には女子にしか分からない悩み事があるからね」

「そうだな、頼む」

 エリカの言葉に一は少し安心した様子で返事をした。それを見ていたすみれは一を元気づけようと言った。

「大丈夫だよ、一君。女子って本当にどうでも良いことでドカッと落ち込むこともあるし、そのあとすぐにあっさり元気になることもよくあるから、意外とくだらない事で悩んでいる可能性もあるしきっとすぐにいつもの忍に戻るよ」

「そうだな、頼むな、すーみん」

「うん、任せて!」

 すみれのヤケに気合いの入った言葉が響いたところで、それとは対照的なやる気の無い顔をした二郎と相変わらず慌てた様子で三佳が教室へ飛び込んできたところで朝の学校が始まるチャイムが鳴り響くのであった。

 

その日の昼休みエリカとすみれは忍と三佳を集めて4人で昼食を摂っていった。

「そういえば忍と三佳に報告があってね、先週の金曜日にようやく噂を流した犯人を突きとめたのよ。色々とあったけど何とか問題を解決できたのよ。三佳も忍も協力してくれてありがとうね」

 エリカは犯人捜しの際にあれこれとプライベートの事を聞き回ったことを詫びるように当事者である忍と三佳に事後報告として感謝を伝えた。

「いやいや、むしろエリカは何も関係ないのにいろいろと私らのために動いてくれてありがとうね。それで結局どういうことだったの?」

 三佳は探偵役として騒動の解決に奔走してくれたエリカに感謝をしつつ事の顛末が気になって話の先を促した。

「そのことなんだけど、ここではちょっと話し辛いからできれば今日の放課後に皆の部活が終わった後にカフェでも行って4人でゆっくり話でもしようよ。その時に詳しく話すからさ」

 エリカはすみれに目線を送り予定通り騒動の説明と共に忍を元気づける会として4人での時間を作ろうと提案した。

「良いね、私も賛成だよ。折角だしたまには4人でガールトークに花を咲かそうよ。私も話したいことがあるからさ」

 すみれがすかさず合いの手を入れると意外な人物から辞退の声が上がった。

「ごめん、実は夕方用事があって部活後の時間帯は無理なんだよ。ごめんね」

「そうなの、何か急ぎの用事なの三佳?」

 いつものようにホイホイと乗ってくると思っていた三佳の言葉にエリカは少し心配そうに言った。

「うん、ちょっとね。でも、放課後すぐなら1時間くらい大丈夫だけど」

「ごめん、流石に部長の私が部活はサボれないわ。別の日取りが良い日でも私は良いけど」

 忍の言葉にそれもやむなしと一端は思うも、やはり噂で耳にするのではなく直接説明する方が良いと考え直したエリカは何かを思いついたように言った。

「そっか、それじゃ、私が今日は部活を休んで放課後に三佳と二人で話をしに行くから、すみれは部活が終わったあとに忍を誘って今回の事の経緯を話して欲しいんだけどどうかな」

「でも、エリカはそれで大丈夫なの」

「美術部は出席自体にはそこまでキツくないし、一日くらい休んでも問題無いよ。それにすみれも伝えるなら早いほうがいいでしょ。三佳には私からちゃんと伝えておくからさ」
 
「そうだね、分かった。私はそれで良いよ。二人はどうかな」

「私はその方が時間的には助かるから大丈夫だよ。ありがとうね、エリカ」

 三佳は素直にエリカの提案に乗って返事をした。

「私は部活後なら特に予定もないしいつでもいいよ」

「わかったわ。それじゃ三佳は私と放課後に、忍はすみれと部活後にカフェデートって事でよろしくね」

 エリカはすみれにアイコンタクトであとは任せたと視線を送り、すみれもその意図を正しく汲み取ってOKサインとしてウィンクで応えて、一から託された忍元気づけ作戦を決行するのであった。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

機械娘の機ぐるみを着せないで!

ジャン・幸田
青春
 二十世紀末のOVA(オリジナルビデオアニメ)作品の「ガーディアンガールズ」に憧れていたアラフィフ親父はとんでもない事をしでかした! その作品に登場するパワードスーツを本当に開発してしまった!  そのスーツを娘ばかりでなく友人にも着せ始めた! そのとき、トラブルの幕が上がるのであった。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

俺にはロシア人ハーフの許嫁がいるらしい。

夜兎ましろ
青春
 高校入学から約半年が経ったある日。  俺たちのクラスに転入生がやってきたのだが、その転入生は俺――雪村翔(ゆきむら しょう)が幼い頃に結婚を誓い合ったロシア人ハーフの美少女だった……!?

切り抜き師の俺、同じクラスに推しのVtuberがいる

星宮 嶺
青春
冴木陽斗はVtuberの星野ソラを推している。 陽斗は星野ソラを広めるために切り抜き師になり応援をしていくがその本人は同じクラスにいた。 まさか同じクラスにいるとは思いもせず星野ソラへの思いを語る陽斗。 陽斗が話をしているのを聞いてしまい、クラスメイトが切り抜きをしてくれていると知り、嬉しさと恥ずかしさの狭間でバレないように活動する大森美優紀(星野ソラ)の物語

私がガチなのは内緒である

ありきた
青春
愛の強さなら誰にも負けない桜野真菜と、明るく陽気な此木萌恵。寝食を共にする幼なじみの2人による、日常系百合ラブコメです。

可愛すぎるクラスメイトがやたら俺の部屋を訪れる件 ~事故から助けたボクっ娘が存在感空気な俺に熱い視線を送ってきている~

蒼田
青春
 人よりも十倍以上存在感が薄い高校一年生、宇治原簾 (うじはられん)は、ある日買い物へ行く。  目的のプリンを買った夜の帰り道、簾はクラスメイトの人気者、重原愛莉 (えはらあいり)を見つける。  しかしいつも教室でみる活発な表情はなくどんよりとしていた。只事ではないと目線で追っていると彼女が信号に差し掛かり、トラックに引かれそうな所を簾が助ける。  事故から助けることで始まる活発少女との関係。  愛莉が簾の家にあがり看病したり、勉強したり、時には二人でデートに行ったりと。  愛莉は簾の事が好きで、廉も愛莉のことを気にし始める。  故障で陸上が出来なくなった愛莉は目標新たにし、簾はそんな彼女を補佐し自分の目標を見つけるお話。 *本作はフィクションです。実在する人物・団体・組織名等とは関係ございません。

ネットで出会った最強ゲーマーは人見知りなコミュ障で俺だけに懐いてくる美少女でした

黒足袋
青春
インターネット上で†吸血鬼†を自称する最強ゲーマー・ヴァンピィ。 日向太陽はそんなヴァンピィとネット越しに交流する日々を楽しみながら、いつかリアルで会ってみたいと思っていた。 ある日彼はヴァンピィの正体が引きこもり不登校のクラスメイトの少女・月詠夜宵だと知ることになる。 人気コンシューマーゲームである魔法人形(マドール)の実力者として君臨し、ネットの世界で称賛されていた夜宵だが、リアルでは友達もおらず初対面の相手とまともに喋れない人見知りのコミュ障だった。 そんな夜宵はネット上で仲の良かった太陽にだけは心を開き、外の世界へ一緒に出かけようという彼の誘いを受け、不器用ながら交流を始めていく。 太陽も世間知らずで危なっかしい夜宵を守りながら二人の距離は徐々に近づいていく。 青春インターネットラブコメ! ここに開幕! ※表紙イラストは佐倉ツバメ様(@sakura_tsubame)に描いていただきました。

僕が美少女になったせいで幼馴染が百合に目覚めた

楠富 つかさ
恋愛
ある朝、目覚めたら女の子になっていた主人公と主人公に恋をしていたが、女の子になって主人公を見て百合に目覚めたヒロインのドタバタした日常。 この作品はハーメルン様でも掲載しています。

処理中です...