上 下
102 / 189
第4章

人の噂も七十五日㉟ ~舌戦、舌戦、また舌戦~

しおりを挟む
 亜美菜と瞬を犯人と断定したエリカは一呼吸の後、その推理を話し始めた。

「鈴木さん、あなたあの日現場にいたわね。一君の騒動があった現場の近くであなたを目撃した人がいるのよ。それと噂の出所についてはあなたのクラスの男子達から聞いたわ。噂の出所を教えてもらえるように何とか説得したら、忍と三佳の噂に関してあなたの名前を皆が挙げたわ」

 エリカはまず主犯と考える亜美菜に向かって推理をぶつけた。

「それはどうだかね。大人数が居るお祭りの会場でちょっと見かけたくらいで確実に私だってどうやって確認するのよ。余程知り合いの人間じゃなければ普通無理でしょそんなこと。それに噂だって私も他の人から聞いた事を話しただけで、私が情報源って言う証拠にはならないでしょ。こんなことだけで私を犯人扱いするのはやめてもらいたいのだけれども」

 亜美菜は冷静にそしてエリカを睨み付けながら反論した。

「確かにそうかもしれないわね。でもあなたを見かけた子が間違えるわけないわ、だってそれはあなたがよく知る同じクラスの人だからよ」

「ふん、そんな嘘で私を陥れようとする友達甲斐のない子がウチのクラスにいるとは思えないけど」
 
 亜美菜は内心で苛立ちながらも余裕を装ってエリカに答えを求めた。なぜなら、亜美菜はクラスの女子の多くを派閥に引き入れており、また派閥外の女子も亜美菜の報復を恐れて極力関わりを持たないようにしているため、自分を裏切ってまで、エリカ達に協力をして喧嘩を売るような生徒が居るとは思えなかったからだった。

「それはね、宮森さんよ。あなたと宮森さんは何かとクラスでも言い合いになることがあるみたいね。仲が良い友達以上に彼女はあなたをよく見ているし、それこそ他の誰かと見間違えるって事はないでしょ」

 巴の名前を聞いた亜美菜がそこで初めて顔をしかめて舌打ちして当日の記憶を思い出していた。

 あの日祭りに来ていた亜美菜は訳あって会場内を散策していた。そこで場所取りシートが並ぶ一部で何やらざわめきが起こっていることに気がつき野次馬を確認しようと、人々の中を入って行った。すると運良く探し人の一人である一を発見したのであった。そこでは一に謎の女が詰め寄り泣き叫ぶシーンが繰り広げられており、その様子を周囲の人が好奇の目で見守る状況だった。そして、それを見て居た亜美菜は一瞬その対角線上の野次馬の中にいる水色の浴衣を着た女と目が合った気がしてすぐに目をそらした。亜美菜は直感で知り合いの人間に見られたような気がしていた。しかも、それは自分にとって学校生活においてのすみれと並んで最も嫌う天敵である巴のような気がしていた。しかし、普段の巴の姿から想像できない浴衣を纏った様子から確信を持てなかったため再びその姿を確認しようとするも、どうにも落ち着かない亜美菜はその場をすぐさま離れることにした。出来れば一に泣きつく女の正体が誰なのか知りたい思いもあったが、この場では誰かに見られたくないと言う思いが勝り渋々群衆の中に身を隠すことにしたのであった。

「宮森の奴、やっぱりあの時・・・・はぁ、そう、あの女か。まぁ宮森なら仕方がないか。あぁそうよ。私は当日お祭りにいたわよ。でも、だからなんだって言うのよ。私はただ地元のお祭りに遊びに来ていただけなのよ。知らなかったの。私の地元は武蔵村山で私が地元で毎年やっているお祭りに居ても何もおかしくないでしょ。その程度で推理なんて言っているわけ。だったら笑わせないでよ」

 亜美菜は会場に居たことを渋々ながら認めつつも、自分が会場にいたことの自然さを自分の無罪を主張するように言った。
 
「地元のお祭り・・・。そう確かに地元が武蔵村山ならあなたが会場に居ることはなにも不自然ではないわ。でも、一君の騒動の現場にはいたことを認めるのね。それはあなたがその出来事を知って、今回の噂を流すことが出来たことを認めることよ」

 エリカは一瞬とまどいを見せるもこれまでの自分の考えが間違っていないことを確信するように言った。

「確かに可能性についてはその通りね。でも、偶然会場を歩いていたら何だかざわつく様子に気がついて少し様子が気になって近づいただけよ。そんなの普通でしょ。私はあの騒動の当事者が一ノ瀬君だったなんて今知ったわ。それがなんだって言うのよ。そもそも何で私が馬場さんや成田さんの噂話を言いふらす理由がある訳よ。ハッキリ言ってその二人とはクラスも部活も違うし、全く関わりがないのだから普通に考えればそんな相手の興味も湧かないでしょ。さっきからあなたの妄想話が酷すぎてついてイケないわ」

 亜美菜は呆れたようにエリカの話が全くの的外れだと言わんばかりに反論した。

 その言葉に待っていましたと言った表情でエリカが切り込んだ。

「それはどうかしらね、鈴木さん。確かに三佳や忍、それに一君や二郎君とは関わりがないかもしれないけど、そこに居るすみれとは少なくない因縁みたいなモノがあるんじゃないの」

 その指摘に亜美菜はすぐさまごまかすように言った。

「べ、別に私は橋本さんに対して何も思う事なんてないわよ。ただの元クラスメイトで同じ部活の同級生よ。それに今も仲良く文化際に向けて一緒に演奏のグループを組んでいるくらいなのにそんな相手に何をするって言うのよ」

 そのしらを切ったような言葉に、これまで我慢していたすみれが1歩前に出て一言物申そうとしたところでエリカが止めに入った。

「ちょっとあなた!」

「待ってすみれ。当事者のあなたが入ってくると色々と整理がつかなくなると思うから、先に私が話をして、その後に必要あらばすみれが話をして、お願い」

「ふー、分かったわ。とりあえずここはエリカに任せるわ」

 二人のやり取りに亜美菜が不機嫌そうに顔を振った。

「ふん、急になんなのよ」

「鈴木さん、あなたは一年の時からすみれを目の敵にしてきた。それはなかなか自分のグループにすみれが入らない事と、もう一つは自分が片思いしている剛に対して、同じく恋心を抱くすみれを恋敵として嫌っていた。しかも、2年になってからは同じ部活の佐々木君を巡って同じような状況になっているのよね、すみれ」

「まぁ状況はちょっと違うけど、大方そんな感じだと思うわ」

 エリカの問いかけにウンザリしたようにすみれが答えた。

「あなたは剛を諦めるやいなや同じ部活の佐々木君に好意を持つようになった。だけどここでも一年の時と同じような問題が起きた。すみれの存在よ。すみれと佐々木君は一年の頃からクラスも部活も同じく仲が良かった。すみれは佐々木君に恋心を持つような事はなかったけれど、それを見ていたあなたは違う風に二人の関係を受け取った。あなたにとっては剛の時と同じようにすみれは恋敵であり、さらには剛の時と違って1歩も2歩もすみれにリードされていると考えた。そんなこともあって今年に入ってからは異常なほど佐々木君にアプローチを敢行するもなかなか自分に靡いてくれないことに苛ついていた」

 エリカの言葉にこれまで黙って静観していた勇次は参ったような口ぶりで一言言った。

「まぁ確かに鈴木さんとは今年になってから急に仲良くなったかもね」

 その勇次の言葉を聞いてエリカが確信を持って話を続けた。

「そんなこんなであなたはすみれに対して悪感情を抱いていた。あなたは何かしらの方法ですみれをギャフンと言わせたいと思っていた。そんな時に今回の夏祭りが行われたのよ。どういった流れかは分からないけど、事前に知っていたのか、偶然会場で知ったのか、あなたはすみれたちが会場にいることを知り、三佳や忍の告白現場を目撃した。おそらく会場に偶然来ていた五十嵐君にも協力してもらったのか、もしくはあなたの友達と共同してすみれたちの行動を見張っていたのね。それで何かすみれやその友達の三佳や忍の弱みでも握ろうと考えていたところで実際に告白が起こったのよ。それに味をしめたあなたは他にも会場に来ている一君や二郎君の後をつけて同じように現場を押さえたところで、学校ですみれの友人達の噂を流して間接的にすみれに嫌がらせをしようと計画を実行した。五十嵐君の動機は私には分からないけども、さっきの二郎君とのやり取りを見る限り二人には何かしらの因縁があって、それを理由に協力をお願いして二人で今回の噂話の騒動を巻き起こした。これが私の推理よ」

 エリカの推理を聞いたすみれは大きく納得した様に頷いた。その横で二郎が無言で対面する亜美菜、瞬、勇次の反応を伺った。勇次はいまいち話が飲み込めないと言った様子で首を傾げた。亜美菜は苛つくようにエリカを睨んでいた。

 そんな各々がそれぞれの反応を見せたところで、瞬が急に腹を抱えながら笑い出し、これまで溜め込んでいたモノをぶちまけるように大きく呼吸をして話し始めた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

令嬢の名門女学校で、パンツを初めて履くことになりました

フルーツパフェ
大衆娯楽
 とある事件を受けて、財閥のご令嬢が数多く通う女学校で校則が改訂された。  曰く、全校生徒はパンツを履くこと。  生徒の安全を確保するための善意で制定されたこの校則だが、学校側の意図に反して事態は思わぬ方向に?  史実上の事件を元に描かれた近代歴史小説。

校長先生の話が長い、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
学校によっては、毎週聞かされることになる校長先生の挨拶。 学校で一番多忙なはずのトップの話はなぜこんなにも長いのか。 とあるテレビ番組で関連書籍が取り上げられたが、実はそれが理由ではなかった。 寒々とした体育館で長時間体育座りをさせられるのはなぜ? なぜ女子だけが前列に集められるのか? そこには生徒が知りえることのない深い闇があった。 新年を迎え各地で始業式が始まるこの季節。 あなたの学校でも、実際に起きていることかもしれない。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

就職面接の感ドコロ!?

フルーツパフェ
大衆娯楽
今や十年前とは真逆の、売り手市場の就職活動。 学生達は賃金と休暇を貪欲に追い求め、いつ送られてくるかわからない採用辞退メールに怯えながら、それでも優秀な人材を発掘しようとしていた。 その業務ストレスのせいだろうか。 ある面接官は、女子学生達のリクルートスーツに興奮する性癖を備え、仕事のストレスから面接の現場を愉しむことに決めたのだった。

田中天狼のシリアスな日常

朽縄咲良
青春
とある県の平凡な県立高校「東総倉高等学校」に通う、名前以外は平凡な少年が、個性的な人間たちに翻弄され、振り回され続ける学園コメディ! 彼は、ごくごく平凡な男子高校生である。…名前を除けば。 田中天狼と書いてタナカシリウス、それが彼の名前。 この奇妙な名前のせいで、今までの人生に余計な気苦労が耐えなかった彼は、せめて、高校生になったら、平凡で平和な日常を送りたいとするのだが、高校入学後の初動に失敗。 ぼっちとなってしまった彼に話しかけてきたのは、春夏秋冬水と名乗る、一人の少女だった。 そして彼らは、二年生の矢的杏途龍、そして撫子という変人……もとい、独特な先輩達に、珍しい名を持つ者たちが集まる「奇名部」という部活への起ち上げを誘われるのだった……。 ・表紙画像は、紅蓮のたまり醤油様から頂きました! ・小説家になろうにて投稿したものと同じです。

家政婦さんは同級生のメイド女子高生

coche
青春
祖母から習った家事で主婦力抜群の女子高生、彩香(さいか)。高校入学と同時に小説家の家で家政婦のアルバイトを始めた。実はその家は・・・彩香たちの成長を描く青春ラブコメです。

美少女幼馴染が火照って喘いでいる

サドラ
恋愛
高校生の主人公。ある日、風でも引いてそうな幼馴染の姿を見るがその後、彼女の家から変な喘ぎ声が聞こえてくるー

庭木を切った隣人が刑事訴訟を恐れて小学生の娘を謝罪に来させたアホな実話

フルーツパフェ
大衆娯楽
祝!! 慰謝料30万円獲得記念の知人の体験談! 隣人宅の植木を許可なく切ることは紛れもない犯罪です。 30万円以下の罰金・過料、もしくは3年以下の懲役に処される可能性があります。 そうとは知らずに短気を起こして家の庭木を切った隣人(40代職業不詳・男)。 刑事訴訟になることを恐れた彼が取った行動は、まだ小学生の娘達を謝りに行かせることだった!? 子供ならば許してくれるとでも思ったのか。 「ごめんなさい、お尻ぺんぺんで許してくれますか?」 大人達の事情も知らず、健気に罪滅ぼしをしようとする少女を、あなたは許せるだろうか。 余りに情けない親子の末路を描く実話。 ※一部、演出を含んでいます。

処理中です...