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第4章
人の噂も七十五日⑮ ~国際姉弟従順条約~
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一ノ瀬一には姉と妹がいる。その姉の葵は一の3才上で現在大学二年で一にとって頭の上がらないタイプの姉御肌で何かと一をコキ使うタイプの姉だった。一方で妹の渚は2才下の中学三年生でおねだり上手の小悪魔系妹であり、一も上手く乗せられていると分かっていてもつい甘えさせてしまう可愛い妹だった。
そんな二人の姉妹に挟まれた一は毎度のお決まりとなっている二人からのお使いを終えて、ようやく夜の8時半過ぎに帰宅したのであった。
その日は休日と言うことで両親は仲良く都心へオーケストラのコーサート鑑賞へ出かけており、帰りは深夜近くになるだろうと言われていたため、家ではその二人の姉妹がまだかまだかと一の帰りを待っていた。
「ただいま!悪いね遅くなって。葵姉、言われたソルマックとバファリンルナ買ってきたぞ。こんなモノを高校生の弟に買わせるなよ、全く。あと渚、ハーゲンダッツのグリーンティー味買ってきたぞ。冷蔵庫に入れておくから葵姉に食べられちゃう前に早く食べなよ」
一はソファでだるそうに寝転がる姉の葵とキッチンで夕食の洗い物をする妹の渚に声を掛けた。
「ちょっと頭痛いから大きな声出さないでよ。胃薬だけこっちに持ってきて。あとでお金渡すから今は勘弁して」
「なんだよ、また二日酔いか。二十歳になったからって飲みに行きすぎだよ」
「しょうがないでしょ、サークルの先輩に毎日のように合コンに誘われるから断れなくてさ。まぁ私みたいな美人はそう言うところで苦労するから参っちゃうわよね」
葵は頭痛に苦しみながらも、自分のモテ女具合を一に自慢するように言った。
確かに葵は一の姉だけあってかなりの美人だった。見た目はピチピチの大学生らしく明るめの茶髪で毛先をゆるく内側にカールさせた上品な巻き髪ヘヤーをしており、黙っていれば通り行く男達が思わず振り向くような文句なしのモテ女といえる風貌をしていた。
葵曰くこの髪型は女性ファッション誌の『CanCam』の新人モデルの髪型らしく、絶対に将来ブームになるはずだと断言しており、自分は流行の最先端を行っているファッションリーダーなのだと美容院に行ったある日に散々熱く語っていたこと一は思い出していた。
実際にこの一年後の2004年には「えびちゃん」ブームなるモノがファッション界隈だけでなく、世間一般でも巻き起こり2000年代のモテ女の代名詞になるわけで、葵の先見の明は確かなモノだったと言わざるをえないのであるが、そんなことをまだ知らない一にはこの時酔っ払いの戯言としか聞こえなかった。
「全く自分でよく言うぜ。俺から言わせれば、見た目通りもっとお淑やかで上品な性格だったら自慢の姉貴なんだけどな。毎日のように部活帰りの弟をパシリに使わずにもう少し労って欲しいもんだわ」
「あんた知らないの。全世界の弟は従順にお姉様に従うことを義務づけた国際条約が国連で締結されたって大学の講義で習ったわよ。だからあんたは私の言うことを大人しく聞かないと国際条約違反になるって事よ。分かった、一つ勉強になったわね。ほら、賢くなったお礼にこっち来てマッサージしなさい」
葵は二日酔いでもたれる胃を押さえながら、どこの大学で習ったのか、明らかに一を言いくるめようと自分に都合の良い作り話をして姉の強権を発動しようとした。
「アホか、そんなふざけた国際条約なんてあるかよ。一体どんな講義を大学で受けてんだよ。もう黙ってこれでも飲んで大人しく寝ていてくれよ」
「なーんだつまんない。昔はあたしの言うことを何でも大人しく聞いたのに。随分変わったわね~。もしかして高校行って彼女でも出来たか~。大事な弟をたぶらかすよう女はあたしが許さないよ」
葵は一をからかうように、また少し嫉妬をするように言っていると、キッチンから妹の渚がやって来た。
「もう葵姉ちゃんはお兄ちゃんを苛めないでよ。早くお薬飲んだら自分の部屋に戻りなよ」
「なによ。今日一日ずっと寝ていたから部屋にいてもつまらないし、ベッドで寝ていると背中が痛いんだも~ん」
「だも~んじゃないよ。もうずっとそこに寝ていたら邪魔だよ。私とお兄ちゃんが座れないじゃん」
渚はだらだらとソファの上に居座る葵を追い払うようにしっしと手を払いながら文句を言った。
「まぁ渚、葵姉も二日酔いで弱っているみたいだし、そこまで言わなくても良いじゃないか。俺も風呂入って飯食ったら、すぐに部屋に行くから大丈夫だよ。でも、俺のために言ってくれてありがとうな」
一が渚をまぁまぁと落ち着かせていると、葵がほら見た事かと渚に言い返した。
「そうそう、一はやっぱりにお姉ちゃんに優しいのね。ほら、渚も一を見習いなさいよ」
「むむむ・・・、まぁお兄ちゃんが良いなら良いけどさ。本当は一緒にアイスを食べながら、勉強を教えてもらいたかったのに~」
一の言葉に愛らしくおねだりするように渚が言うと、キラキラとした瞳に一が観念したように答えた。
「わかったよ。それじゃ一時間だけな。その代わり俺は風呂に入りに行くからご飯を温めておいてくれるか、渚」
そう言いながら朝からの部活とすみれとのやり取りですっかり疲れ切った体を引きずりながら一は風呂場へ向かって行った。
「了解!ありがとうね。お兄ちゃん。・・・・そう言うことだから葵姉ちゃんは早く部屋に戻ってよね」
「何を言ってんのよ、渚。一が勉強を出来るのも私が教えたおかげなんだから、今度は一がちゃんと教えられるかあたしが監視しなきゃダメでしょ」
「むむむ・・・お姉ちゃんのお邪魔虫!」
一が湯船で疲れを癒やしているその一方で今日も仲良く一を取り合う姉妹の静かな戦いが繰り広げられるのであった。
そんな二人の姉妹に挟まれた一は毎度のお決まりとなっている二人からのお使いを終えて、ようやく夜の8時半過ぎに帰宅したのであった。
その日は休日と言うことで両親は仲良く都心へオーケストラのコーサート鑑賞へ出かけており、帰りは深夜近くになるだろうと言われていたため、家ではその二人の姉妹がまだかまだかと一の帰りを待っていた。
「ただいま!悪いね遅くなって。葵姉、言われたソルマックとバファリンルナ買ってきたぞ。こんなモノを高校生の弟に買わせるなよ、全く。あと渚、ハーゲンダッツのグリーンティー味買ってきたぞ。冷蔵庫に入れておくから葵姉に食べられちゃう前に早く食べなよ」
一はソファでだるそうに寝転がる姉の葵とキッチンで夕食の洗い物をする妹の渚に声を掛けた。
「ちょっと頭痛いから大きな声出さないでよ。胃薬だけこっちに持ってきて。あとでお金渡すから今は勘弁して」
「なんだよ、また二日酔いか。二十歳になったからって飲みに行きすぎだよ」
「しょうがないでしょ、サークルの先輩に毎日のように合コンに誘われるから断れなくてさ。まぁ私みたいな美人はそう言うところで苦労するから参っちゃうわよね」
葵は頭痛に苦しみながらも、自分のモテ女具合を一に自慢するように言った。
確かに葵は一の姉だけあってかなりの美人だった。見た目はピチピチの大学生らしく明るめの茶髪で毛先をゆるく内側にカールさせた上品な巻き髪ヘヤーをしており、黙っていれば通り行く男達が思わず振り向くような文句なしのモテ女といえる風貌をしていた。
葵曰くこの髪型は女性ファッション誌の『CanCam』の新人モデルの髪型らしく、絶対に将来ブームになるはずだと断言しており、自分は流行の最先端を行っているファッションリーダーなのだと美容院に行ったある日に散々熱く語っていたこと一は思い出していた。
実際にこの一年後の2004年には「えびちゃん」ブームなるモノがファッション界隈だけでなく、世間一般でも巻き起こり2000年代のモテ女の代名詞になるわけで、葵の先見の明は確かなモノだったと言わざるをえないのであるが、そんなことをまだ知らない一にはこの時酔っ払いの戯言としか聞こえなかった。
「全く自分でよく言うぜ。俺から言わせれば、見た目通りもっとお淑やかで上品な性格だったら自慢の姉貴なんだけどな。毎日のように部活帰りの弟をパシリに使わずにもう少し労って欲しいもんだわ」
「あんた知らないの。全世界の弟は従順にお姉様に従うことを義務づけた国際条約が国連で締結されたって大学の講義で習ったわよ。だからあんたは私の言うことを大人しく聞かないと国際条約違反になるって事よ。分かった、一つ勉強になったわね。ほら、賢くなったお礼にこっち来てマッサージしなさい」
葵は二日酔いでもたれる胃を押さえながら、どこの大学で習ったのか、明らかに一を言いくるめようと自分に都合の良い作り話をして姉の強権を発動しようとした。
「アホか、そんなふざけた国際条約なんてあるかよ。一体どんな講義を大学で受けてんだよ。もう黙ってこれでも飲んで大人しく寝ていてくれよ」
「なーんだつまんない。昔はあたしの言うことを何でも大人しく聞いたのに。随分変わったわね~。もしかして高校行って彼女でも出来たか~。大事な弟をたぶらかすよう女はあたしが許さないよ」
葵は一をからかうように、また少し嫉妬をするように言っていると、キッチンから妹の渚がやって来た。
「もう葵姉ちゃんはお兄ちゃんを苛めないでよ。早くお薬飲んだら自分の部屋に戻りなよ」
「なによ。今日一日ずっと寝ていたから部屋にいてもつまらないし、ベッドで寝ていると背中が痛いんだも~ん」
「だも~んじゃないよ。もうずっとそこに寝ていたら邪魔だよ。私とお兄ちゃんが座れないじゃん」
渚はだらだらとソファの上に居座る葵を追い払うようにしっしと手を払いながら文句を言った。
「まぁ渚、葵姉も二日酔いで弱っているみたいだし、そこまで言わなくても良いじゃないか。俺も風呂入って飯食ったら、すぐに部屋に行くから大丈夫だよ。でも、俺のために言ってくれてありがとうな」
一が渚をまぁまぁと落ち着かせていると、葵がほら見た事かと渚に言い返した。
「そうそう、一はやっぱりにお姉ちゃんに優しいのね。ほら、渚も一を見習いなさいよ」
「むむむ・・・、まぁお兄ちゃんが良いなら良いけどさ。本当は一緒にアイスを食べながら、勉強を教えてもらいたかったのに~」
一の言葉に愛らしくおねだりするように渚が言うと、キラキラとした瞳に一が観念したように答えた。
「わかったよ。それじゃ一時間だけな。その代わり俺は風呂に入りに行くからご飯を温めておいてくれるか、渚」
そう言いながら朝からの部活とすみれとのやり取りですっかり疲れ切った体を引きずりながら一は風呂場へ向かって行った。
「了解!ありがとうね。お兄ちゃん。・・・・そう言うことだから葵姉ちゃんは早く部屋に戻ってよね」
「何を言ってんのよ、渚。一が勉強を出来るのも私が教えたおかげなんだから、今度は一がちゃんと教えられるかあたしが監視しなきゃダメでしょ」
「むむむ・・・お姉ちゃんのお邪魔虫!」
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