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第4章
人の噂も七十五日➅ ~恋愛マスターと迷える子羊~
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「ネテロ会長のすね、どんだけ堅いのよ」
途中ウトウトしながらも一時間で2冊ほど漫画を読んだ忍は目の付け所が非常に渋い感想をつぶやきながら、寝る前の習慣であるストレッチを始めようとベッドから立ち上がったとき、携帯のバイブが机の上でブンブンと鳴っている事に気付いた。
こんな時間に電話なんて珍しいなと思いつつ出た着信先の相手はエリカだった。
エリカは遅い時間に電話をしたことを謝った後で簡単な雑談をすると、若干申し訳なさそうに本題を切り出し花火大会当日に起きた出来事について忍に説明を求めた。
エリカからの突然の電話には一瞬躊躇するも、予想通りの話の流れに落ち着きを取り戻した忍は三佳と同じく尊からの告白に関してはあっさりと認めて気にする様子もなく答えた。しかしこれまた三佳と同じく二郎についての話になった途端、電話越しでも分かるように声色を一段上げて話し始めた。
「詳しくはあたしも噂を聞いたわけじゃないけど、とりあいず二階堂先輩と4組の結城さんとデートしていたのは間違いない事実よ。結城さんって子は三佳に負けず劣らずの美人で正直年上の大学生か社会人と間違えたくらい大人っぽい人だったわ。今でも同学年の生徒とは信じられないよ。とにかくアイツはあたしの誘いを断ってその子とどっかに行っちゃったってことよ。今思い出してもムカつくわ。まぁ私が知っているのはこんなモノで一と三佳の事について正直あたしはよく知らないわ。三佳はなんて言っていたの」
忍はため込んでいた二郎への愚痴をぶちまけるように携帯を持つ手に力を込めて言った。
「二郎君に関しては忍とほぼ同じだわ。一君の事は三佳も知らないみたいよ。それと二郎君の噂に関しては三股疑惑となっていて、その一人に忍が入っているみたいなんだけど、これは・・・」
「はー!なにそれ。なんであたしがあんな奴の彼女の一人になっているのよ。誰がそんな噂流したのよ。知っているなら教えて、ちょっとしばいてくるから!!」
忍はエリカが持っている携帯を耳から遠ざけてもうるさいくらいの大声で怒りをぶちまけてエリカに噂を流した犯人を教えるように迫った。
「ちょっと忍、落ち着いてよ。こんな遅くに大声出したら家の人にも迷惑でしょ。まぁ気持ちは分かるから落ち着いて。とりあいず二郎君の噂の疑惑は三股ではなくて二股って事で間違いないわね」
エリカは忍をなだめながらも噂の真相を暴くように忍の言葉を確かめるように話しを振った。
「あ、あたりまえだよ。普段一緒にいるエリカならわかるでしょ、そんなこと。あたしが二郎のことなんて・・す、す、好きな訳ないでしょ、もう」
忍の落ち着きのない否定の言葉をエリカは何かしらを感じ取り、含みを持たせた質問をいくつかする事にした。
「でも忍、二郎君が二階堂先輩とイチャイチャしているところを見て、嫌な気持ちにはならなかった」
「・・・・それは、ちょっとムカついたけど」
エリカの問いに若干の間を持って忍が不満そうな声色で答えた。
「それじゃ、結城さんが現れて、誘いを断られたときはどうだった」
「それは折角誘ってあげたのに断るなんて生意気な奴だって思ったわ!」
次のエリカの問いに忍は当時の怒りを思い出しながら間髪入れずに答えた。
「そう、ならこのままどちらか一人が二郎君と付き合うことになって忍の事なんて見向きもしなくなったらどうする」
忍が大人しく答えているところで、攻めるなら今と此処ぞとばかりにエリカは本命の問いを投げ込んだ。
「・・・そ、そんなこと、あるわけないよ。二郎なんか好きになる人なんてかなりの変わり者か余程の聖人くらいしかあり得ないわ。普通の女子高生からしたら本当にただの根暗で冴えない男子にしか見えないんだから」
忍は突然のエリカの攻勢に言葉窮しながらも、冷静を保とうとエリカの言葉を荒唐無稽の話だと切り捨てるように言った。
「でも、ちゃんと二郎君の事を知っている忍からすれば、本当は結構優しくて、頼りになって、ちゃんとすればそこそこイケ面で、忍のことをちゃんと見てくれている気になる男子なんじゃないの」
忍は今度こそエリカの言葉に絶句した。それはまさに忍一人だけが気づき、理解して秘密にしていた二郎の本質と考えていたことだからだ。
そしてそれは今回の花火大会の一件で忍だけでなく、凜や四葉も二郎のそう言った美徳に惹かれて寄ってきたのでなかろうかという一抹の不安を抱いていた時に、それをエリカによって言い当てられたことがショックであったからだった。
エリカは受話器の先で固まる忍に向けてもう一言だけ余計なお節介と思いつつも言葉を伝えた。
「忍、自分では気付かないふりをしていたのかもしれないけど、いつまでも意地を張っていると本当に大切な人を失ったときに後悔するよ。後で何を言ってもやり直しがきかないのが恋愛だからね。実は私も危なく後悔する所だったんだよ。去年、拓実が突然告白を受けて相談されたことがあったの。その時私は素直になれなくて、断って欲しいとは言えなかったのよ。でも、拓実がその子のことはよく知らないし、他に好きな人がいるからと言って断ったと聞いて、内心では嬉しいよりもホッとした安心の気持ちの方が大きかったんだ。あの時拓実が付き合っていたら私は本当に後悔していたよ。忍、拓実と違って二郎君の相手はお互いによく知る相手なんだよ。もし二郎君が他の女子と一緒にいて欲しくないと思うなら、善は急げで早い内に気持ちを伝えた方が良いと思うよ。まぁこれは私のお節介だから忍がよく考えて決めなきゃいけないことだけどね」
エリカはつい最近晴れて恋人同士になった拓実との話しを引き合いに出して、忍の二郎への本当の気持ちを引き出そうとゆっくりと語りかけた。
「あたしは・・・・・」
忍は今まで考えようとしなかった二郎との恋愛について核心を突かれて思考回路がショート寸前に追い込まれていた。
「ゴメン、急にあれこれ言われてもすぐには答えなんか出ないよね。でも良いの。答えなんてすぐには出さなくても、いつかちゃんと自分と向き合って自分なりの答えを出すことが出来れば、それはどんな結果になろうとも何もしないでいるよりも後悔しないと思うから。だから忍、ちゃんと真剣に二郎君とどんな関係でいたいのか1度考えてみてね。私は忍の出した答えならどうあっても応援するから。それじゃ、遅くまでごめんね。ゆっくり休んで来週からまた頑張ろうね。おやすみ、忍」
「・・・うん、おやすみ、エリカ」
エリカの言葉に辛うじて返事を返した忍は、電話が切れた後もしばらくの間エリカの言葉が頭の中を巡っていた。ややあってようやく意識を取り戻した忍はストレッチをせずにとにかく早く眠ろうと思い至った。それから明日の部活の準備を済ませるとすぐに布団に潜り込み、ぎゅと目をつむりながら睡魔が止まらない胸の鼓動と頭を駆け巡る二郎の顔を沈めてくれることをじっと待つのであった。
途中ウトウトしながらも一時間で2冊ほど漫画を読んだ忍は目の付け所が非常に渋い感想をつぶやきながら、寝る前の習慣であるストレッチを始めようとベッドから立ち上がったとき、携帯のバイブが机の上でブンブンと鳴っている事に気付いた。
こんな時間に電話なんて珍しいなと思いつつ出た着信先の相手はエリカだった。
エリカは遅い時間に電話をしたことを謝った後で簡単な雑談をすると、若干申し訳なさそうに本題を切り出し花火大会当日に起きた出来事について忍に説明を求めた。
エリカからの突然の電話には一瞬躊躇するも、予想通りの話の流れに落ち着きを取り戻した忍は三佳と同じく尊からの告白に関してはあっさりと認めて気にする様子もなく答えた。しかしこれまた三佳と同じく二郎についての話になった途端、電話越しでも分かるように声色を一段上げて話し始めた。
「詳しくはあたしも噂を聞いたわけじゃないけど、とりあいず二階堂先輩と4組の結城さんとデートしていたのは間違いない事実よ。結城さんって子は三佳に負けず劣らずの美人で正直年上の大学生か社会人と間違えたくらい大人っぽい人だったわ。今でも同学年の生徒とは信じられないよ。とにかくアイツはあたしの誘いを断ってその子とどっかに行っちゃったってことよ。今思い出してもムカつくわ。まぁ私が知っているのはこんなモノで一と三佳の事について正直あたしはよく知らないわ。三佳はなんて言っていたの」
忍はため込んでいた二郎への愚痴をぶちまけるように携帯を持つ手に力を込めて言った。
「二郎君に関しては忍とほぼ同じだわ。一君の事は三佳も知らないみたいよ。それと二郎君の噂に関しては三股疑惑となっていて、その一人に忍が入っているみたいなんだけど、これは・・・」
「はー!なにそれ。なんであたしがあんな奴の彼女の一人になっているのよ。誰がそんな噂流したのよ。知っているなら教えて、ちょっとしばいてくるから!!」
忍はエリカが持っている携帯を耳から遠ざけてもうるさいくらいの大声で怒りをぶちまけてエリカに噂を流した犯人を教えるように迫った。
「ちょっと忍、落ち着いてよ。こんな遅くに大声出したら家の人にも迷惑でしょ。まぁ気持ちは分かるから落ち着いて。とりあいず二郎君の噂の疑惑は三股ではなくて二股って事で間違いないわね」
エリカは忍をなだめながらも噂の真相を暴くように忍の言葉を確かめるように話しを振った。
「あ、あたりまえだよ。普段一緒にいるエリカならわかるでしょ、そんなこと。あたしが二郎のことなんて・・す、す、好きな訳ないでしょ、もう」
忍の落ち着きのない否定の言葉をエリカは何かしらを感じ取り、含みを持たせた質問をいくつかする事にした。
「でも忍、二郎君が二階堂先輩とイチャイチャしているところを見て、嫌な気持ちにはならなかった」
「・・・・それは、ちょっとムカついたけど」
エリカの問いに若干の間を持って忍が不満そうな声色で答えた。
「それじゃ、結城さんが現れて、誘いを断られたときはどうだった」
「それは折角誘ってあげたのに断るなんて生意気な奴だって思ったわ!」
次のエリカの問いに忍は当時の怒りを思い出しながら間髪入れずに答えた。
「そう、ならこのままどちらか一人が二郎君と付き合うことになって忍の事なんて見向きもしなくなったらどうする」
忍が大人しく答えているところで、攻めるなら今と此処ぞとばかりにエリカは本命の問いを投げ込んだ。
「・・・そ、そんなこと、あるわけないよ。二郎なんか好きになる人なんてかなりの変わり者か余程の聖人くらいしかあり得ないわ。普通の女子高生からしたら本当にただの根暗で冴えない男子にしか見えないんだから」
忍は突然のエリカの攻勢に言葉窮しながらも、冷静を保とうとエリカの言葉を荒唐無稽の話だと切り捨てるように言った。
「でも、ちゃんと二郎君の事を知っている忍からすれば、本当は結構優しくて、頼りになって、ちゃんとすればそこそこイケ面で、忍のことをちゃんと見てくれている気になる男子なんじゃないの」
忍は今度こそエリカの言葉に絶句した。それはまさに忍一人だけが気づき、理解して秘密にしていた二郎の本質と考えていたことだからだ。
そしてそれは今回の花火大会の一件で忍だけでなく、凜や四葉も二郎のそう言った美徳に惹かれて寄ってきたのでなかろうかという一抹の不安を抱いていた時に、それをエリカによって言い当てられたことがショックであったからだった。
エリカは受話器の先で固まる忍に向けてもう一言だけ余計なお節介と思いつつも言葉を伝えた。
「忍、自分では気付かないふりをしていたのかもしれないけど、いつまでも意地を張っていると本当に大切な人を失ったときに後悔するよ。後で何を言ってもやり直しがきかないのが恋愛だからね。実は私も危なく後悔する所だったんだよ。去年、拓実が突然告白を受けて相談されたことがあったの。その時私は素直になれなくて、断って欲しいとは言えなかったのよ。でも、拓実がその子のことはよく知らないし、他に好きな人がいるからと言って断ったと聞いて、内心では嬉しいよりもホッとした安心の気持ちの方が大きかったんだ。あの時拓実が付き合っていたら私は本当に後悔していたよ。忍、拓実と違って二郎君の相手はお互いによく知る相手なんだよ。もし二郎君が他の女子と一緒にいて欲しくないと思うなら、善は急げで早い内に気持ちを伝えた方が良いと思うよ。まぁこれは私のお節介だから忍がよく考えて決めなきゃいけないことだけどね」
エリカはつい最近晴れて恋人同士になった拓実との話しを引き合いに出して、忍の二郎への本当の気持ちを引き出そうとゆっくりと語りかけた。
「あたしは・・・・・」
忍は今まで考えようとしなかった二郎との恋愛について核心を突かれて思考回路がショート寸前に追い込まれていた。
「ゴメン、急にあれこれ言われてもすぐには答えなんか出ないよね。でも良いの。答えなんてすぐには出さなくても、いつかちゃんと自分と向き合って自分なりの答えを出すことが出来れば、それはどんな結果になろうとも何もしないでいるよりも後悔しないと思うから。だから忍、ちゃんと真剣に二郎君とどんな関係でいたいのか1度考えてみてね。私は忍の出した答えならどうあっても応援するから。それじゃ、遅くまでごめんね。ゆっくり休んで来週からまた頑張ろうね。おやすみ、忍」
「・・・うん、おやすみ、エリカ」
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