上 下
67 / 189
第4章

祭りの後で② ~不機嫌エースと天使のウィンク~

しおりを挟む
 もうチャイムが鳴ろうとするところで朝練を終えた女子バスケ部の部長兼絶対的エースであり、後輩女子から絶大の人気を誇る成田忍が二郎達3人の前に顔を出した。

「おはよう、忍。始業式から朝練お疲れ様だね。強豪の部活はやる気が違うわ」

「すみれ、おはよう。まぁ朝練と言っても今日は始業式の準備で体育館が使えないから、学校の外周をロードワークするだけだったけどね」

 忍とすみれが挨拶しているところに一が声を掛けた。

「朝練ご苦労さんだな。男バスも見習わないとなぁ、二郎」

「何言ってるんだよ。朝から部活なんて余程の物好きしかやらねーよ。俺らみたいな雑魚が無理してやったら強くなるどころか部員がいなくなるからやめとけって」
 
 一の言葉をバッサリ否定した二郎に忍が不機嫌そうに言った。

「一がもし朝練やる気があるなら、女バスの方に参加しても大丈夫だよ。ウチらはいつでもウェルカムだからさ。どこかのやる気の無いバカなんて放っておいて良いからさ。ふん」

 忍は二郎の言葉を無視するように一に答えた。

「あらら、二人は相変わらず仲良しだね。本当にぶれないね、一君」

「まさに言うとおり、これがこいつらの愛情表現なんだわ。すーみんも大分この二人の事が分かってきたみたいだね」
 
 一とすみれの二人はあきれたように二郎と忍の毎度お馴染みの喧嘩を見守っていた。

「何が愛情表現よ。こんなナンパ野郎に愛情なんて1ミリも無いわよ」

 夏祭りの日、花火を一緒に見ようと二郎を誘った忍は四葉の登場によってあっさりと二郎に断られる事になり、その上、凜とのイチャつく姿を見せられた事もあったせいか、その日以来、非常に虫の居所の悪い状況が続いており、二郎と会ったことでそれが爆発しかけていた。

「なんだよ、まだあの時の事を怒っているのかよ。事情は説明しただろ。全く面倒くさい奴だな」

「うるさいわね、バカ二郎!」

 忍のいつも以上のヒートアップした姿に一が心配そうに声を掛けた。

「何だ、どうしたんだよ。何かあったのか」

「別にたいしたことじゃ無いから気にしないでくれ。忍が一人で怒っているだけだから」
 
 一の疑問を二郎はなんてことも無いように受け流した。

 その言葉に忍がさらに機嫌を悪くしたところでちょうど始業のチャイムが鳴り、慌ただしく一人の生徒が教室のドアを開けて飛び込んできた。

「ギリギリセーフ!はぁはぁ、危なかったけど、遅刻じゃないよね。初日から寝坊しちゃったよ~」

 朝っぱらから誰よりも元気に登場したのは誰もが認める校内のアイドル的存在で陸上部の馬場三佳だった。

 そんな三佳の後ろから叱るような声がかかった。

「ちょっと、三佳!新学期から遅刻ギリギリはどうなの。先生もちょっと言ってやって下さいよ」

「おう、馬場か。全国大会惜しかったな。4位だって。職員室でもお前の話題で持ちきりだったぞ。まぁ遅刻は駄目だが部活も頑張ったから今日くらいは許してあげよう。明日からはしっかりするんだぞ」

「はーい」

「もう先生は甘いですよ。三佳なんて何も言わなくてもその辺を走り回っている子なんですから、部活で活躍しようが何しようが規律はちゃんと言わないと何処までも緩んじゃいますよ」

 どっちが先生なのか分からない注意を三佳にしたのは、始業30分前にはキッチリ通学し、新学期に必要な配布物を職員室から担任と運んできた美術部所属で2年5組の学級委員である飯田エリカだった。

「エリカ、おはよう。何だか久しぶりだね」

「おはよう、エリカ。朝からお仕事お疲れ様」

 すみれと忍がエリカに声を掛けると三佳が叱られた子どものように言った。

「うぅ、エリカ母さんは新学期早々厳しいなぁ。明日からはちゃんと寝坊しないように気をつけるから。ごめんなさい、ね!」

 三佳は両手を合わせ、顔を斜めに振りウィンクをしながらごめんなさいポーズをしてエリカの説教を回避しようとした。

 その笑顔を見たクラスの数人の男子が魂を抜かれた様子でつぶやいた。

「天使や」

「尊いわ」

「今日学校に来てよかった」

 エリカはクラスの緩んだ空気に押されてそれ以上の説教はやめることにした。

「はぁ、もうしょうがないな。明日からはちゃんと余裕を持って通学しなきゃ駄目だよ」

「うん、頑張るルンバ!」

 三佳の底抜けて明るいバカっぽい返事で話しが一段落したと判断した担任の渡辺はホームルームを始めようとクラス全体に声を掛けた。

「よーし、2学期もしっかりやっていこう。今日は出席確認したらすぐに体育館で始業式だから移動するぞ。はい、日直は号令を掛けてくれ」

 こうして相変わらず騒がしい2年5組の2学期の幕が開くのであった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

NTRするなら、お姉ちゃんより私の方がいいですよ、先輩?

和泉鷹央
青春
 授業のサボリ癖がついてしまった風見抱介は高校二年生。  新学期早々、一年から通っている図書室でさぼっていたら可愛い一年生が話しかけてきた。 「NTRゲームしません?」 「はあ?」 「うち、知ってるんですよ。先輩がお姉ちゃんをNTRされ……」 「わわわわっーお前、何言ってんだよ!」  言い出した相手は、槍塚牧那。  抱介の元カノ、槍塚季美の妹だった。 「お姉ちゃんをNTRし返しませんか?」  などと、牧那はとんでもないことを言い出し抱介を脅しにかかる。 「やらなきゃ、過去をバラすってことですか? なんて奴だよ……!」 「大丈夫です、私が姉ちゃんの彼氏を誘惑するので」 「え? 意味わかんねー」 「そのうち分かりますよ。じゃあ、参加決定で!」  脅されて引き受けたら、それはNTRをどちらかが先にやり遂げるか、ということで。  季美を今の彼氏から抱介がNTRし返す。  季美の今の彼氏を……妹がNTRする。    そんな提案だった。  てっきり姉の彼氏が好きなのかと思ったら、そうじゃなかった。  牧那は重度のシスコンで、さらに中古品が大好きな少女だったのだ。  牧那の姉、槍塚季美は昨年の夏に中古品へとなってしまっていた。 「好きなんですよ、中古。誰かのお古を奪うの。でもうちは新品ですけどね?」  姉を中古品と言いながら自分のモノにしたいと願う牧那は、まだ季美のことを忘れられない抱介を背徳の淵へと引きずり込んでいく。 「新品の妹も、欲しくないですか、セ・ン・パ・イ?」  勝利者には妹の愛も付いてくるよ、と牧那はそっとささやいた。  他の投稿サイトでも掲載しています。

庭木を切った隣人が刑事訴訟を恐れて小学生の娘を謝罪に来させたアホな実話

フルーツパフェ
大衆娯楽
祝!! 慰謝料30万円獲得記念の知人の体験談! 隣人宅の植木を許可なく切ることは紛れもない犯罪です。 30万円以下の罰金・過料、もしくは3年以下の懲役に処される可能性があります。 そうとは知らずに短気を起こして家の庭木を切った隣人(40代職業不詳・男)。 刑事訴訟になることを恐れた彼が取った行動は、まだ小学生の娘達を謝りに行かせることだった!? 子供ならば許してくれるとでも思ったのか。 「ごめんなさい、お尻ぺんぺんで許してくれますか?」 大人達の事情も知らず、健気に罪滅ぼしをしようとする少女を、あなたは許せるだろうか。 余りに情けない親子の末路を描く実話。 ※一部、演出を含んでいます。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

ハーレムに憧れてたけど僕が欲しいのはヤンデレハーレムじゃない!

いーじーしっくす
青春
 赤坂拓真は漫画やアニメのハーレムという不健全なことに憧れる健全な普通の男子高校生。  しかし、ある日突然目の前に現れたクラスメイトから相談を受けた瞬間から、拓真の学園生活は予想もできない騒動に巻き込まれることになる。  その相談の理由は、【彼氏を女帝にNTRされたからその復讐を手伝って欲しい】とのこと。断ろうとしても断りきれない拓真は渋々手伝うことになったが、実はその女帝〘渡瀬彩音〙は拓真の想い人であった。そして拓真は「そんな訳が無い!」と手伝うふりをしながら彩音の潔白を証明しようとするが……。  証明しようとすればするほど増えていくNTR被害者の女の子達。  そしてなぜかその子達に付きまとわれる拓真の学園生活。 深まる彼女達の共通の【彼氏】の謎。  拓真の想いは届くのか? それとも……。 「ねぇ、拓真。好きって言って?」 「嫌だよ」 「お墓っていくらかしら?」 「なんで!?」  純粋で不純なほっこりラブコメ! ここに開幕!

おっぱい揉む?と聞かれたので揉んでみたらよくわからない関係になりました

星宮 嶺
青春
週間、24hジャンル別ランキング最高1位! ボカロカップ9位ありがとうございました! 高校2年生の太郎の青春が、突然加速する! 片想いの美咲、仲の良い女友達の花子、そして謎めいた生徒会長・東雲。 3人の魅力的な女の子たちに囲まれ、太郎の心は翻弄される! 「おっぱい揉む?」という衝撃的な誘いから始まる、 ドキドキの学園生活。 果たして太郎は、運命の相手を見つけ出せるのか? 笑いあり?涙あり?胸キュン必至?の青春ラブコメ、開幕!

処理中です...