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第五話

追跡不能<Ⅱ>

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「ですな。そもそもあれは彼らの実力を試す意味で依頼したようなもの。そのようなことはせず最初から素直に全員で頭を下げてお願いをすれば良かったのです」

「今更ケチをつけるか! あれは決を採った結果そうなったのであろう」

「決を採った結果が正しいとはかぎらない良い例ではありませんか」

「まあまあ、今は責任のなすりつけなどは後にして今後の方針を話さねばなりません」

「合議員も一人減ってしまったわけですしな」

「まあ、もう後は素直に国境の防備を厚くするしかありませんな」

「そうなると出費がかさみますな」

「そう考えると、やはり勇者達に払った方がよほど安上がりだったやもしれません」

 まさにそうだったとため息交じりになっていると伝令がまた一人戻ってきた。

「騎兵隊より連絡が届きました!」

「報告せよ」

「ははっ! 勇者一行を捉えて追いかけたところ、すんでの所で王国の国境を越えられそれ以上の追跡は不能となったとのことです」

「なにがすんでの所なのか。ほとんど見つからずに帰ってきたのが関の山でしょう」

 一同は、より深いため息が出るだけであった。

「そうなったものは仕方がない。かくなる上は軍拡を推し進めるしかあるまいて」

「今回の件で、あの勇者と聖女様の一行が敵に回ったら非常に厄介ですな」

「聖女はともかく所詮煙を焚く程度の魔法使いの小僧ではないか」

「はぁ……貴方は本当に分かっていない。あれは勇者が我らに手心を加えたからあの程度で済んだのです。もし彼が本気を出していれば今頃ここは更地にされていたとしても不思議じゃ有りません」

「そう……なのか?」

「いくら勇者だからといって、それではもう兵器ではないか」

「街を滅ぼしかねない魔法使いと、奇跡が使える聖女。これが敵陣営にいることとなったら我らはどうなることか」

「それならもういっそのこと国王に尻尾を振るという手も残ってはおりますけどね」

「相手が約束を違えないといえるのか?」

「勇者にあれだけのことをした我らが言えるのでしょうか」

「私は間違っていない!」

「今はその話をしていても仕方がないでしょう」

 その日、夜遅くまで彼らは終わらない議論を続けていくのであった。
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