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第五話
追跡不能<Ⅰ>
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「ああくそ……、まだに臭いが残っておるわ」
「どうやら噂に違わない、相当な使い手のようですな」
「あの魔法は、こちらの魔法使い共でも見たことがないそうで、しかも規模が凄すぎるとのこと。議院内のほとんどを煙で包んでしまいましたからな」
「そんな馬鹿な逃げられたというのか!? 馬車は押さえていたのではないのか!」
「押さえてはおりましたが……その、相手が強うございまして、あえなく奪還されてしまったとのことです」
「馬鹿者共が!」
がしゃんっ!
手にしていたカップを思い切り投げつけたが、外れて壁にぶつかった。
「ですが今現在、精鋭の騎兵が追いかけているとのことです」
「どうやら相手を甘く見すぎましたな」
「何を悠長なことを!」
「我らは話し合ったはず。聖女様を手の内に置いておくために、勇者様とその仲間に相応の対応をしてロンロールに長期滞在を促すと」
「そうやって、もし聖女様がロンロールに滞在してくだされば、その間はアデル教としても王国としても易々とはここに攻め入れられない」
「何せ聖人聖女は象徴の様な存在ですからな」
「では何故、そんな存在があんな冒険者然として世間を渡り歩いているのだ?」
「教会にも政治というのがあるのですよ。様々な派閥が毎日の様に自分達が主権を奪おうと静かな戦いを繰り広げているのです」
「あの聖女様はその派閥の争いに不参加を表明したと聞いております。そのせいで無役の聖職者達から大きな支持を得てしまい、新たな聖女派なんて派閥が誕生しそうになり慌てた教会は彼女を修行と称して野に放ったと」
「そんな馬鹿な! 人類の宝なんだぞ!」
「それ以上に自分達の地位が大事なのですよ。そんなもの貴方にだって分かるでしょ」
「やはりあの者達を金を払って抑えるべきでしたな」
「そ、それは……」
「ですが、あなた方は出来もしない捕縛を試みた。それを甘く見すぎたと言って何が間違っているでしょうか?」
「違う! 私達は彼らに相応の金額を払うからと交渉をしていたら、いきなり兵士達がなだれ込んできたのだ」
「では、その兵士を最初に動かしたのは誰なのでしょうね」
「うぐっ……」
ずっと勇者や聖女を子供だのガキだのと見下していた商人が顔色を蒼白にして縮こまるように座っていた。
「やれやれ、貴方は払うべきときに払わずケチろうとするからこのような結果になるのです」
「そうですよ。たった金貨4万枚程度で大国エテリュデブルデックと戦にならずにすんだかもしれないというのに」
「彼奴らは……聖女も勇者も偽物だ!」
「あの強力な煙の魔法を間近で見ておいて、まだ偽物だと仰るとは」
「それに、最初の戦闘でほぼ死にかけていた兵士がいつの間にやら傷が完全に癒えていたのですよ? あれを聖女の奇跡以外でどうやって成し遂げたというのですか」
アティウラに刺された兵士はセレーネが逃げる際に回復をさせていたらしい。
「違う。奴等はペテン師だ! 絶対に仕掛けが何処かにある! そうじゃなければ二日も経たずに戻ってこれるはずがない!」
「言い訳をするにしても、もう少し考えて仰ってください。あの死体を奥方が見分した限り本物でしたし付けていた指輪も本物の合議員のものでした」
「で、では最初から用意しておいたのだ!」
「はっはっはっ! 我らが依頼することを事前に知っていたと? それは面白い冗談だ。そこまで我らの計画が筒抜けなのに何故彼らここに来たのでしょう」
「そ、それは……」
「どうやら噂に違わない、相当な使い手のようですな」
「あの魔法は、こちらの魔法使い共でも見たことがないそうで、しかも規模が凄すぎるとのこと。議院内のほとんどを煙で包んでしまいましたからな」
「そんな馬鹿な逃げられたというのか!? 馬車は押さえていたのではないのか!」
「押さえてはおりましたが……その、相手が強うございまして、あえなく奪還されてしまったとのことです」
「馬鹿者共が!」
がしゃんっ!
手にしていたカップを思い切り投げつけたが、外れて壁にぶつかった。
「ですが今現在、精鋭の騎兵が追いかけているとのことです」
「どうやら相手を甘く見すぎましたな」
「何を悠長なことを!」
「我らは話し合ったはず。聖女様を手の内に置いておくために、勇者様とその仲間に相応の対応をしてロンロールに長期滞在を促すと」
「そうやって、もし聖女様がロンロールに滞在してくだされば、その間はアデル教としても王国としても易々とはここに攻め入れられない」
「何せ聖人聖女は象徴の様な存在ですからな」
「では何故、そんな存在があんな冒険者然として世間を渡り歩いているのだ?」
「教会にも政治というのがあるのですよ。様々な派閥が毎日の様に自分達が主権を奪おうと静かな戦いを繰り広げているのです」
「あの聖女様はその派閥の争いに不参加を表明したと聞いております。そのせいで無役の聖職者達から大きな支持を得てしまい、新たな聖女派なんて派閥が誕生しそうになり慌てた教会は彼女を修行と称して野に放ったと」
「そんな馬鹿な! 人類の宝なんだぞ!」
「それ以上に自分達の地位が大事なのですよ。そんなもの貴方にだって分かるでしょ」
「やはりあの者達を金を払って抑えるべきでしたな」
「そ、それは……」
「ですが、あなた方は出来もしない捕縛を試みた。それを甘く見すぎたと言って何が間違っているでしょうか?」
「違う! 私達は彼らに相応の金額を払うからと交渉をしていたら、いきなり兵士達がなだれ込んできたのだ」
「では、その兵士を最初に動かしたのは誰なのでしょうね」
「うぐっ……」
ずっと勇者や聖女を子供だのガキだのと見下していた商人が顔色を蒼白にして縮こまるように座っていた。
「やれやれ、貴方は払うべきときに払わずケチろうとするからこのような結果になるのです」
「そうですよ。たった金貨4万枚程度で大国エテリュデブルデックと戦にならずにすんだかもしれないというのに」
「彼奴らは……聖女も勇者も偽物だ!」
「あの強力な煙の魔法を間近で見ておいて、まだ偽物だと仰るとは」
「それに、最初の戦闘でほぼ死にかけていた兵士がいつの間にやら傷が完全に癒えていたのですよ? あれを聖女の奇跡以外でどうやって成し遂げたというのですか」
アティウラに刺された兵士はセレーネが逃げる際に回復をさせていたらしい。
「違う。奴等はペテン師だ! 絶対に仕掛けが何処かにある! そうじゃなければ二日も経たずに戻ってこれるはずがない!」
「言い訳をするにしても、もう少し考えて仰ってください。あの死体を奥方が見分した限り本物でしたし付けていた指輪も本物の合議員のものでした」
「で、では最初から用意しておいたのだ!」
「はっはっはっ! 我らが依頼することを事前に知っていたと? それは面白い冗談だ。そこまで我らの計画が筒抜けなのに何故彼らここに来たのでしょう」
「そ、それは……」
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