上 下
358 / 388
第五話

馬がちょっと気の毒だけど<Ⅱ>

しおりを挟む
 どんっ! がんっ! ごんっ!

 壁の向こう側から物凄い音がしている。

「ウソ、壊すつもり!?」

 強化された魔法の石壁を破壊しようとしているらしい。
 馬車が立て続けにぶつかってもヒビ一つ出来なかった壁を壊せるのだろうか。

「ぬおおお!!」

 どんっ! がんっ! ごんっ!

 凄い雄叫びを上げながらが何度も打ち付ける音がする。マジか!?
 そんな力があるのか? それともサーチで漏らした凄い道具でも持っているのか?

「二人ともお気を付けろ!」

 そう言うと3人で迎撃のために身構える。

 そしてしばらくすると音が止まり静かになった。

「…………ん、あ、あれ?」

 いや、そこは音が静かになった瞬間最後の一撃で壁を破壊するのがセオリーだろ。

「どうした?」

「貴様等か! なんの恨みでこのようなことをする!」

「うわ!?」

 静かになって待っていたら、3mを越える壁から顔がぬるっと出てきて怒られた。
 叫ぶのはあの全身甲冑の男で壁を破壊しようとしたが失敗したらしい。

「お、重たいっ! は、早くお願いします!」

「ま、待て……鎧が重くて……ぐっ、ぬぐぐっ!」

 破壊から壁越えに変えたようだが、相当重いらしく黒タイツの部下達に持ち上げてもらってなんとか顔を出すのが限界のようだった。

「お前等が旅芸人の一座を狙って追いかけりするからだろ! この野郎!」

 ぼんっ!

「ぐお!?」

 デルは杖からファイアーショットを放つと綺麗に甲冑男の顔に当たった。
 当然魔法防御力が高い鎧を身に着けているためほとんど効果はないが、顔が一部黒く焦げた。

「真っ黒になってやんの」

「ぶっ!」

 デルの一言で思わず吹き出してしまう俺。

「ゆ、勇者様、そこで笑っては、い、いけませんよ……」

 俺につられてセレーネも必死で堪えるが肩が震えている。

「き、貴様等、愚弄するか!!」

 肘を壁に掛けて登ろうとしてくる。

「ぐぬぬ!」

「……もうだめ」

 ぐちゃ!

「あれ?」

 全身甲冑の顔が急に落ちていなくなった。
 支えていた黒タイツの人達が限界を迎えたのだろう。

「なんかイヤな音がしたような気がするけど」

「ああ、なんてことだ! 我が部下達が!! おのれぇ……ちょっと待ってろ!」

 壁の向こうからそう聞こえる。

「いやいやいや、部下を潰したのはあんただろ! 無茶したのが悪いんじゃんよ」

 デルが突っ込むがおそらく相手には聞こえていないだろう。

「どうするのでしょう?」

「多分だけど……」

 うおおおおお!!

 雄叫びが聞こえるが徐々に遠くなっていく。

「ああ、壁を回って来るのですね」

「そうらしい」

 全身甲冑に巨大な斧を持って全速力で魔法の石壁の端から回ると息を切らせてやってきた。

「はぁ、はぁ、はぁ……」

 このおっさん、筋力には自信があるようだがスタミナは微妙な感っぽい。

「よ……よ、もや……わ、げほごほ!」

「ああもう分かったから、ちょっと息を整えろよ」

 済まないとばかりに手を上げて、しばらく息を整える。

「はあ……ふう……、済まなかった」

「いえ」

「では……よもや我ら結社の存在を知っている者共がいるとは……はぁはぁ……い、生かしてはおけん。覚悟せよ!」

「おいおい、これだけ待たせておいていきなりのそれかよ!?」

 おっさんは斧が構えると刃の部分が輝き出す。どうやらそれが凄い武器であることは分かった。

「それで壁を壊せば良かったじゃん!」

「あんな壁如きにこの超絶スーパーウルトラゴールデンハイパーゴージャススラッシュクラッシュを使うのは勿体ないわ!」

「よくいうよ! 壊せないどころか超えることも出来なかったくせに!」

 しかしなんだそのコテコテの長いワザ名はしかも、スラッシュなのかクラッシュなのかどっちなんだ?

「問答無用! おうりゃあああ!!」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

さようなら、私の初恋。あなたは私をいらないと言ったけど──私も、私の人生にあなたはいらない。

ごろごろみかん。
ファンタジー
結婚式の夜、私はあなたに殺された。 彼に嫌悪されているのは知っていたけど、でも、殺されるほどだとは思っていなかった。 「誰も、お前なんか必要としていない」 最期の時に言われた言葉。彼に嫌われていても、彼にほかに愛するひとがいても、私は彼の婚約者であることをやめなかった。やめられなかった。私には責務があるから。 だけどそれも、意味のないことだったのだ。 彼に殺されて、気がつけば彼と結婚する半年前に戻っていた。 なぜ時が戻ったのかは分からない。 それでも、ひとつだけ確かなことがある。 あなたは私をいらないと言ったけど──私も、私の人生にあなたはいらない。 私は、私の生きたいように生きます。

欲しいものはガチャで引け!~異世界召喚されましたが自由に生きます~

シリウス
ファンタジー
身体能力、頭脳はかなりのものであり、顔も中の上くらい。負け組とは言えなそうな生徒、藤田陸斗には一つのマイナス点があった。それは運であった。その不運さ故に彼は苦しい生活を強いられていた。そんなある日、彼はクラスごと異世界転移された。しかし、彼はステ振りで幸運に全てを振ったためその他のステータスはクラスで最弱となってしまった。 しかし、そのステ振りこそが彼が持っていたスキルを最大限生かすことになったのだった。(軽い復讐要素、内政チートあります。そういうのが嫌いなお方にはお勧めしません)初作品なので更新はかなり不定期になってしまうかもしれませんがよろしくお願いします。

異世界で勇者をすることとなったが、僕だけ何も与えられなかった

晴樹
ファンタジー
南結城は高校の入学初日に、クラスメイトと共に突然異世界に召喚される。 異世界では自分たちの事を勇者と呼んだ。 勇者としてクラスの仲間たちと共にチームを組んで生活することになるのだが、クラスの連中は元の世界ではあり得なかった、魔法や超能力を使用できる特殊な力を持っていた。 しかし、結城の体は何の変化もなく…一人なにも与えられていなかった。 結城は普通の人間のまま、元の界帰るために奮起し、生きていく。

「元」面倒くさがりの異世界無双

空里
ファンタジー
死んでもっと努力すればと後悔していた俺は妖精みたいなやつに転生させられた。話しているうちに名前を忘れてしまったことに気付き、その妖精みたいなやつに名付けられた。 「カイ=マールス」と。 よく分からないまま取りあえず強くなれとのことで訓練を始めるのだった。

司書ですが、何か?

みつまめ つぼみ
ファンタジー
 16歳の小さな司書ヴィルマが、王侯貴族が通う王立魔導学院付属図書館で仲間と一緒に仕事を頑張るお話です。  ほのぼの日常系と思わせつつ、ちょこちょこドラマティックなことも起こります。ロマンスはふんわり。

聖女の地位も婚約者も全て差し上げます〜LV∞の聖女は冒険者になるらしい〜

みおな
ファンタジー
 ティアラ・クリムゾンは伯爵家の令嬢であり、シンクレア王国の筆頭聖女である。  そして、王太子殿下の婚約者でもあった。  だが王太子は公爵令嬢と浮気をした挙句、ティアラのことを偽聖女と冤罪を突きつけ、婚約破棄を宣言する。 「聖女の地位も婚約者も全て差し上げます。ごきげんよう」  父親にも蔑ろにされていたティアラは、そのまま王宮から飛び出して家にも帰らず冒険者を目指すことにする。  

輝く樹木

振矢 留以洲
ファンタジー
 輝く樹木によってタイムスリップしていく中学生の少年の異次元体験を描いたミステリー長編小説です。陰湿ないじめが原因で登校拒否の藤村輝夫は、両親の真樹夫と萌子に連れられて、新居に移り住むことになる。真樹夫と萌子が計画していたのは、輝夫のためにフリースクールを始めることであった。真樹夫はそのために会社をリモート形態に変更した。 新居の家の庭には三本の樹があった。その三本の樹は日ごとに交代で光輝いた。日ごとにその光る色は違っていた。それぞれの樹が日ごとに光るたびに輝夫は過去の自分の中にタイムスリップしていくのであった。

収容所生まれの転生幼女は、囚人達と楽しく暮らしたい

三園 七詩
ファンタジー
旧題:収容所生まれの転生幼女は囚人達に溺愛されてますので幸せです 無実の罪で幽閉されたメアリーから生まれた子供は不幸な生い立ちにも関わらず囚人達に溺愛されて幸せに過ごしていた…そんなある時ふとした拍子に前世の記憶を思い出す! 無実の罪で不幸な最後を迎えた母の為!優しくしてくれた囚人達の為に自分頑張ります!

処理中です...