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第一話
お約束<Ⅰ>
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セレーネの故郷の料理を食べるなんて約束をするからだろうか。
この日は宵闇と同時に彼奴らが現れたのだった。
俺達は櫓の上でそれをずっと見ていた。
持っている杖の先端に煌々とした明かりを照らしながらゆっくりと歩いてくる。
あきらかに明るすぎるし色が違う。まるでLEDライトのようだった。
「あれって松明の灯りじゃないよな」
「あれは魔法の灯りです。でもわたくしが知っているのと大分明るさが違いますけど」
その明るいライトの下にいる相手はたったの二人。
おかげでよく見える。共にローブ姿で目深にフードを被っているので人なのかアンデッドなのか区別が付かない。
だがその分そこだけが明るすぎて、暗闇に隠れているのがいたとしたら見つけづらい。
杖を持っているやつは動きが少しぎこちない。
そしてもう一人は、直利不動で立っている。
「それにしても、わざと明るくしているのは余裕の表れでしょうか?」
砦長の声に緊張が混じっているのが分かる。
「だと思うけど……でもどうすればいいんだあれ。そもそも人間なのか?」
『お前達は……このわしを本気にさせた! これからお前達全員を配下にしてやるから感謝するがいい』
突如大きな声が聞こえてきた。
「ビックリした……」
「……これは拡声魔法の一つです」
セレーネが丁寧に注釈を入れてくれる。
どうやら相手は相当なご立腹な様子。
「相手は何をバカなことを言ってんだ」
どんだけ自己中なんだと返したいが、こちらの声は届きそうにない。
『さあ、滅びるがいい!』
その声と共に直立不動のヤツが前に出てくる。
ずっと直立不動のままだった。
「ちょっと待て、あれなんか変な動きしてないか」
歩いていれば多かれ少なかれ肩や頭が揺れるもの。だがそいつはまるで動く歩道にでも乗っているかのように身体一つ動かさず前に進んでいた。
「もしかしてだけど、あれってアンデッドだったり?」
「あれは……、多分高位のアンデッドで……実体があるのでワイトではないかと」
「ワイト? なんか聞いたことがあるな……」
なんかのゲームだと思ったけど確かアンデッドの種類で見た目は人間もしくはゾンビだが凄く強いんじゃなかったっけ。
「本当にワイトだとしたら……」
セレーネは不安そうな顔をしていた。
なんかまじでヤバそうな感じだな。
「そんなに強いのか?」
「見た目は普通のゾンビみたいですが、目は禍々しい光を帯びていてゾンビとは比較にならないほどの強力な力で全てを破壊します」
そこまで強そうには見えないが、聖職者でアンデッドに詳しいセレーネが言うのだから間違いはないのだろう。
「あの一体で、この砦を簡単に陥落させることが出来ます」
「まじか!?」
「おそらくですが勇者様がそれまで見送ったゾンビを全て足しても全く歯が立たないレベルです」
「おおう……」
さすがに俺もびびってしまう。
「そんなに強いアンデッドを操れるなら、あのネクロマンサーも相当強いんじゃないのか」
「ネクロマンサーはどんなに高レベルになったとしても、相応の素体を手に入れなければ強いアンデッドは作れません」
「じゃあ、あのワイトは生前は凄い存在だったってことなのか」
「そこは術士のレベルがどれほどかによりますが、勇者とはいかないまでもそれに近い強さを持った者になるかと」
「えっと……それって結構なことだよね?」
もしこれで話が通じなかったらどうするんだよ。
いや待て……もし話が出来たとしても中身は相当な力の持ち主なんだろ?
意外と邪悪な考えの持ち主でこちらを殺すのを何とも思わないようなヤツだったりしたら洒落にならないだろ。
「これはちょっと覚悟をしておいた方が良さそうだな」
「あの、勇者って死なないのは本当ですか?」
「そうらしいんだけど、俺は正規の方法で降りてきていないからそこは疑問なんだよね」
「そうなのですか? でしたら無茶なことはしないでください……もしここで勇者様が居なくなってしまったら……」
「分かってるって、俺は連コインをしない主義だから」
「連コイン?」
「あ、いや気にしないで」
「とはいえあのアンデッド見てると、凄く嫌な予感がしてくるんだよな」
なんかさ、これって絶対に死ぬって流れだよね。
『そこにいる憎き聖職者が!』
ネクロマンサーが更に喋り始めた。
「わたくしのことでしょうか?」
「多分……」
『人が苦労して作ったアンデッドをことごとく、お、追い返しやがってぇ、ここまでにするのに、ど、どれだけ大変だったと思っているんだ。わ、分かっているのか!』
「あらら……セレーネに凄くご立腹らしいぞ」
うーん、ちょっとだけ分からないでもない。
戦略ゲームなんかでユニットを必死で揃えたのにあっさりやられると、めっちゃ切れそうになるよね。
「何を仰っているのか、あのような死者を弄ぶものを作る方が悪いのではありませんか!」
正論だけど、さすがに聞こえていないと思う。
それにしても相手の話し方が、妙にダメなオタクっぽい感じがするんだよな。
この日は宵闇と同時に彼奴らが現れたのだった。
俺達は櫓の上でそれをずっと見ていた。
持っている杖の先端に煌々とした明かりを照らしながらゆっくりと歩いてくる。
あきらかに明るすぎるし色が違う。まるでLEDライトのようだった。
「あれって松明の灯りじゃないよな」
「あれは魔法の灯りです。でもわたくしが知っているのと大分明るさが違いますけど」
その明るいライトの下にいる相手はたったの二人。
おかげでよく見える。共にローブ姿で目深にフードを被っているので人なのかアンデッドなのか区別が付かない。
だがその分そこだけが明るすぎて、暗闇に隠れているのがいたとしたら見つけづらい。
杖を持っているやつは動きが少しぎこちない。
そしてもう一人は、直利不動で立っている。
「それにしても、わざと明るくしているのは余裕の表れでしょうか?」
砦長の声に緊張が混じっているのが分かる。
「だと思うけど……でもどうすればいいんだあれ。そもそも人間なのか?」
『お前達は……このわしを本気にさせた! これからお前達全員を配下にしてやるから感謝するがいい』
突如大きな声が聞こえてきた。
「ビックリした……」
「……これは拡声魔法の一つです」
セレーネが丁寧に注釈を入れてくれる。
どうやら相手は相当なご立腹な様子。
「相手は何をバカなことを言ってんだ」
どんだけ自己中なんだと返したいが、こちらの声は届きそうにない。
『さあ、滅びるがいい!』
その声と共に直立不動のヤツが前に出てくる。
ずっと直立不動のままだった。
「ちょっと待て、あれなんか変な動きしてないか」
歩いていれば多かれ少なかれ肩や頭が揺れるもの。だがそいつはまるで動く歩道にでも乗っているかのように身体一つ動かさず前に進んでいた。
「もしかしてだけど、あれってアンデッドだったり?」
「あれは……、多分高位のアンデッドで……実体があるのでワイトではないかと」
「ワイト? なんか聞いたことがあるな……」
なんかのゲームだと思ったけど確かアンデッドの種類で見た目は人間もしくはゾンビだが凄く強いんじゃなかったっけ。
「本当にワイトだとしたら……」
セレーネは不安そうな顔をしていた。
なんかまじでヤバそうな感じだな。
「そんなに強いのか?」
「見た目は普通のゾンビみたいですが、目は禍々しい光を帯びていてゾンビとは比較にならないほどの強力な力で全てを破壊します」
そこまで強そうには見えないが、聖職者でアンデッドに詳しいセレーネが言うのだから間違いはないのだろう。
「あの一体で、この砦を簡単に陥落させることが出来ます」
「まじか!?」
「おそらくですが勇者様がそれまで見送ったゾンビを全て足しても全く歯が立たないレベルです」
「おおう……」
さすがに俺もびびってしまう。
「そんなに強いアンデッドを操れるなら、あのネクロマンサーも相当強いんじゃないのか」
「ネクロマンサーはどんなに高レベルになったとしても、相応の素体を手に入れなければ強いアンデッドは作れません」
「じゃあ、あのワイトは生前は凄い存在だったってことなのか」
「そこは術士のレベルがどれほどかによりますが、勇者とはいかないまでもそれに近い強さを持った者になるかと」
「えっと……それって結構なことだよね?」
もしこれで話が通じなかったらどうするんだよ。
いや待て……もし話が出来たとしても中身は相当な力の持ち主なんだろ?
意外と邪悪な考えの持ち主でこちらを殺すのを何とも思わないようなヤツだったりしたら洒落にならないだろ。
「これはちょっと覚悟をしておいた方が良さそうだな」
「あの、勇者って死なないのは本当ですか?」
「そうらしいんだけど、俺は正規の方法で降りてきていないからそこは疑問なんだよね」
「そうなのですか? でしたら無茶なことはしないでください……もしここで勇者様が居なくなってしまったら……」
「分かってるって、俺は連コインをしない主義だから」
「連コイン?」
「あ、いや気にしないで」
「とはいえあのアンデッド見てると、凄く嫌な予感がしてくるんだよな」
なんかさ、これって絶対に死ぬって流れだよね。
『そこにいる憎き聖職者が!』
ネクロマンサーが更に喋り始めた。
「わたくしのことでしょうか?」
「多分……」
『人が苦労して作ったアンデッドをことごとく、お、追い返しやがってぇ、ここまでにするのに、ど、どれだけ大変だったと思っているんだ。わ、分かっているのか!』
「あらら……セレーネに凄くご立腹らしいぞ」
うーん、ちょっとだけ分からないでもない。
戦略ゲームなんかでユニットを必死で揃えたのにあっさりやられると、めっちゃ切れそうになるよね。
「何を仰っているのか、あのような死者を弄ぶものを作る方が悪いのではありませんか!」
正論だけど、さすがに聞こえていないと思う。
それにしても相手の話し方が、妙にダメなオタクっぽい感じがするんだよな。
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