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第7章 三つ巴の攻防
夜通し語り合う
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そっからは、意外にも穏やかない時間となった。
クリスは、溜め込んだものを出し切ることにしたようだ。
俺たちの出会いから「あの時のおまえは可愛かった」だの「ああいうのは良くない」だの、「あいつは実はお前を狙っていた」だの。ひたすら説教だ。
俺は何故か「そりゃあ俺が可愛すぎたな。悪かった」「もう腹を出して寝ねえ」だの謝るハメになり、「俺の顔がいいのは理解してる。が、あの表情ヤメロってどの表情だよ!」と困惑させられたり、意味不明だが、ズボンの裾を捲らないようにする、腹はしまうだの約束させられた。
俺も「なら、そんとき言えよ!」だの「このムッツリめ!別にそれエロくねえ」だの「基本的なこと忘れてねえか?俺は男だぞ?」だのツッコミまくる。
馬鹿みたいにお互いに言い合える、この関係が俺は好きなんだ。学生時代も昔も、沢山の奴らが俺に近づきたがり、そのくせ俺を神聖視したり俺に執着した。気を抜いて笑いあえるやつなんて居なかった。俺に「馬鹿」だのほざいてどついたり、俺の失敗をゲラゲラ笑ったり、ワシワシと頭を撫でたりするのはコイツだけだ。俺の扱いが適度にぞんざいなんだ。それが俺には心地いい。
「なあ…クリス。一度しか言わねえぞ。俺はお前と出会って救われた。俺と対等でいてくれるお前の存在に救われたんだ。フィオに出会うまで、お前だけが俺に息をさせてくれた。俺も普通だと感じさせてくれた。……俺から親友を奪わないでくれてありがとう」
ふ、とクリスが笑う。
「そりゃお互いさまだな」
「礼に今後クリスの治療は無償にしてやるよ。聖女様の治療だぜ?大サービスだ」
「ギルド半額も追加で」
「却下。破格にしてやってんだろうがよ。病院でかくすんだから、無理」
「伯爵で公爵夫人になるんだろ?ケチケチすんなよ!」
「世間ってのは厳しいもんだ。ひとつ勉強になったな、ゴリラ」
「友情って儚いな、守銭奴め」
「まあまあ。孤児院の裏を買い取ってデケエ病院建ててやっから!楽しみにしてろ」
「ついでにギルドもデケェの建ててくれよ」
「贅沢言うな。フィオの部屋も用意してくれんなら考えてやる」
「はあ?あいつは用なんてねえだろ」
「フィオは俺の福利厚生だ。俺の癒しだな」
「俺だってお前の癒しだろうがよ」
「お前ほど癒しから遠いヤツ居ねえだろ。フィオがいねー時は精霊の遊び場にすりゃいい」
「ああ。そういや、今どこにいるんだ?」
「ゴリラにビビってどっか行っちまった。呼べば来るってさ」
「飼い犬かよ」
「かわいいんだからいいじゃねえか。
あと、精霊は幸運を運ぶらしい。精霊がギルドを居場所にしてくれるなら冒険者の致死率も下がるかも知れねえぞ?」
「すぐに部屋は用意させる」
「現金だな」
ダラダラぐだぐだ、ちょっとの切なさを肴に話して飲んで。
いつの間にか朝を迎えた。
少しうとうとしたらしい。気がつけば居間のソファに寝かされ、足元でクリスが潰れていた。
無精髭にぐしゃぐしゃと乱れた髪。泊まりの時に見慣れたいつものクリスだ。
ふーっ、と深くため息をつく。
フィオとクリスに我慢を強いてギリギリ繋いだ俺の親友。
勝手だよな、俺は。
「……ごめんな、クリス」
お前が呼べば必ず駆け付けるから。お前が危機のときは必ず助けるからさ。許してほしい。
こいつに言ったら怒るだろうけど、こいつを親友に縛り付けて、俺は願う。いつかこいつにも俺にとってのフィオが現れますように。理屈じゃない、唯一が現れますように。俺が与えてやれねえもんを、こいつに与えてくれますように。
神だかなんだかしらんが、聖女の祈りなんだ、聞いてくれよ。
クリスは、溜め込んだものを出し切ることにしたようだ。
俺たちの出会いから「あの時のおまえは可愛かった」だの「ああいうのは良くない」だの、「あいつは実はお前を狙っていた」だの。ひたすら説教だ。
俺は何故か「そりゃあ俺が可愛すぎたな。悪かった」「もう腹を出して寝ねえ」だの謝るハメになり、「俺の顔がいいのは理解してる。が、あの表情ヤメロってどの表情だよ!」と困惑させられたり、意味不明だが、ズボンの裾を捲らないようにする、腹はしまうだの約束させられた。
俺も「なら、そんとき言えよ!」だの「このムッツリめ!別にそれエロくねえ」だの「基本的なこと忘れてねえか?俺は男だぞ?」だのツッコミまくる。
馬鹿みたいにお互いに言い合える、この関係が俺は好きなんだ。学生時代も昔も、沢山の奴らが俺に近づきたがり、そのくせ俺を神聖視したり俺に執着した。気を抜いて笑いあえるやつなんて居なかった。俺に「馬鹿」だのほざいてどついたり、俺の失敗をゲラゲラ笑ったり、ワシワシと頭を撫でたりするのはコイツだけだ。俺の扱いが適度にぞんざいなんだ。それが俺には心地いい。
「なあ…クリス。一度しか言わねえぞ。俺はお前と出会って救われた。俺と対等でいてくれるお前の存在に救われたんだ。フィオに出会うまで、お前だけが俺に息をさせてくれた。俺も普通だと感じさせてくれた。……俺から親友を奪わないでくれてありがとう」
ふ、とクリスが笑う。
「そりゃお互いさまだな」
「礼に今後クリスの治療は無償にしてやるよ。聖女様の治療だぜ?大サービスだ」
「ギルド半額も追加で」
「却下。破格にしてやってんだろうがよ。病院でかくすんだから、無理」
「伯爵で公爵夫人になるんだろ?ケチケチすんなよ!」
「世間ってのは厳しいもんだ。ひとつ勉強になったな、ゴリラ」
「友情って儚いな、守銭奴め」
「まあまあ。孤児院の裏を買い取ってデケエ病院建ててやっから!楽しみにしてろ」
「ついでにギルドもデケェの建ててくれよ」
「贅沢言うな。フィオの部屋も用意してくれんなら考えてやる」
「はあ?あいつは用なんてねえだろ」
「フィオは俺の福利厚生だ。俺の癒しだな」
「俺だってお前の癒しだろうがよ」
「お前ほど癒しから遠いヤツ居ねえだろ。フィオがいねー時は精霊の遊び場にすりゃいい」
「ああ。そういや、今どこにいるんだ?」
「ゴリラにビビってどっか行っちまった。呼べば来るってさ」
「飼い犬かよ」
「かわいいんだからいいじゃねえか。
あと、精霊は幸運を運ぶらしい。精霊がギルドを居場所にしてくれるなら冒険者の致死率も下がるかも知れねえぞ?」
「すぐに部屋は用意させる」
「現金だな」
ダラダラぐだぐだ、ちょっとの切なさを肴に話して飲んで。
いつの間にか朝を迎えた。
少しうとうとしたらしい。気がつけば居間のソファに寝かされ、足元でクリスが潰れていた。
無精髭にぐしゃぐしゃと乱れた髪。泊まりの時に見慣れたいつものクリスだ。
ふーっ、と深くため息をつく。
フィオとクリスに我慢を強いてギリギリ繋いだ俺の親友。
勝手だよな、俺は。
「……ごめんな、クリス」
お前が呼べば必ず駆け付けるから。お前が危機のときは必ず助けるからさ。許してほしい。
こいつに言ったら怒るだろうけど、こいつを親友に縛り付けて、俺は願う。いつかこいつにも俺にとってのフィオが現れますように。理屈じゃない、唯一が現れますように。俺が与えてやれねえもんを、こいつに与えてくれますように。
神だかなんだかしらんが、聖女の祈りなんだ、聞いてくれよ。
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