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第7章 三つ巴の攻防
フィオは特別
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フィオの口から出たとんでもないセリフに俺は仰天した。
「いや、マジで言ってるのか?フィオはそれでいいのかよ?」
「はあ?嫌に決まっていますよね⁈」
だよなあ!
我ながらどうかと思うが、俺は何故か少しほっとした。
フィオは苦虫を噛み潰したような顔でこう続けた。
「でも、私にはあなたを手放すという選択肢はありませんから。向こうも同じでしょうね。あなたが彼を捨てられない以上、仕方ないではありませんか」
「すまん」
それ以外に俺がなにを言えるだろうか。
神妙な面持ちで話を聞く俺に、クリスは少しだけ表情を緩めた。
「そんな顔をしないでください。あなたのいない人生を思えば………。私は不落のゲイルを手に入れたのです。それだけでも僥倖だと理解していますから」
切なげに目を細め、その掌で俺の頬に触れる。
伝わる少し低めの体温に、無意識にまるで甘えるように頬を擦り寄せた自分に気付き、ハッとした。
そんな俺に、クスリとフィオが笑う。
「ほら。あなたは誰にもこうは触れさせないでしょう?でもクリスの手は受け入れ許容していました。そして…私の手には当たり前のように甘えてくれる。私は特別なのだと、その行動で示してくれる。だから、許します」
軽蔑されると思った。
許されないのではと怖かった。
フィオを傷付けると分かっていて、親友を捨てられない自分が許せなかった。
でも、お前はそんな俺を許すと言ってくれるのか?
言葉の出ない俺に、苦笑するフィオ。
「ゲイル……泣かないで?大丈夫。私はあなたから離れません」
泣いてねえよ。
勝手に…目から水が出るんだ。自分でもどうしようもないんだ。
俺はフィオの肩に顔を埋め、顔を隠した。
そんな俺の背にフィオの腕が周り、優しくとんとんとリズムを刻む。
ああ…
途方もない安心感が俺を包んだ。
こいつを拾って、甘やかして、幸せにしてやりたいと思った。なのに、いつのまにか甘やかされていたのは俺だ。
背を預け、共に戦ってくれるのがクリスなら、フィオは俺が帰る場所なんだ。唯一俺が甘やかして甘やかされることを許した男。
なんだ、答えなんて…とっくに出てるじゃねえか。
クリスは、俺にとって兄弟みてえなヤツで、唯一の親友なんだ。失えないし、失いたくない。
だけど……フィオとは違う。
クリスが俺に求める感情と、俺があいつにやれる感情は違うんだ。
「クソ…!」
バチン!自らの頬を叩いて気合いを入れ、ガバリと頭を下げた。
「ゲイル⁈」
「すまん。血迷った。アイツは俺にとっての唯一の親友なんだ。アイツがいたから、今の俺がいる。お前に会うまで、家族の他にはアイツとハルトだけだったんだ」
「分かっています」
「いや、分かってねえ!
お前に会うまで、だ。お前は違うんだよ。全然違ったんだ。お前も言ったろ?フィオは特別なんだよ。フィオだから、結婚したいと思ったんだ。男に組み敷かれてもいいと思ったんだ。クリスにじゃねえ。
あいつが『つけ込む』と言った意味が分かった。旅の終わりで感傷的になっちまってたんだ。あいつは俺にとって親友で兄のような存在だ。失いたくねえって気持ちにつけ込まれた。だが……兄とは結婚はできねえ。失いたくねえが、無理だ」
「それがあなたの答えですか?」
「ああ。答えだ」
俺は今度こそ間違えない。フィオが許してくれたからこそ、出せた答えだ。
フィオの目を正面から見つめる。
お前を無駄に傷つけちまった。クリスも……これから傷つけるだろう。だけど、このまま絆されれば……いつかどちらも失うことになっていた。だから、もう俺は間違えない。
俺の心を探るように、フィオは真剣なまなざしでじっと俺の瞳を覗き込んでいた。
「分かりました。……………良かった…………」
そのままガクリと俺の胸に倒れこんできた。
「フィ、フィオ?!」
「……すみません。ほっとして……。正直、これまでいつかクリスにあなたを取られるのではないかと……その懸念が捨てきれませんでした。あなたは優しいから、唯一の友である彼にすがられれば絆されてしまう。でも、あなたは決断してくれた。………ありがとうございます」
俺の服を掴むクリスの手が震えているのに気づき、俺は自分を殴りたいと思った。
「いや、謝るのは俺だろ?!結婚するってえのに俺ってやつは……。優柔不断ですまん。クリスを捨てたくねえ俺の甘えでお前を傷つけた」
「では、償ってもらいます」
フィオの言葉に俺は頷いた。だよな。それだけ酷いことをしたという自覚はある。
「ああ。……なんでもしよう」
「一生私と共に生きてください」
言葉を失う俺に、フィオは微笑んだ。
「聞こえませんでしたか?一生私と共に生きてくださいと言ったのです。よろしいですか?」
「……ああ。もちろん。一生お前と共に生きると誓う」
「ふふふ。ありがとうございます」
フィオは俺の身体をぎゅうっと強く抱きしめると、グイっと俺の手を掴み、立ち上がらせた。
「では、行きますよ」
「どこにだ?」
驚く俺に、フィオはにっこりと力強い笑みを見せる。
「あなたから親友を奪うわけにはいきません。全力でクリスを絆しましょう。私がクリスを逃がしません」
「いや、マジで言ってるのか?フィオはそれでいいのかよ?」
「はあ?嫌に決まっていますよね⁈」
だよなあ!
我ながらどうかと思うが、俺は何故か少しほっとした。
フィオは苦虫を噛み潰したような顔でこう続けた。
「でも、私にはあなたを手放すという選択肢はありませんから。向こうも同じでしょうね。あなたが彼を捨てられない以上、仕方ないではありませんか」
「すまん」
それ以外に俺がなにを言えるだろうか。
神妙な面持ちで話を聞く俺に、クリスは少しだけ表情を緩めた。
「そんな顔をしないでください。あなたのいない人生を思えば………。私は不落のゲイルを手に入れたのです。それだけでも僥倖だと理解していますから」
切なげに目を細め、その掌で俺の頬に触れる。
伝わる少し低めの体温に、無意識にまるで甘えるように頬を擦り寄せた自分に気付き、ハッとした。
そんな俺に、クスリとフィオが笑う。
「ほら。あなたは誰にもこうは触れさせないでしょう?でもクリスの手は受け入れ許容していました。そして…私の手には当たり前のように甘えてくれる。私は特別なのだと、その行動で示してくれる。だから、許します」
軽蔑されると思った。
許されないのではと怖かった。
フィオを傷付けると分かっていて、親友を捨てられない自分が許せなかった。
でも、お前はそんな俺を許すと言ってくれるのか?
言葉の出ない俺に、苦笑するフィオ。
「ゲイル……泣かないで?大丈夫。私はあなたから離れません」
泣いてねえよ。
勝手に…目から水が出るんだ。自分でもどうしようもないんだ。
俺はフィオの肩に顔を埋め、顔を隠した。
そんな俺の背にフィオの腕が周り、優しくとんとんとリズムを刻む。
ああ…
途方もない安心感が俺を包んだ。
こいつを拾って、甘やかして、幸せにしてやりたいと思った。なのに、いつのまにか甘やかされていたのは俺だ。
背を預け、共に戦ってくれるのがクリスなら、フィオは俺が帰る場所なんだ。唯一俺が甘やかして甘やかされることを許した男。
なんだ、答えなんて…とっくに出てるじゃねえか。
クリスは、俺にとって兄弟みてえなヤツで、唯一の親友なんだ。失えないし、失いたくない。
だけど……フィオとは違う。
クリスが俺に求める感情と、俺があいつにやれる感情は違うんだ。
「クソ…!」
バチン!自らの頬を叩いて気合いを入れ、ガバリと頭を下げた。
「ゲイル⁈」
「すまん。血迷った。アイツは俺にとっての唯一の親友なんだ。アイツがいたから、今の俺がいる。お前に会うまで、家族の他にはアイツとハルトだけだったんだ」
「分かっています」
「いや、分かってねえ!
お前に会うまで、だ。お前は違うんだよ。全然違ったんだ。お前も言ったろ?フィオは特別なんだよ。フィオだから、結婚したいと思ったんだ。男に組み敷かれてもいいと思ったんだ。クリスにじゃねえ。
あいつが『つけ込む』と言った意味が分かった。旅の終わりで感傷的になっちまってたんだ。あいつは俺にとって親友で兄のような存在だ。失いたくねえって気持ちにつけ込まれた。だが……兄とは結婚はできねえ。失いたくねえが、無理だ」
「それがあなたの答えですか?」
「ああ。答えだ」
俺は今度こそ間違えない。フィオが許してくれたからこそ、出せた答えだ。
フィオの目を正面から見つめる。
お前を無駄に傷つけちまった。クリスも……これから傷つけるだろう。だけど、このまま絆されれば……いつかどちらも失うことになっていた。だから、もう俺は間違えない。
俺の心を探るように、フィオは真剣なまなざしでじっと俺の瞳を覗き込んでいた。
「分かりました。……………良かった…………」
そのままガクリと俺の胸に倒れこんできた。
「フィ、フィオ?!」
「……すみません。ほっとして……。正直、これまでいつかクリスにあなたを取られるのではないかと……その懸念が捨てきれませんでした。あなたは優しいから、唯一の友である彼にすがられれば絆されてしまう。でも、あなたは決断してくれた。………ありがとうございます」
俺の服を掴むクリスの手が震えているのに気づき、俺は自分を殴りたいと思った。
「いや、謝るのは俺だろ?!結婚するってえのに俺ってやつは……。優柔不断ですまん。クリスを捨てたくねえ俺の甘えでお前を傷つけた」
「では、償ってもらいます」
フィオの言葉に俺は頷いた。だよな。それだけ酷いことをしたという自覚はある。
「ああ。……なんでもしよう」
「一生私と共に生きてください」
言葉を失う俺に、フィオは微笑んだ。
「聞こえませんでしたか?一生私と共に生きてくださいと言ったのです。よろしいですか?」
「……ああ。もちろん。一生お前と共に生きると誓う」
「ふふふ。ありがとうございます」
フィオは俺の身体をぎゅうっと強く抱きしめると、グイっと俺の手を掴み、立ち上がらせた。
「では、行きますよ」
「どこにだ?」
驚く俺に、フィオはにっこりと力強い笑みを見せる。
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