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第五章 ゲイルは聖女

こんなに大変なもんなのか?!

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そっから……すげえめにあった。
次から次にと布を当てられ(前回よりも高級素材になっていた)ああでもないこうでもないとされること3時間。女性陣すら飽きて引き揚げてしまった。俺もうんざりなんだが、フィオがあまりにも楽しそうなので付き合っている。
そう。今回張り切ってしまっているのはフィオなのである。
こいつはあまり服にこだわりなどなかったはずなのに、エリアナと義姉の影響を受け、いまや心血注いでいるかのような入れ込みよう。

「ゲイルは聖女ですから白がいい。柔らかな素材ではゲイルのあまりにもセクシーなボディラインが出てしまう。少し張りのある素材にしましょう。いや、いっそその魅力を見せつける方がいいのか?」

……正直どっちでもいい。俺的にはこんな時には自分の利点は最大限に活かして圧をかける派だから、どちらかといえば柔らかな素材か?鍛え上げた身体には自信があるからな。

「天に輝く日のように光り輝くような白、夜空に光る星のような静寂さを帯びた白、氷のように清廉な白、早朝の湖のような透明感のある白、真珠のように柔らかなまろみをおびた白、何物にも染まらぬ純然たる白、自然な色合いの優しさを帯びた白、どの白が良いのでしょうか?」

白の表現力、すげえな。確かに言われてみれば何となく違うが、逆をいえばたいして違いはない。
だが賢明な俺はこう口にするに留めた。

「とりあえず清廉でいいんじゃね。聖女だし」

なんとなくだが青みがかっているように見えるから、フィオの瞳に似合うだろう。
うん。フィオの衣装もこの布にしよう。んで、俺の髪色の金糸で刺繍を入れさせよう。キラキラとした輝きがフィオの艶やかな銀糸に輝きを与えるに違いない。上着のテールは長めにしよう。フィオの長身を際立たせるように、シルエットはスッキリと……
となると、クラバットは……

ここまで考えてふと我に返った。
なんだよ、俺もフィオとかわんねえじゃねえか。
フィオの衣装を選ぶときは、俺もフィオみてえになる自信あるわ。

「なあ、フィオ」
「なんですか?疲れましたか?あと少しだけお付き合いいただけますか?」
「いや、あのさあ。俺ら、すげえお互いにイカレちまってんな」
「今頃気づいたのですか?」
「フィオってさ、すげえ俺に惚れてんだろ。俺も相当フィオに惚れてるわ」
「ふふふ。知っています。私はかわいいですからね」
「あの自己肯定感低めだったフィオがこんなことを口にするようになるなんてなあ。
俺、すげえうまく育てたんじゃね?」
「あなたが溢れるほどの愛情を注いでくれたから」
「うん。すんげえ注いだ。お前を甘やかしてやるって決めたからな」
「甘やかされました」
「おう。甘やかしたぜ」

ああ。幸せだ。
聖女が幸せだと世の中平和なんだっけ?なら、これからずっとこの国は平和なんじゃねえか?
すんげえ満たされてるからな。

俺の愛情は人よりも重い。好きになった奴はずぶずぶに甘やかしたいし、甘えたい。
だけど、俺にずぶずぶに甘やかされた奴はダメになっちまう。俺に依存して、俺に狂っちまう。
かなり昔から俺はそのことに気づいていた。

ちょっと優しくしただけのヤツが、勝手に婚約破棄して迫ってきたり。いいなと思ったヤツは俺を監禁するために地下室を作っていた。まあ、ぶちのめしてやったんだが。
女は女で、少しでも目をかければ媚薬を盛ってきたり(俺にはヒールがあるから効かないが)、行く先々に現れて付き纏ったり。(だから全ての女性に「軽いが逃げ足の速い男」になりきることにしている。ぶちのめせねえからな)

そういうのにはうんざりだった。
癒すはずの医者なのに、俺の愛は人を壊しちまう。俺はおかしいんじゃないかとすら思った。魅了とかの呪い持ちかとすら疑った。
だから、広くまんべんなく愛を注ぐ代わりに特別は作らないことにしたんだ。

ハルトやギルド長なんかは、まあ友人枠ってことで。愛情を注ぐってのとは違うからな。信頼を与えるっつー感じだ。

でも、フィオは例外だった。こいつには俺ぐらいの愛情が必要なんだと思った。
こいつは俺の愛情を全部受け止めて、それでも壊れねえ。
しなやかにしたたかに。与えられたものを与えられた分だけ幸せそうに甘受する。
こんなに俺を好きって全身で訴えてくるくせに、俺を閉じ込めようとか、制限しようとか考えもしねえ。
ありのままの俺を受け入れてくれるんだ。
好きなだけ甘やかしていい存在がいるってことが、俺にとってどんなに幸せなことかこいつは知らねえんだろうなあ。
俺だってこいつに救われたんだ。



結局、俺もフィオの衣装にああだこうだ言い出し、衣装の布選びだけで3日もかかった。
うん。すまん。
確かに準備に1年くらいかかるわ。
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