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アイデンティティ

男には譲れない戦いがある

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ギルドからの帰り道。
フィオはご機嫌だった。尻尾ふりふり、スキップしそうな勢いである。

「……いや、お前さ。もうばらしたとはいえ、これは……ねえだろ」


そう。俺の右手は今フィオの左手に包まれている。指と指を絡めた、いわゆる恋人繋ぎというやつだ。
男ふたり、うきうきルンルンしたフィオと手をつないで歩いているのだ。
ハッキリ言って注目の的である。
しかし、俺にはフィオの腕を払うという選択肢はない。だって、こんなに嬉しそうにしているんだぞ⁈


まちの連中が生暖かい視線を俺によこしやがる。
頼むからそのグッジョブはヤメロ!
馴染みの惣菜やの顔に「マジか」と書いてある。マジだわこんにゃろう!

おい!クソオヤジ!そっとフィオの手に香油を握らせるんじゃねえ!
フィオもこんなところでジロジロみるな!それは香水じゃねえ!ベッドで使うもんだ!

いたたまれなくて俺は俯きながら猛烈な勢いで足を進めた。耳が熱い。
クソ!馬車を呼んでおくんだったぜ!



屋敷にたどり着いた時には、俺はぐったりとしてしまっていた。
大きなソファに足を投げ出すようにしてボスンと身体を沈み込ませる。

「大丈夫ですか?ゲイル。何か飲みますか?」
「ああ。水を一杯たのむ」

すぐに冷たく冷えたコップが差し出された。ご丁寧に氷魔法で冷やしてくれたようだ。

ごっごっごっ!
俺はその水を一気に喉に流し込んだ。

「プハー!美味い!」
「おかわりは?」

上から覗き込むように手を伸ばすフィオに、ドキンと胸が高鳴る。
いや、もう、なんだこれ!
俺、コイツとエリアナをくっつけようとしたんだぞ?馬鹿かそんときの俺!
俺、すんげえコイツのこと好きじゃねえか!

伸ばされた手を掴み、グイッと引っ張れば、バランスを崩したフィオが倒れ込んで来た。

「うわっ!ゲイル?何を……」
「黙れよ」

そのまま噛み付くように唇を奪う。
息苦しいのか微かに息をついた隙にするりと舌を忍ばせ口中を探る。

「……っふ……っは……」

荒い息をの合間に聞こえる艶かしい声。
ズクンと下肢に熱が溜まる。

ぐるん、と位置を変えフィオの上にのしかかれば、フィオが驚いたように目を見開いた。
グイッと腕をつっぱるようにして俺と距離をとる。

「……ゲイル?」
「フィオ……かわいい」

伸ばされた腕を取り敏感な内側に舌を這わせば、フィオがビクリと反応した。
ああ、なんて可愛いのだろう。

俺は今まで性欲なんてたいして感じずに生きて来た。男女問わず誘われるがウザいだけだった。
望まぬ20も離れた男との結婚を前にどうしてもと請われ、同情からベッドを共にした女性はいたが、それだけだ。
だが、フィオと寝てからタガが外れてしまったようだ。俺がフィオを抱きたい。気持ちいいと哭かせてみたい。男の本能、というのを初めて感じた。

普段は済ました顔が赤らみ、溶けていく様子にどうしようもなく煽られる。コイツにこんな顔をさせているのは俺だ。コイツがこんな顔を見せるのは俺だけだ。
潤んだ目、赤らんだ目元が堪らない。

「なあ、フィオ。抱いていいか?」
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