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聖女を救え!
宰相の思惑と聖女様の思惑
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聖女様がいうには、宰相ももともとはああではなかったのだという。
確かに戦争により属国となった国の民ではあったが、そもそも属国になる前のその国は非常に貧しく、帝国に庇護下に入ったことで逆に豊かになり国民も感謝していた。
宰相もそれまではその知識も活かせず飼い殺しのようにされていたところを、王様に見いだされた。そのため祖国を侵略した敵というより「恩人だ」と言っていたそう。
だからこそ、妊娠し動けなくなった際、聖女様は宰相を信頼して王を託した。支えて欲しいと希望を託したのだ。
出産により衰弱してしまった身体に、宰相は薬草茶を届けてくれた。
「早く回復し、この国を救ってほしい」と。
しかし、長期に衰弱した身体はなかなか元には戻らず、聖女という支えを失った国は徐々に変わっていく。
他国に侵略することをやめ、兵は国内でくすぶり、王は治療のためにと薬剤を求め散財を繰り返すようになる。
宰相は徐々に不満を口にするようになった。
「王は変わってしまった」
「侵略により多くの国を救ってきたのに、今の体たらくは何なのだ!」
変わっていく宰相を、聖女様はいさめた。しかしそれがさらに宰相の不満を募らせる結果となった。
「そもそも、あなたがいけないのだ。自分の治療すらできずになにが聖女だ!ただ国の足かせとなっているだけではないか。それならば、私が新たな妃を選び、それを足台として国を変える。あの強く勇ましい帝国を取り戻すのだ!」
このころから、薬草が毒に代えられた。致死性のものではない。ただ回復を妨げ、聖女をここに縛り付けておくように。
「どうして王にそれを伝えなかったの?聖女さまが言えば、宰相は罰せられたんじゃないの?」
すると聖女様はそっと目を伏せた。
「私が倒れている間に……ナージャが人質に取られていたのです。身の回りの世話役など、すべて宰相に手配を任せていたものですから。私が宰相の反意に気付いた時にはすでに遅く……。彼に私を殺すつもりはないと分かっていました。私に回復して国を立て直す力がない以上、毒を受け入れ時を待つしかなかったのです」
ここで王がかの国から手に入れた薬草が偶然にも魔力を含んでいたことで、聖女は多少魔力を回復することができた。しかし、それも付け焼刃。自己治癒できるほどではなかった。ただそれによりベッドから身を起こすことができるようになった。ここでなんとかナージャの近くに宰相の手の回っていない人間を数人送り込むことができたのだという。
これで少しは状況が好転するかと思いきや、その薬草が高価なものだったことで事態はより悪化してしまう。王がその高額な薬草を手に入れるためなりふり構わず資金をつぎ込むようになったからだ。
宰相はこの時を逃さなかった。
「ちょうどいい駒が見つかりました。公国のやっかいものを引き取る代わりに、公国から持参金を貰い国を立て直します。あの強かった王は変わってしまった。もう駄目です。あなたは生かさず殺さず、王への人質となっていただきましょう。あなたを生かす薬草を手に入れるため、王は私の駒を受け入れざるを得ない」
ここからは知っての通り。
宰相は宰相で、側妃を利用して聖女の権力を弱め、聖女を人質に王を傀儡として国を思うがままに動かそうと暗躍。
側妃は側妃で、聖女を亡きものとし、この国の王妃となり権力を得たい。
そこに公国が欲を出し、三つ巴の欲が入り混じった状態となっていたのだ。
その間国は荒れる一方、というわけ。
ここまで聞くと、もうこれしか言いようがなかった。
「なにその地獄」
ゲイルも苦笑しかない。
「宰相のそれは……もはや妄執だ。『最強の帝国に救われた』のだという想いが暴走しちまってる」
「だよねえ……なんていうか……きっと宰相にしてみたら、王様に裏切られたとか思っちゃってるんじゃない?慕ってた人が変わっていくのを受け入れられなかったんだねえ。その責任を全部聖女のせいにしちゃってる、みたいな。それくらいなら、国の産業を支えるとか他の方向に力を注げばよかったのに。過去の栄光にすがりすぎなんだよ」
俺とゲイルは顔を見合わせた。
「うん。ここはサクッといきましょう!ゲイル、お願い!」
「よしきた!」
ゲイルが聖女の手を握る。
「ああ……魔力回路がイカれてる。だから魔力欠乏症になっちまったんだな。これを治療すれば魔力も回復するぞ。先にこれを飲んでおくといい」
魔力を補充するポーションを聖女に飲ませる。ちなみにこれは俺が作りました!
なんのことはない、ポーションにせっせと俺の魔力をこめておいたの。
これで魔力を回復させて、あらかじめ自己治癒力を高めてもらうのです。
安心してもらうために、一口飲んで見せようとしたら
「あら。大丈夫よ」
聖女様は疑いもせず一気にそれを飲み干した。
とたん、身体全体が発光し始めた。一時的にではあるが、魔力が回復したのだ。
えへん!そりゃあ俺の超特大濃厚魔力ですのでね!まかせて!
そこですかさずゲイルの
「エクストラヒール!」
ビッカーン!
慌てて目を覆ったとたん、強烈な光で部屋中が真っ白になった。セーフ!
その光が収まると……おおおお!ぴっかぴかの聖女様、降臨!
ほっぺもツヤツヤのピンク色。
髪の毛だってとぅるんとぅるん!
う、うつくしいいいい!!
「…………」
聖女様は驚いたように自分の手をひらひら。
足をパタパタ。
それから俺をじいっと見つめ、「うん」と頷くとにっこりほほ笑んだ。
「ありがとう。回復したわ。もう大丈夫」
え?な、なんで俺を見たの?てか、何を見た?!
確かに戦争により属国となった国の民ではあったが、そもそも属国になる前のその国は非常に貧しく、帝国に庇護下に入ったことで逆に豊かになり国民も感謝していた。
宰相もそれまではその知識も活かせず飼い殺しのようにされていたところを、王様に見いだされた。そのため祖国を侵略した敵というより「恩人だ」と言っていたそう。
だからこそ、妊娠し動けなくなった際、聖女様は宰相を信頼して王を託した。支えて欲しいと希望を託したのだ。
出産により衰弱してしまった身体に、宰相は薬草茶を届けてくれた。
「早く回復し、この国を救ってほしい」と。
しかし、長期に衰弱した身体はなかなか元には戻らず、聖女という支えを失った国は徐々に変わっていく。
他国に侵略することをやめ、兵は国内でくすぶり、王は治療のためにと薬剤を求め散財を繰り返すようになる。
宰相は徐々に不満を口にするようになった。
「王は変わってしまった」
「侵略により多くの国を救ってきたのに、今の体たらくは何なのだ!」
変わっていく宰相を、聖女様はいさめた。しかしそれがさらに宰相の不満を募らせる結果となった。
「そもそも、あなたがいけないのだ。自分の治療すらできずになにが聖女だ!ただ国の足かせとなっているだけではないか。それならば、私が新たな妃を選び、それを足台として国を変える。あの強く勇ましい帝国を取り戻すのだ!」
このころから、薬草が毒に代えられた。致死性のものではない。ただ回復を妨げ、聖女をここに縛り付けておくように。
「どうして王にそれを伝えなかったの?聖女さまが言えば、宰相は罰せられたんじゃないの?」
すると聖女様はそっと目を伏せた。
「私が倒れている間に……ナージャが人質に取られていたのです。身の回りの世話役など、すべて宰相に手配を任せていたものですから。私が宰相の反意に気付いた時にはすでに遅く……。彼に私を殺すつもりはないと分かっていました。私に回復して国を立て直す力がない以上、毒を受け入れ時を待つしかなかったのです」
ここで王がかの国から手に入れた薬草が偶然にも魔力を含んでいたことで、聖女は多少魔力を回復することができた。しかし、それも付け焼刃。自己治癒できるほどではなかった。ただそれによりベッドから身を起こすことができるようになった。ここでなんとかナージャの近くに宰相の手の回っていない人間を数人送り込むことができたのだという。
これで少しは状況が好転するかと思いきや、その薬草が高価なものだったことで事態はより悪化してしまう。王がその高額な薬草を手に入れるためなりふり構わず資金をつぎ込むようになったからだ。
宰相はこの時を逃さなかった。
「ちょうどいい駒が見つかりました。公国のやっかいものを引き取る代わりに、公国から持参金を貰い国を立て直します。あの強かった王は変わってしまった。もう駄目です。あなたは生かさず殺さず、王への人質となっていただきましょう。あなたを生かす薬草を手に入れるため、王は私の駒を受け入れざるを得ない」
ここからは知っての通り。
宰相は宰相で、側妃を利用して聖女の権力を弱め、聖女を人質に王を傀儡として国を思うがままに動かそうと暗躍。
側妃は側妃で、聖女を亡きものとし、この国の王妃となり権力を得たい。
そこに公国が欲を出し、三つ巴の欲が入り混じった状態となっていたのだ。
その間国は荒れる一方、というわけ。
ここまで聞くと、もうこれしか言いようがなかった。
「なにその地獄」
ゲイルも苦笑しかない。
「宰相のそれは……もはや妄執だ。『最強の帝国に救われた』のだという想いが暴走しちまってる」
「だよねえ……なんていうか……きっと宰相にしてみたら、王様に裏切られたとか思っちゃってるんじゃない?慕ってた人が変わっていくのを受け入れられなかったんだねえ。その責任を全部聖女のせいにしちゃってる、みたいな。それくらいなら、国の産業を支えるとか他の方向に力を注げばよかったのに。過去の栄光にすがりすぎなんだよ」
俺とゲイルは顔を見合わせた。
「うん。ここはサクッといきましょう!ゲイル、お願い!」
「よしきた!」
ゲイルが聖女の手を握る。
「ああ……魔力回路がイカれてる。だから魔力欠乏症になっちまったんだな。これを治療すれば魔力も回復するぞ。先にこれを飲んでおくといい」
魔力を補充するポーションを聖女に飲ませる。ちなみにこれは俺が作りました!
なんのことはない、ポーションにせっせと俺の魔力をこめておいたの。
これで魔力を回復させて、あらかじめ自己治癒力を高めてもらうのです。
安心してもらうために、一口飲んで見せようとしたら
「あら。大丈夫よ」
聖女様は疑いもせず一気にそれを飲み干した。
とたん、身体全体が発光し始めた。一時的にではあるが、魔力が回復したのだ。
えへん!そりゃあ俺の超特大濃厚魔力ですのでね!まかせて!
そこですかさずゲイルの
「エクストラヒール!」
ビッカーン!
慌てて目を覆ったとたん、強烈な光で部屋中が真っ白になった。セーフ!
その光が収まると……おおおお!ぴっかぴかの聖女様、降臨!
ほっぺもツヤツヤのピンク色。
髪の毛だってとぅるんとぅるん!
う、うつくしいいいい!!
「…………」
聖女様は驚いたように自分の手をひらひら。
足をパタパタ。
それから俺をじいっと見つめ、「うん」と頷くとにっこりほほ笑んだ。
「ありがとう。回復したわ。もう大丈夫」
え?な、なんで俺を見たの?てか、何を見た?!
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