もう我慢なんてしません!家族からうとまれていた俺は、家を出て冒険者になります!

をち。

文字の大きさ
上 下
253 / 356
聖女を救え!

帝国王の葛藤

しおりを挟む
結論を言おう。実は、王様は側妃様を喜んで迎えたわけではなかったのである。





これまでの王国は、周辺の小さな国を属国にし、その文化や技術を取り込むことで発展を遂げてきた。
属国となった国の国民も、小国のままでいるよりも結果的には暮らしが楽になるため感謝されるのだという。
その際には聖女も活躍。戦場に聖女がいる、それだけで軍人の気力と戦力は増した。聖女は傷ついた兵士を癒すのみならず、精神面でも王国を支えてきたのだ。

ところが、ナージャ出産で聖女様が弱りだした。それをきっかけにこの国の在り方そのものが変わってきた。
まず戦をやめた。聖女というわかりやすい旗印がなくなり、全体的な士気が下がってしまったのだ。「いざというときに聖女に助けてもらえる」それが当たり前になっていた兵士。その甘さゆえ、助けがないことで戦に尻込みするようになる。このまま戦を行えばこれまでよりも帝国側のダメージが多いのは明白。
ここで根本的な問題に考えが至る。そもそも戦は必要なのか?自国民を失ってまで他国に侵略する必要はあるのか?国もある程度大きくなり、ダメージの多い戦をしてまで属国を増やすメリットはなくなっていた。
こうして戦を止め、平和な治世に突入した帝国。

しかしその切り替えが上手くいかなかった。軍人たちの仕事はほぼ要人警護。街の見回りはするが、士気は上がらず腕前は錆びるばかり。武力と技術で成り立ってきた帝国は、徐々に技術のみの国になりつつあった。

一方でナージャを産んでから弱ってしまった聖女様を、王様はなんとか回復させようと力を尽くした。
珍しい薬草、高価なポーションなどあらゆるものを買い求め、聖女に飲ませる。それでも聖女は回復しない。
しかし、ある高級な薬草を飲ませてみたところ、悪化を何とか防ぐことができたというのだ。それは帝国にはない、公国にのみ生えている薬草だった。
ところが、不幸にもこの薬草は非常に高価なもので、毎日毎日何年も飲ませているうちに徐々にその費用が国庫を圧迫し始めたのだ。

ここから帝国の腐敗はハイスピードで進むことになる。

戦術に長けてはいても、貴族間のやり取り、権謀術数の苦手な王家は、元属国の宰相だった人物を宰相に据え、ブレインとして知恵を借りていた。
その宰相の妻が元公国の人間だったのだ。彼女は王にこう申し出た。「公国に伝手がある。なんとか薬草を融通してもらえないか相談してみよう」と。

その結果、公国からこのような話がもたらされた。
実は公国には3人の王女がいた。その第3王女は非常に美しく父王に溺愛されているのだが、一方で自分より身分が下のものを馬鹿にしており、ある高位貴族ともめごとを起こした。廃嫡するのもしのびないので、側妃としてもらってほしいというのだ。
宰相も「正妃様がご病気であり、世継ぎもナージャ殿下のみ。ナージャ殿下になにかあれば王家は滅ぶ。側妃を迎えてみては」と進言。
薬草の取引の契約、膨大な持参金とともに、側妃を迎えることになったというのだ。

公国の王は第三王女を溺愛しており、なにかあれば薬草の取引を停止するだろう。また、持参金は国庫の補填に充てられ、返還を求められても返還できない。
こうして側妃は母国を後ろ盾に、帝国で暗躍するようになったというのだ。
帝国の自慢の武力も落ち、帝国には公国と戦う力は既になかった。王はやむなく側妃を受け入れていたのだ。





ナージャが震える声で呟いた。

「父上は母上のために側妃を迎えたのか?ずっと……ずっと、父上は側妃に篭絡され、母上のことなどどうでもいいと思っているとばかり……」

「聖女様を救うためにはそれしかなかったのです。陸軍の一部は宰相に知られぬよう影で聖女様をお守りしておりました。帝国は聖女様がいなくなれば側妃が正妃に、という心づもりなのでしょう。徐々に輸入される薬草の量も少なくなり……」

「それで母上の容態が悪化しだしたのか……。では、聖獣が私に顕現したとたん、父上が私に冷たくなったのは……」

「殿下が側妃に狙われぬよう、冷遇していると思わせたのです。ナージャ殿下の留学も、側妃に邪魔をさせぬようにとフィガロ団長に密命を……。王国に高名な医師がいることは陛下も知っていらっしゃり、最後の希望にかけてみようと、ひそかに協力を命じられておりました。海軍がお連れし、陸軍が出迎えたのも、閣下のご指示です。今まで殿下と王国の皆様にお伝え出来ずに申し訳ございませんでした。王国側の意図を確認する必要があったのです。今の状況で王国に攻め入られたら帝国は終わり。どこまで信頼してよいのか分からなかったものですから……」

再度深々と頭を下げて謝罪するリアム団長。その横でフィガロ団長も頭を下げた。

「あなた方を試すようなことをしてすまん。聖女様の容体悪化は国の戦力にかかわること。皆に伏せられていた。リアムと俺にだけ、口外せぬとの約束で知らされたんだ。
もうこれでこっちの情報は全て出した。どうか……聖女を救ってほしい。申し訳ないが、王国の威だけ借りたい。後はこちらで動く」

「サフィ、レオン殿下。私からもお願いする。…………このご恩はいつか必ず返す。だから、どうか……頼む」





しおりを挟む
はじめまして。初めて書いてみたオリジナル異世界BL。可哀想な主人公が、それに負けずに力業で幸せになるのが好きです。ハピエン主義なので、完全無双のハピエンになります。誤字脱字など、ご容赦くださいませ(;・∀・)→ご指摘があれば修正いたしますので!ご都合主義の作者の自己満足小説です。作者豆腐メンタルのため、ご不満のある方は「そっ閉じ」でお願いいたします。。。お楽しみいただけましたら、ぜひぽちっとイイネをお願いいたします♡コメントもぜひ♡
感想 456

あなたにおすすめの小説

拝啓、婚約破棄して従妹と結婚をなされたかつての婚約者様へ、私が豚だったのはもう一年も前の事ですよ?

北城らんまる
恋愛
ランドム子爵家のご令嬢ロゼッティは、ある日婚約破棄されてしまう。それはロゼッティ自身が地味で、不細工で、太っていたから。彼は新しい婚約者として、叔父の娘であるノエルと結婚すると言い始めた。 ロゼッティはこれを機に、叔父家族に乗っ取られてしまったランドム家を出ることを決意する。 豚と呼ばれるほど太っていたのは一年も前の話。かつて交流のあった侯爵の家に温かく迎えられ、ロゼッティは幸せに暮らす。 一方、婚約者や叔父家族は破滅へと向かっていた── ※なろうにも投稿済

妹を溺愛したい旦那様は婚約者の私に出ていってほしそうなので、本当に出ていってあげます

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族令嬢であったアリアに幸せにすると声をかけ、婚約関係を結んだグレゴリー第一王子。しかしその後、グレゴリーはアリアの妹との関係を深めていく…。ある日、彼はアリアに出ていってほしいと独り言をつぶやいてしまう。それを耳にしたアリアは、その言葉の通りに家出することを決意するのだった…。

勘弁してください、僕はあなたの婚約者ではありません

りまり
BL
 公爵家の5人いる兄弟の末っ子に生まれた私は、優秀で見目麗しい兄弟がいるので自由だった。  自由とは名ばかりの放置子だ。  兄弟たちのように見目が良ければいいがこれまた普通以下で高位貴族とは思えないような容姿だったためさらに放置に繋がったのだが……両親は兎も角兄弟たちは口が悪いだけでなんだかんだとかまってくれる。  色々あったが学園に通うようになるとやった覚えのないことで悪役呼ばわりされ孤立してしまった。  それでも勉強できるからと学園に通っていたが、上級生の卒業パーティーでいきなり断罪され婚約破棄されてしまい挙句に学園を退学させられるが、後から知ったのだけど僕には弟がいたんだってそれも僕そっくりな、その子は両親からも兄弟からもかわいがられ甘やかされて育ったので色々な所でやらかしたので顔がそっくりな僕にすべての罪をきせ追放したって、優しいと思っていた兄たちが笑いながら言っていたっけ、国外追放なので二度と合わない僕に最後の追い打ちをかけて去っていった。  隣国でも噂を聞いたと言っていわれのないことで暴行を受けるが頑張って生き抜く話です

愛する人

斯波良久@出来損ないΩの猫獣人発売中
BL
「ああ、もう限界だ......なんでこんなことに!!」 応接室の隙間から、頭を抱える夫、ルドルフの姿が見えた。リオンの帰りが遅いことを知っていたから気が緩み、屋敷で愚痴を溢してしまったのだろう。 三年前、ルドルフの家からの申し出により、リオンは彼と政略的な婚姻関係を結んだ。けれどルドルフには愛する男性がいたのだ。 『限界』という言葉に悩んだリオンはやがてひとつの決断をする。

とある文官のひとりごと

きりか
BL
貧乏な弱小子爵家出身のノア・マキシム。 アシュリー王国の花形騎士団の文官として、日々頑張っているが、学生の頃からやたらと絡んでくるイケメン部隊長であるアベル・エメを大の苦手というか、天敵認定をしていた。しかし、ある日、父の借金が判明して…。 基本コメディで、少しだけシリアス? エチシーンところか、チュッどまりで申し訳ございません(土下座) ムーンライト様でも公開しております。

「あなたの好きなひとを盗るつもりなんてなかった。どうか許して」と親友に謝られたけど、その男性は私の好きなひとではありません。まあいっか。

石河 翠
恋愛
真面目が取り柄のハリエットには、同い年の従姉妹エミリーがいる。母親同士の仲が悪く、二人は何かにつけ比較されてきた。 ある日招待されたお茶会にて、ハリエットは突然エミリーから謝られる。なんとエミリーは、ハリエットの好きなひとを盗ってしまったのだという。エミリーの母親は、ハリエットを出し抜けてご機嫌の様子。 ところが、紹介された男性はハリエットの好きなひととは全くの別人。しかもエミリーは勘違いしているわけではないらしい。そこでハリエットは伯母の誤解を解かないまま、エミリーの結婚式への出席を希望し……。 母親の束縛から逃れて初恋を叶えるしたたかなヒロインと恋人を溺愛する腹黒ヒーローの恋物語。ハッピーエンドです。 この作品は他サイトにも投稿しております。 扉絵は写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID:23852097)をお借りしております。

一日だけの魔法

うりぼう
BL
一日だけの魔法をかけた。 彼が自分を好きになってくれる魔法。 禁忌とされている、たった一日しか持たない魔法。 彼は魔法にかかり、自分に夢中になってくれた。 俺の名を呼び、俺に微笑みかけ、俺だけを好きだと言ってくれる。 嬉しいはずなのに、これを望んでいたはずなのに…… ※いきなり始まりいきなり終わる ※エセファンタジー ※エセ魔法 ※二重人格もどき ※細かいツッコミはなしで

断罪イベント返しなんぞされてたまるか。私は普通に生きたいんだ邪魔するな!!

ファンタジー
「ミレイユ・ギルマン!」 ミレヴン国立宮廷学校卒業記念の夜会にて、突如叫んだのは第一王子であるセルジオ・ライナルディ。 「お前のような性悪な女を王妃には出来ない! よって今日ここで私は公爵令嬢ミレイユ・ギルマンとの婚約を破棄し、男爵令嬢アンナ・ラブレと婚姻する!!」 そう宣言されたミレイユ・ギルマンは冷静に「さようでございますか。ですが、『性悪な』というのはどういうことでしょうか?」と返す。それに反論するセルジオ。彼に肩を抱かれている渦中の男爵令嬢アンナ・ラブレは思った。 (やっべえ。これ前世の投稿サイトで何万回も見た展開だ!)と。 ※pixiv、カクヨム、小説家になろうにも同じものを投稿しています。

処理中です...