228 / 264
不穏な影
ナージャの事情
しおりを挟む
「どうしたらいい?何を与えたら私といっしょに来てくれる?望むものを与えよう!どんなものでも用意する!
地位も権力も!私は帝国の第一王子だ。私が娶れば王妃としての将来が約束される。私は美しいだろう?外見だって問題ないはずだ!何が足りない?教えてくれ!」
まるで慟哭のようだった。
娶ると言っていたのは、もしかして褒美的な意味合いだったの?俺と結婚したいから、とかじゃなくって、俺に自分のもつ全てを与える的な意味だったとか?
それはそれで自意識過剰だと思うけど、一般的には王妃の地位って最高の名誉なんだろうな。
「えー……。ちょっと言葉が足らなすぎない?」
ついには泣き出してしまったナージャ。
なんかこれじゃあ俺がイジメてるみたいじゃん!俺は誘拐された被害者なのに!
俺はなんだか複雑な気持ちになりながら、ナージャのところにいってよしよししてやった。
「あのさあ。ナージャ。来てくれ、とかじゃなくって。まずは『どうして来てほしいのか』を話すところから始めよう?ナージャにも事情があるのはなんかわかった。だけど俺にだって事情があるんだよ?
あれもこれもあげるから来い、っていうのは横暴。お口があるんだから、まずはお話しましょう」
ぐすぐすと鼻をすするナージャ。もうなあ……あの尊大な王子様はどこいっちゃったんだよ……。
俺、泣く子には弱いのです。
とりあえず紅茶を飲ませて背中をポンポンして落ち着かせた。
「……す、すまなかった……。でも、でも、私には……母上には時間がないのだ!頼む!何でもするから母を助けてくれ!」
「ええ?お母様のピンチなの⁈どうゆうことー!」
ナージャが話してくれた事情は、こういうことだった。
帝国にも聖獣がいる。うちはフェンリルなんだけど、帝国の聖獣はライオンなんだって。でもって、帝国の王族にはそのライオンの血が混じっていると言われている。オレンジの鬣みたいな髪はそのなごりらしい。
「ふーん。たしかに、ライオンのたてがみみたいだもんね。ふっさふさ」
「私は特に先祖返りだと言われているんだ。だが…そのせいで母が……」
先祖返りは特に魔力が強いんだって。それに直感が非常に鋭い。いっそ予知能力だといえるほどに。
とにかく、ナージャの魔力は非常に多く、産まれる時に母体である王妃さまの身体を蝕んでしまった。
あれ?これ、どっかで聞いたことない?え?俺と同じじゃん!
でもって、王妃さまというのがなんと聖女様だったのだ!
聖女様だから相当な魔力があったはずなのに、それよりもナージャの方が多かったっていうんだから驚きだ。
そんなわけで、出産によるダメージでナージャのお母様は虚弱体質みたいになっちゃったんだって。
聖女の力みたいなのも壊れちゃって、どうしようもない状態。おまけに元々魔力の大きな人なもんだから、お母さまにヒールできる人もいない。
次代の聖女ならば、と期待をかけナージャの能力で探してみれば……いたことはいたんだけど、まだ赤ちゃん。言葉が通じないから八方塞がり。
「確かに……それは詰んでる……!でも、ナージャの方が魔力が多いんでしょ。ナージャがヒールしたらいいんじゃない?そこまで魔力が多いんならできるでしょ」
当たり前の疑問をぶつけたら、ナージャは悔しそうに唇を噛んだ。
「私の能力は攻撃に特化しているのだ。他に使えるのは予知能力のみ。母を癒したくても無理なんだ!」
そうこうしているうちにお母様は歳を重ねるごとにどんどん弱っていく。今はもうほぼ寝たきりの状態らしい。
それでナージャは独断で他国の聖女に賭けてみることにしたという。
俺は話を聞いてあきれてしまった。
「あのさあ。もっと早く、普通に『タスケテ』したら良かったんじゃないの?」
「母は王妃なんだぞ?しかも聖女だ。国を守る力が弱まっていることを他国に知られるわけにはいかなかった。それに母が弱っているせいで側妃の派閥の力が増している。父上の気持ちは母より側妃に向かっていて頼れない。側妃一派が圧力をかけているんだ。
だから、私がするしかないんだ。
聖獣と協力して察知し学院に聖女がいることが分かった。私が留学中に一目惚れしたという体で聖女を娶ると連れ帰れたらと……。それでなんども父上に掛け合いようやく留学が叶ったんだ。すぐにサフィを見つけることができたのは僥倖だった」
うーん。
話を聞いてみたら同情の余地はある。てゆーか、うちの話ににてるし他人ごととは思えない。エリアナお母様も聖女の家系だったもんね。俺のせいで儚くなっちゃったんだし……。それで公爵が引きこもりして俺もあんな目にあったんだもん。
でも、ナージャのところはまだ間に合いそう。お母様はかなくなってない。ナージャたちは救えるかもしれない。
しょうがないなあ。
乗りかかった船!
「しょうがない。助けてあげる。できるかは分かんないけど、ヒールしてみる。
だけど、ナージャと結婚はイヤですのでね!あのね、お兄様は俺がお兄様を好きになるまで待っててくれてるの。ナージャよりお兄様の方が大事。だから、お友達としてならついて行ってあげてもいい。それでいい?」
「!!本当か?本当に着いて来てくれるのか⁈」
「うん。ただし、条件があります。
あのね、ここがどこかわかんないけど、すぐにゲイルに連絡して。ゲイルも一緒に行く。
ゲイルも聖女なの。それに最高のヒールが使えるの」
「は⁈それはどういう…」
「俺のお父様、ゲイル。それで聖女。すんごくツエエですのでね!」
ナージャが泣き笑いみたいな顔になった。
「はははは。まさか、この国では今代に最強の聖女がふたり⁈」
「俺ひとりだと難しいかもだけど、ゲイルとふたりならいけると思う!」
あ、あとこれ。大事なこと言っておかないと。
「あとね、そろそろお兄様が来ると思いまする。俺には迷子防止機能が付いておりますので!
オコなお兄様、魔王みたいになるから。きちんと説明して言い訳してね?頑張って、ナージャ!」
言ったとたんに。
「サフィイイイイイイイイ!!!!」
どっかーーーーーん!
壁に穴が開いたのでございました。ウソでしょー!
地位も権力も!私は帝国の第一王子だ。私が娶れば王妃としての将来が約束される。私は美しいだろう?外見だって問題ないはずだ!何が足りない?教えてくれ!」
まるで慟哭のようだった。
娶ると言っていたのは、もしかして褒美的な意味合いだったの?俺と結婚したいから、とかじゃなくって、俺に自分のもつ全てを与える的な意味だったとか?
それはそれで自意識過剰だと思うけど、一般的には王妃の地位って最高の名誉なんだろうな。
「えー……。ちょっと言葉が足らなすぎない?」
ついには泣き出してしまったナージャ。
なんかこれじゃあ俺がイジメてるみたいじゃん!俺は誘拐された被害者なのに!
俺はなんだか複雑な気持ちになりながら、ナージャのところにいってよしよししてやった。
「あのさあ。ナージャ。来てくれ、とかじゃなくって。まずは『どうして来てほしいのか』を話すところから始めよう?ナージャにも事情があるのはなんかわかった。だけど俺にだって事情があるんだよ?
あれもこれもあげるから来い、っていうのは横暴。お口があるんだから、まずはお話しましょう」
ぐすぐすと鼻をすするナージャ。もうなあ……あの尊大な王子様はどこいっちゃったんだよ……。
俺、泣く子には弱いのです。
とりあえず紅茶を飲ませて背中をポンポンして落ち着かせた。
「……す、すまなかった……。でも、でも、私には……母上には時間がないのだ!頼む!何でもするから母を助けてくれ!」
「ええ?お母様のピンチなの⁈どうゆうことー!」
ナージャが話してくれた事情は、こういうことだった。
帝国にも聖獣がいる。うちはフェンリルなんだけど、帝国の聖獣はライオンなんだって。でもって、帝国の王族にはそのライオンの血が混じっていると言われている。オレンジの鬣みたいな髪はそのなごりらしい。
「ふーん。たしかに、ライオンのたてがみみたいだもんね。ふっさふさ」
「私は特に先祖返りだと言われているんだ。だが…そのせいで母が……」
先祖返りは特に魔力が強いんだって。それに直感が非常に鋭い。いっそ予知能力だといえるほどに。
とにかく、ナージャの魔力は非常に多く、産まれる時に母体である王妃さまの身体を蝕んでしまった。
あれ?これ、どっかで聞いたことない?え?俺と同じじゃん!
でもって、王妃さまというのがなんと聖女様だったのだ!
聖女様だから相当な魔力があったはずなのに、それよりもナージャの方が多かったっていうんだから驚きだ。
そんなわけで、出産によるダメージでナージャのお母様は虚弱体質みたいになっちゃったんだって。
聖女の力みたいなのも壊れちゃって、どうしようもない状態。おまけに元々魔力の大きな人なもんだから、お母さまにヒールできる人もいない。
次代の聖女ならば、と期待をかけナージャの能力で探してみれば……いたことはいたんだけど、まだ赤ちゃん。言葉が通じないから八方塞がり。
「確かに……それは詰んでる……!でも、ナージャの方が魔力が多いんでしょ。ナージャがヒールしたらいいんじゃない?そこまで魔力が多いんならできるでしょ」
当たり前の疑問をぶつけたら、ナージャは悔しそうに唇を噛んだ。
「私の能力は攻撃に特化しているのだ。他に使えるのは予知能力のみ。母を癒したくても無理なんだ!」
そうこうしているうちにお母様は歳を重ねるごとにどんどん弱っていく。今はもうほぼ寝たきりの状態らしい。
それでナージャは独断で他国の聖女に賭けてみることにしたという。
俺は話を聞いてあきれてしまった。
「あのさあ。もっと早く、普通に『タスケテ』したら良かったんじゃないの?」
「母は王妃なんだぞ?しかも聖女だ。国を守る力が弱まっていることを他国に知られるわけにはいかなかった。それに母が弱っているせいで側妃の派閥の力が増している。父上の気持ちは母より側妃に向かっていて頼れない。側妃一派が圧力をかけているんだ。
だから、私がするしかないんだ。
聖獣と協力して察知し学院に聖女がいることが分かった。私が留学中に一目惚れしたという体で聖女を娶ると連れ帰れたらと……。それでなんども父上に掛け合いようやく留学が叶ったんだ。すぐにサフィを見つけることができたのは僥倖だった」
うーん。
話を聞いてみたら同情の余地はある。てゆーか、うちの話ににてるし他人ごととは思えない。エリアナお母様も聖女の家系だったもんね。俺のせいで儚くなっちゃったんだし……。それで公爵が引きこもりして俺もあんな目にあったんだもん。
でも、ナージャのところはまだ間に合いそう。お母様はかなくなってない。ナージャたちは救えるかもしれない。
しょうがないなあ。
乗りかかった船!
「しょうがない。助けてあげる。できるかは分かんないけど、ヒールしてみる。
だけど、ナージャと結婚はイヤですのでね!あのね、お兄様は俺がお兄様を好きになるまで待っててくれてるの。ナージャよりお兄様の方が大事。だから、お友達としてならついて行ってあげてもいい。それでいい?」
「!!本当か?本当に着いて来てくれるのか⁈」
「うん。ただし、条件があります。
あのね、ここがどこかわかんないけど、すぐにゲイルに連絡して。ゲイルも一緒に行く。
ゲイルも聖女なの。それに最高のヒールが使えるの」
「は⁈それはどういう…」
「俺のお父様、ゲイル。それで聖女。すんごくツエエですのでね!」
ナージャが泣き笑いみたいな顔になった。
「はははは。まさか、この国では今代に最強の聖女がふたり⁈」
「俺ひとりだと難しいかもだけど、ゲイルとふたりならいけると思う!」
あ、あとこれ。大事なこと言っておかないと。
「あとね、そろそろお兄様が来ると思いまする。俺には迷子防止機能が付いておりますので!
オコなお兄様、魔王みたいになるから。きちんと説明して言い訳してね?頑張って、ナージャ!」
言ったとたんに。
「サフィイイイイイイイイ!!!!」
どっかーーーーーん!
壁に穴が開いたのでございました。ウソでしょー!
1,071
お気に入りに追加
5,170
あなたにおすすめの小説
愛すべきマリア
志波 連
恋愛
幼い頃に婚約し、定期的な交流は続けていたものの、互いにこの結婚の意味をよく理解していたため、つかず離れずの穏やかな関係を築いていた。
学園を卒業し、第一王子妃教育も終えたマリアが留学から戻った兄と一緒に参加した夜会で、令嬢たちに囲まれた。
家柄も美貌も優秀さも全て揃っているマリアに嫉妬したレイラに指示された女たちは、彼女に嫌味の礫を投げつける。
早めに帰ろうという兄が呼んでいると知らせを受けたマリアが発見されたのは、王族の居住区に近い階段の下だった。
頭から血を流し、意識を失っている状態のマリアはすぐさま医務室に運ばれるが、意識が戻ることは無かった。
その日から十日、やっと目を覚ましたマリアは精神年齢が大幅に退行し、言葉遣いも仕草も全て三歳児と同レベルになっていたのだ。
体は16歳で心は3歳となってしまったマリアのためにと、兄が婚約の辞退を申し出た。
しかし、初めから結婚に重きを置いていなかった皇太子が「面倒だからこのまま結婚する」と言いだし、予定通りマリアは婚姻式に臨むことになった。
他サイトでも掲載しています。
表紙は写真ACより転載しました。
選ばれたのは美人の親友
杉本凪咲
恋愛
侯爵令息ルドガーの妻となったエルは、良き妻になろうと奮闘していた。しかし突然にルドガーはエルに離婚を宣言し、あろうことかエルの親友であるレベッカと関係を持った。悔しさと怒りで泣き叫ぶエルだが、最後には離婚を決意して縁を切る。程なくして、そんな彼女に新しい縁談が舞い込んできたが、縁を切ったはずのレベッカが現れる。
【完結済】病弱な姉に婚約者を寝取られたので、我慢するのをやめる事にしました。
夜乃トバリ
恋愛
シシュリカ・レーンには姉がいる。儚げで美しい姉――病弱で、家族に愛される姉、使用人に慕われる聖女のような姉がいる――。
優しい優しいエウリカは、私が家族に可愛がられそうになるとすぐに体調を崩す。
今までは、気のせいだと思っていた。あんな場面を見るまでは……。
※他の作品と書き方が違います※
『メリヌの結末』と言う、おまけの話(補足)を追加しました。この後、当日中に『レウリオ』を投稿予定です。一時的に完結から外れますが、本日中に完結設定に戻します。
義妹の嫌がらせで、子持ち男性と結婚する羽目になりました。義理の娘に嫌われることも覚悟していましたが、本当の家族を手に入れることができました。
石河 翠
ファンタジー
義母と義妹の嫌がらせにより、子持ち男性の元に嫁ぐことになった主人公。夫になる男性は、前妻が残した一人娘を可愛がっており、新しい子どもはいらないのだという。
実家を出ても、自分は家族を持つことなどできない。そう思っていた主人公だが、娘思いの男性と素直になれないわがままな義理の娘に好感を持ち、少しずつ距離を縮めていく。
そんなある日、死んだはずの前妻が屋敷に現れ、主人公を追い出そうとしてきた。前妻いわく、血の繋がった母親の方が、継母よりも価値があるのだという。主人公が言葉に詰まったその時……。
血の繋がらない母と娘が家族になるまでのお話。
この作品は、小説家になろうおよびエブリスタにも投稿しております。
扉絵は、管澤捻さまに描いていただきました。
旦那様、愛人を作ってもいいですか?
ひろか
恋愛
私には前世の記憶があります。ニホンでの四六年という。
「君の役目は魔力を多く持つ子供を産むこと。その後で君も自由にすればいい」
これ、旦那様から、初夜での言葉です。
んん?美筋肉イケオジな愛人を持っても良いと?
’18/10/21…おまけ小話追加
【魅了の令嬢】婚約者を簒奪された私。父も兄も激怒し徹底抗戦。我が家は連戦連敗。でも大逆転。王太子殿下は土下座いたしました。そして私は……。
川嶋マサヒロ
恋愛
「僕たちの婚約を破棄しよう」
愛しき婚約者は無情にも、予測していた言葉を口にした。
伯爵令嬢のバシュラール・ディアーヌは婚約破棄を宣告されてしまう。
「あの女のせいです」
兄は怒り――。
「それほどの話であったのか……」
――父は呆れた。
そして始まる貴族同士の駆け引き。
「ディアーヌの執務室だけど、引き払うように通達を出してくれ。彼女も今は、身の置き所がないだろうしね」
「我が家との取引を中止する? いつでも再開できるように、受け入れ体勢は維持するように」
「決闘か……、子供のころ以来だよ。ワクワクするなあ」
令嬢ディアーヌは、残酷な現実を覆せるのか?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる