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たくさんの感謝と共に(おみやげ配るだけ!)
俺とおっちゃんたち
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王城と公爵家と身内にお土産を配り終えた俺ですが、おっちゃんたちの分は配らない。しょっちゅう入れ替わり立ち替わり来るから、来た人に渡すスタイル。お忙しいでしょうしね、決して面倒だからではござらぬよ、決して!!
でもって、王城で配り歩いたのを早速聞きつけ、翌日にはおっちゃん筆頭の成金、もといフィラー公爵がやってきた。早いね!
「久しぶりだなサフィちゃん!元気かい?
ところで伯爵と城下に出たと聞いたが、どうだったかな?」
ち、直球だね!いきなり!
「えと。元気でございまする!お出かけはとても楽しかったです!フィラー公爵!」
「息子のことはバイツーとあだ名で呼んでいるのだろう?私のことはアイクおじ様とよんでくれて良い」
「こうしゃくはこうしゃくですので!」
「アイクおじ様。アイクでも良い」
「…あいくりこうしゃく」
「アイクパパ」
あかん!ハードルどんどん上げられてく!
俺は諦めて言った。
「………アイクおじさま」
「うむ。なんだい、サフィ?」
デレりと眉を下げる成金改めアイクおじ様。
あ、あんたそんな人じゃなかったでしょお⁈
そう。反王家筆頭、貴族至上主義、俺を誘拐するならこの人とすら言われていた「仮想敵」のフィラー公爵。
今ではすっかりちょっとたくさん服の趣味が悪く押しが強いだけのサフィ大好きおっちゃんと化してしもうたのです。
「とりあえず、これ。おみやげです!
なかよくなったので。よろしくのきもち!
ナイフなんだけど、パワーのナイフなの。
1かいだけパワーが出るこうかがあります。
お疲れがとれますので!
あと、ナイフとしても使えます!
ちゃんと自分で稼いだお金で買いましたので!
それと、猫ちゃんのドーナツ。かわいかったので」
「おお!これが噂のサフィの土産か!!
私にも用意してくれていたのか!
なんと!」
いやいや、絶対期待してたじゃん!
「わざわざ自分で働き買ってくれたのか?
まだ幼いのに素晴らしい!」
おっと!ぎゅわっと抱きつかれました!
もー。おっちゃんってば!
公爵からしたらやすモンのナイフだろうに、縦から横から眺めてはにこにこ。裏がえしてはにこにこ。
「なんという巨匠の品だ?効果の彫りも素晴らしい。
うむ!サフィからの心のこもった素晴らしい品だ!我が家の宝にしよう!」
「いや、しないで?子供が買えるものだから!おみやげだから!かほーはしないでね!」
言えない…買わないとうるさそうだから買ってきたなんて、とでも言えない…。
まあ、結果オーライですな!
この人、今まで愚痴こぼしたりする相手がいなかったみたい。俺のとこに来ては、俺を膝に乗せお菓子ポリポリ(菓子は持参してきます。超!高級菓子です)しながらお悩み相談するの。
今日もおみやげ目的だっだはずなのに、息子の話。
「ゲイルが羨ましい」とか言いながら語り出したのです。
なんと。実はこの人息子大好きだったの!
ね、信じられないでしょ?俺も!
相談された時、俺は思わずこう叫んだ。
「ウソでしょ⁈ムスコ捨てたクセに⁈」
なりき…アイクおじ様はものっすごい勢いでそれを否定。
「いや、逃したのだ!あのままでは暗殺の危険があった!ああするしかなかったのだ!」
「はあ⁈何いっちゃってんの?いいわけはダメ!みぐるしいでしょ!
バイツーせんせーだって、捨てられたと思ってるし。
せんせーが大きくなるまで、会いにもいかずにずっとほったらかし、してたんでしょ!」
思わずもんのすんごく低い声がでた。
先生が前魔塔主を「お父さん」だというまでにどれくらいの葛藤があったろう。
もし「捨ててない」っていうなら、小さな頃から息子に会いにくらい来たはず。
「せんせーがまとうしゅなってからきゅーに父親ヅラ。なんか利用するためっぽいでしょ!」
俺の辛辣な言葉にアイクおじ様は項垂れた。
「…そう受け取られても仕方ない…」
そして、ポツポツと内部事情を話してくれた。
先生が生まれた当時、アイクおじ様はまだ18歳。
争いを避けるため代々第一子を後継者とするフィラー公爵家。まだ先代が当主で、アイクおじ様は長男で次期公爵。でも公爵としての権限は全く無かった。
先代はバリバリの血統主義。長男の第一子となる息子がアルビノだったことに腹を立て「悪魔の子」だと亡き者にしようとしたという。
勿論、アイクおじ様も奥さんも反対した。アルビノに詳しかった当時親しくしていた魔塔主を呼んで、単なる遺伝にすぎないのだと説明もして貰った。
しかし、当主は言った。「一族に劣性遺伝子を加えることは許さない」と。
40年以上前は貴族至上主義の全盛期であり血統主義。結婚も血統を重んじた契約結婚が主流という時代だった。
当時、当主の権限は絶対。当主が黒と言えば白いものも黒くなるそんな時代。
赤子を処分せねば、その子を産んだ妻の命すら危ない。
アイクおじ様は妻子を守るため一計を案じた。
幸い、過去の例からアルビノには魔力の多い子が多い。魔塔には髪であったり肌であったり、様々なアルビノの子がいた。
そこでアイクおじ様は、赤子を殺したことにして、ひっそりと魔塔主に託すことにしたのだ。
しかし託したとしても息子と交流すれば「あの赤子が生存していた」と当主に気づかれてしまう可能性が高い。そのため、おじ様は一切の接触を断つしかなかった。
赤子は魔塔から出ることなく、守られながら育つ。
息子が親に会いたがらぬように、接触してこぬようにと、息子を守るためにあえて息子には「公爵に捨てられた」と伝えて貰った。
おじ様はその代わりに魔塔に私有財産から寄付して魔塔を支えた。そして魔塔主からバイツー先生の話を教えて貰っていたのだそう。
その後、アイクおじ様は着々と力を蓄え公爵家当主となり、先代から力を削ぐことに力をを注ぐ。
そしてようやく息子の安全を確保し、会いに行けるようになったのだが…その頃ちょうど魔塔主が流行病で他界。バイツー先生が魔塔主となったのだという。
なんとか息子に事情を話そうとしたのだが、タイミングが悪かった。
当時を知る魔塔主も亡くなっており、アイクおじ様とバイツー先生の間をとりもつものももう居ない。
会おうとすればするほど「魔塔主になったとたん、利用しようと近づいてきた」と思われてしまう。
事情を説明しようと何度も面会を求めたが「他人ですから」ととりつくしまもないバイツー先生。
どうしようもない溝があいてしまったまま、今に至るのだという。
確かにこの話には納得いくものがあった。
公爵が前公爵にされた教育だって、俺から見たら虐待そのものだった。でも当時の公爵はそれを当たり前だと思っていたんだ。
もっと昔なら更に酷かったのかもしれない。
それに、魔塔に初めて行った時、予算が潤沢そうだなとは思った。棚などの設備だってかなり整っていたし、素材なども棚に揃っていた。
国の機関と言ったって、失礼かもだけど、その研究成果や内容からはそこまで予算を割いて貰えるようには思えない。
今の話を聞いて納得だ。
アイクおじ様がせっせと魔塔に貢いでいたのだろう。
「あ!なら、初めて会ったとき!
あれってもしかして…」
「息子に一目でも会えたらと……」
まさかのそっち!てっきり俺目的かと思ってた!
先生だってそう思ってたし!
俺は思わずため息をついた。
この人って、つくづく間が悪いんだなあ!
あと、その成金趣味の服装も良くないと思う。
いかにも「悪い貴族」って感じに見えるんだもん。
「だけど、こっそりお手紙するとかは?なんかいろいろできたでしょ?」
「うむ。今思えば、必要以上に先代を警戒しすぎていたのだと思う。全ての接触を避けるべきだと思い込んでいた。当時の私にとって、先代はそれほど恐ろしい人だったのだ」
負の連鎖だったんだろうなあ。
それってどこかで断ち切らなきゃね。
王様も先代のことで苦労したって言ってた。
ゲイルとか公爵とかの代で、それを断ち切るよう時代が動いたんじゃないかと思う。
でもその影にはこういうアイクおじ様みたいに、少しずつ抗ってその基礎を築いた人がいたんだろうな。
それにしても、俺は60超えたおっさんにいったい何を聞かされているんだろう。
まだ5歳の子供になにを期待してるんですかアイクおじ様!
「……」
「………」
見つめ合う俺たち。
「………まさか、せんせーとの間をなんとかしろとかいわないよね?」
しぶしぶ聞くと、おじ様はパアアと顔を輝かせた。
「やってくれるかね!サフィ!」
俺はビシッとキッパリ断った。
「やってくれませぬ!
あのね、オレまだ5さい。もうすぐ6さいだけど!
大人なのに子供にたよらない!自分でなんとかするのです!」
「サフィ……」
「むりですし」
「聖女さま!!!」
「聖女、カンケーないでしょっ!」
あのね。ゲイルだって、お兄様だって、王様だって、俺の力を知ってる。でも「何かやって」って頼まれたことないよ。
俺が「やろうか?」って言っても「子供が気にするな!」「大人に任せとけ!」って言うんだよ。
「おじさまは、まだどこか向き合うことから逃げてる。
だから聞いてもらえないの。
これは人にたよったらダメなことでしょ。
ひっしに泣いてたのんだ?
おはなし聞いてって、足にしがみついたりした?
ひざまづいてゴメンなさいした?
そゆことぜんぶやってから言うべき。
プライドとかすててぶつかればいいの」
思わずこんこんと説教してしもうた。
怒るかな?
でもバイツー先生のためにも、これくらいは言いたい。
だって犠牲になったのはアイクおじ様じゃない。先生だもん。
公爵は自分で謝ってきたよ。
俺に嫌いって言われても、家族じゃないって言われても、全て受け止めた上で俺のために動いてる。償い続けてる。
不器用だけど、そんな公爵だから「もういいか」って思えたんだよ。
「あのね。オレは知ってる。ゆるさないのも苦しいの。
だからアイクおじさまもバイツーせんせーが『もういいか』って思えるくらいがんばって!」
ちょっと言いながらいろいろこみあげてしまった。
もう!
こんな偉そうなナリして、成金のヘタレめ!
アイクおじ様は黙ってじいっと考えてるみたいだった。
やがて、ふうーっと深い深いため息をついて、ガクリと肩の力を抜いた。
「私は…いい年をして子供に何をさせようとしたのだろうな。全く…。
情けない限りだ。
サフィの言う通りだ。
私は、シュバイツに決定的な言葉を言われるのが怖くて踏み込めずに逃げていたのだな…。
だから話すら聞いてもらえないのだ」
バサッバサッとゴテゴテした上着を脱ぎ捨てるおじ様。
その下は意外にもシンプルで機能的なシャツだった。
「去勢を張りこんな飾りでもつけねば立てぬような臆病ものなのだよ、私は。
……もう、いらぬのかもしれぬな。
戦う相手も無い。
皆で手を取り共に立つ時代になったのだ」
俺はアイクおじ様の袖をひき、言った。
「あのね。ダサダサのいろいろつけたふくより、こっちの方がすき。カッコいいです」
おじ様は驚いたように目を見張る。
「…こっちの方が好きか?」
「うん。よけいなかざり、いらない。しゅみがわるい。そのままがよきよ」
「ふ…ふふふ…ふはははははは!
そうか!趣味が悪かったか!そうか!
そうだなあ!
……そうだ…そうだったのだな、サフィ…」
何故か大笑いしたおじ様は、笑い終えた時には妙にスッキリとした顔をしていた。
最初からこんな顔してたら成金とかあだ名つけなかったのにな。
あの金持ちオーラとか不遜みたいなのはなくなって、代わりになんか「この人に任せたら大丈夫」みたいな、地に足をつけた信頼できる強さに満ちた表情。
「なんか、カッコよくなった!
そのかおなら、いけます!がんばってみて!」
俺はビシッと親指を立て、アイクおじ様を送り出したのだった。
でもって、王城で配り歩いたのを早速聞きつけ、翌日にはおっちゃん筆頭の成金、もといフィラー公爵がやってきた。早いね!
「久しぶりだなサフィちゃん!元気かい?
ところで伯爵と城下に出たと聞いたが、どうだったかな?」
ち、直球だね!いきなり!
「えと。元気でございまする!お出かけはとても楽しかったです!フィラー公爵!」
「息子のことはバイツーとあだ名で呼んでいるのだろう?私のことはアイクおじ様とよんでくれて良い」
「こうしゃくはこうしゃくですので!」
「アイクおじ様。アイクでも良い」
「…あいくりこうしゃく」
「アイクパパ」
あかん!ハードルどんどん上げられてく!
俺は諦めて言った。
「………アイクおじさま」
「うむ。なんだい、サフィ?」
デレりと眉を下げる成金改めアイクおじ様。
あ、あんたそんな人じゃなかったでしょお⁈
そう。反王家筆頭、貴族至上主義、俺を誘拐するならこの人とすら言われていた「仮想敵」のフィラー公爵。
今ではすっかりちょっとたくさん服の趣味が悪く押しが強いだけのサフィ大好きおっちゃんと化してしもうたのです。
「とりあえず、これ。おみやげです!
なかよくなったので。よろしくのきもち!
ナイフなんだけど、パワーのナイフなの。
1かいだけパワーが出るこうかがあります。
お疲れがとれますので!
あと、ナイフとしても使えます!
ちゃんと自分で稼いだお金で買いましたので!
それと、猫ちゃんのドーナツ。かわいかったので」
「おお!これが噂のサフィの土産か!!
私にも用意してくれていたのか!
なんと!」
いやいや、絶対期待してたじゃん!
「わざわざ自分で働き買ってくれたのか?
まだ幼いのに素晴らしい!」
おっと!ぎゅわっと抱きつかれました!
もー。おっちゃんってば!
公爵からしたらやすモンのナイフだろうに、縦から横から眺めてはにこにこ。裏がえしてはにこにこ。
「なんという巨匠の品だ?効果の彫りも素晴らしい。
うむ!サフィからの心のこもった素晴らしい品だ!我が家の宝にしよう!」
「いや、しないで?子供が買えるものだから!おみやげだから!かほーはしないでね!」
言えない…買わないとうるさそうだから買ってきたなんて、とでも言えない…。
まあ、結果オーライですな!
この人、今まで愚痴こぼしたりする相手がいなかったみたい。俺のとこに来ては、俺を膝に乗せお菓子ポリポリ(菓子は持参してきます。超!高級菓子です)しながらお悩み相談するの。
今日もおみやげ目的だっだはずなのに、息子の話。
「ゲイルが羨ましい」とか言いながら語り出したのです。
なんと。実はこの人息子大好きだったの!
ね、信じられないでしょ?俺も!
相談された時、俺は思わずこう叫んだ。
「ウソでしょ⁈ムスコ捨てたクセに⁈」
なりき…アイクおじ様はものっすごい勢いでそれを否定。
「いや、逃したのだ!あのままでは暗殺の危険があった!ああするしかなかったのだ!」
「はあ⁈何いっちゃってんの?いいわけはダメ!みぐるしいでしょ!
バイツーせんせーだって、捨てられたと思ってるし。
せんせーが大きくなるまで、会いにもいかずにずっとほったらかし、してたんでしょ!」
思わずもんのすんごく低い声がでた。
先生が前魔塔主を「お父さん」だというまでにどれくらいの葛藤があったろう。
もし「捨ててない」っていうなら、小さな頃から息子に会いにくらい来たはず。
「せんせーがまとうしゅなってからきゅーに父親ヅラ。なんか利用するためっぽいでしょ!」
俺の辛辣な言葉にアイクおじ様は項垂れた。
「…そう受け取られても仕方ない…」
そして、ポツポツと内部事情を話してくれた。
先生が生まれた当時、アイクおじ様はまだ18歳。
争いを避けるため代々第一子を後継者とするフィラー公爵家。まだ先代が当主で、アイクおじ様は長男で次期公爵。でも公爵としての権限は全く無かった。
先代はバリバリの血統主義。長男の第一子となる息子がアルビノだったことに腹を立て「悪魔の子」だと亡き者にしようとしたという。
勿論、アイクおじ様も奥さんも反対した。アルビノに詳しかった当時親しくしていた魔塔主を呼んで、単なる遺伝にすぎないのだと説明もして貰った。
しかし、当主は言った。「一族に劣性遺伝子を加えることは許さない」と。
40年以上前は貴族至上主義の全盛期であり血統主義。結婚も血統を重んじた契約結婚が主流という時代だった。
当時、当主の権限は絶対。当主が黒と言えば白いものも黒くなるそんな時代。
赤子を処分せねば、その子を産んだ妻の命すら危ない。
アイクおじ様は妻子を守るため一計を案じた。
幸い、過去の例からアルビノには魔力の多い子が多い。魔塔には髪であったり肌であったり、様々なアルビノの子がいた。
そこでアイクおじ様は、赤子を殺したことにして、ひっそりと魔塔主に託すことにしたのだ。
しかし託したとしても息子と交流すれば「あの赤子が生存していた」と当主に気づかれてしまう可能性が高い。そのため、おじ様は一切の接触を断つしかなかった。
赤子は魔塔から出ることなく、守られながら育つ。
息子が親に会いたがらぬように、接触してこぬようにと、息子を守るためにあえて息子には「公爵に捨てられた」と伝えて貰った。
おじ様はその代わりに魔塔に私有財産から寄付して魔塔を支えた。そして魔塔主からバイツー先生の話を教えて貰っていたのだそう。
その後、アイクおじ様は着々と力を蓄え公爵家当主となり、先代から力を削ぐことに力をを注ぐ。
そしてようやく息子の安全を確保し、会いに行けるようになったのだが…その頃ちょうど魔塔主が流行病で他界。バイツー先生が魔塔主となったのだという。
なんとか息子に事情を話そうとしたのだが、タイミングが悪かった。
当時を知る魔塔主も亡くなっており、アイクおじ様とバイツー先生の間をとりもつものももう居ない。
会おうとすればするほど「魔塔主になったとたん、利用しようと近づいてきた」と思われてしまう。
事情を説明しようと何度も面会を求めたが「他人ですから」ととりつくしまもないバイツー先生。
どうしようもない溝があいてしまったまま、今に至るのだという。
確かにこの話には納得いくものがあった。
公爵が前公爵にされた教育だって、俺から見たら虐待そのものだった。でも当時の公爵はそれを当たり前だと思っていたんだ。
もっと昔なら更に酷かったのかもしれない。
それに、魔塔に初めて行った時、予算が潤沢そうだなとは思った。棚などの設備だってかなり整っていたし、素材なども棚に揃っていた。
国の機関と言ったって、失礼かもだけど、その研究成果や内容からはそこまで予算を割いて貰えるようには思えない。
今の話を聞いて納得だ。
アイクおじ様がせっせと魔塔に貢いでいたのだろう。
「あ!なら、初めて会ったとき!
あれってもしかして…」
「息子に一目でも会えたらと……」
まさかのそっち!てっきり俺目的かと思ってた!
先生だってそう思ってたし!
俺は思わずため息をついた。
この人って、つくづく間が悪いんだなあ!
あと、その成金趣味の服装も良くないと思う。
いかにも「悪い貴族」って感じに見えるんだもん。
「だけど、こっそりお手紙するとかは?なんかいろいろできたでしょ?」
「うむ。今思えば、必要以上に先代を警戒しすぎていたのだと思う。全ての接触を避けるべきだと思い込んでいた。当時の私にとって、先代はそれほど恐ろしい人だったのだ」
負の連鎖だったんだろうなあ。
それってどこかで断ち切らなきゃね。
王様も先代のことで苦労したって言ってた。
ゲイルとか公爵とかの代で、それを断ち切るよう時代が動いたんじゃないかと思う。
でもその影にはこういうアイクおじ様みたいに、少しずつ抗ってその基礎を築いた人がいたんだろうな。
それにしても、俺は60超えたおっさんにいったい何を聞かされているんだろう。
まだ5歳の子供になにを期待してるんですかアイクおじ様!
「……」
「………」
見つめ合う俺たち。
「………まさか、せんせーとの間をなんとかしろとかいわないよね?」
しぶしぶ聞くと、おじ様はパアアと顔を輝かせた。
「やってくれるかね!サフィ!」
俺はビシッとキッパリ断った。
「やってくれませぬ!
あのね、オレまだ5さい。もうすぐ6さいだけど!
大人なのに子供にたよらない!自分でなんとかするのです!」
「サフィ……」
「むりですし」
「聖女さま!!!」
「聖女、カンケーないでしょっ!」
あのね。ゲイルだって、お兄様だって、王様だって、俺の力を知ってる。でも「何かやって」って頼まれたことないよ。
俺が「やろうか?」って言っても「子供が気にするな!」「大人に任せとけ!」って言うんだよ。
「おじさまは、まだどこか向き合うことから逃げてる。
だから聞いてもらえないの。
これは人にたよったらダメなことでしょ。
ひっしに泣いてたのんだ?
おはなし聞いてって、足にしがみついたりした?
ひざまづいてゴメンなさいした?
そゆことぜんぶやってから言うべき。
プライドとかすててぶつかればいいの」
思わずこんこんと説教してしもうた。
怒るかな?
でもバイツー先生のためにも、これくらいは言いたい。
だって犠牲になったのはアイクおじ様じゃない。先生だもん。
公爵は自分で謝ってきたよ。
俺に嫌いって言われても、家族じゃないって言われても、全て受け止めた上で俺のために動いてる。償い続けてる。
不器用だけど、そんな公爵だから「もういいか」って思えたんだよ。
「あのね。オレは知ってる。ゆるさないのも苦しいの。
だからアイクおじさまもバイツーせんせーが『もういいか』って思えるくらいがんばって!」
ちょっと言いながらいろいろこみあげてしまった。
もう!
こんな偉そうなナリして、成金のヘタレめ!
アイクおじ様は黙ってじいっと考えてるみたいだった。
やがて、ふうーっと深い深いため息をついて、ガクリと肩の力を抜いた。
「私は…いい年をして子供に何をさせようとしたのだろうな。全く…。
情けない限りだ。
サフィの言う通りだ。
私は、シュバイツに決定的な言葉を言われるのが怖くて踏み込めずに逃げていたのだな…。
だから話すら聞いてもらえないのだ」
バサッバサッとゴテゴテした上着を脱ぎ捨てるおじ様。
その下は意外にもシンプルで機能的なシャツだった。
「去勢を張りこんな飾りでもつけねば立てぬような臆病ものなのだよ、私は。
……もう、いらぬのかもしれぬな。
戦う相手も無い。
皆で手を取り共に立つ時代になったのだ」
俺はアイクおじ様の袖をひき、言った。
「あのね。ダサダサのいろいろつけたふくより、こっちの方がすき。カッコいいです」
おじ様は驚いたように目を見張る。
「…こっちの方が好きか?」
「うん。よけいなかざり、いらない。しゅみがわるい。そのままがよきよ」
「ふ…ふふふ…ふはははははは!
そうか!趣味が悪かったか!そうか!
そうだなあ!
……そうだ…そうだったのだな、サフィ…」
何故か大笑いしたおじ様は、笑い終えた時には妙にスッキリとした顔をしていた。
最初からこんな顔してたら成金とかあだ名つけなかったのにな。
あの金持ちオーラとか不遜みたいなのはなくなって、代わりになんか「この人に任せたら大丈夫」みたいな、地に足をつけた信頼できる強さに満ちた表情。
「なんか、カッコよくなった!
そのかおなら、いけます!がんばってみて!」
俺はビシッと親指を立て、アイクおじ様を送り出したのだった。
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