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俺、自由だー!

俺と荒ぶるお兄様

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荒ぶる神、もとい、お兄様を鎮めることに成功した俺は、ほうっと息をついた。
こ、こわかった…。
壊れちゃったお兄様は見たことあるけど、あんなに荒ぶったお兄様は初めて!
ゲイルの次に、いや、ゲイルとエリアスの次に怖いかもしれない…。絶対に怒らしたらアカンお人。


ゆでだこから回復し、落ち着きなく落ち着いた(ちょっとこの表現はどうかとおもうけど、お怒りは静まったのだがかわりにソワソワモードになってしまったのだ)お兄様。
俺をチラッと見ては赤くなって顔をそらし、またチラッと見ては…というのを繰り返している。
依然としてオレを抱っこしたままで。

ゲイル…これ、どうしましょ?

前に座るゲイルに目で語りかけると、我慢しろ、と目で返された。
就寝前のゲイルタイムが、お兄様タイムになってしもうたよ…。

てか、この時間に来たってことは、お泊りなのかな?
お疲れモードで俺の抱っこが必要になったのかもしれぬ。
そうか!お疲れておかしくなってたからいきなりバーサーカーモードになり申したのか!
お兄様、よっぽど疲れるんだね、かわいそうに。
よしよし。

お兄様が鎮まっているうちに、とばかりにゲイルがさっきの状況を説明。
そのあいだ俺はお口にチャック。
全部説明が終わったみたいでゲイルのオッケーが出たので、俺が最後のシメをした。

「ゲイルはオレが大好きだから、オレをイジメたりしませぬ。ごあんしんを!
オレたち、すっごくなかよしなだいすき親子ですので!
こちょこちょはくすぐったいけど、サイコーなの。お兄様もやってみますか?」

お膝の上でよっこいしょ、と向きをかえ抱き着くようにして「こしょこしょー!」

「バッ…!さ、サフィ!やめろ!」

ゲイルが慌てたように俺を止めるけど、お兄様だって絶対にやってみたら面白いはず!

「こしょこしょー!こしょこしょー!!」

あれ?お兄様?くすぐったくないの?
不思議に思って見上げると、またまた真っ赤なゆでだこさん。

「おにいさま、へいき?」
「………へいきといえばへいきだけど、へいきじゃあないかな…」

どこかたどたどしいお兄様。
うーん、まとめると、どうやら平気じゃないらしい。確かに、言葉が全部ひらがなになっちゃってるもんね。

「くすぐられたことないからかも?
たくさんこしょこしょして、慣れたら楽しくなる!」

俺が張り切って指をワキワキさせると、ゲイルストップが入った。

「いや、サフィ。やめてやってくれ…。レオンはもう瀕死だ」




お兄様を見ると、真っ赤になって

「私は…子供が好きだという訳ではない……そのような趣味は…」

だとかなんとかブツブツと呟いている。

「おにいさま、こどもがキライ……」

しょぼん。遊びにむりやりつきあわせちゃったから…?
そうだよね。お疲れだったのに。
反省する俺に、ゲイルが言った。

「いや、そういう意味じゃないと思うぞ?」
「こどもがすきじゃないっていった…」
「好きだという訳ではない、じゃね?つまり、子供は好きじゃないけど、サフィは大好きだってことだな!
良かったな、サフィ!レオンと仲良しだってことだ!」

ほんとかなあ。ゲイル、俺を慰めようとして適当言ってない?

俺は念のためお兄様に確認することにした。
報告・連絡・相談は人間関係の基本だもんね!
あれ?仕事だっけか?まあ、いっか!

お兄様の胸のところをツンツンして聞いてみる。
現実に戻ってきたお兄様が、ハッとしたように優しいお顔で俺を見た。

「あ、ごめんね。サフィ。なんだった?」

俺は勇気を出して口を開く。

「あのね、おにいさま。おにいさま、オレのことすき?」

疲れてるとこに、こちょこちょなんてしちゃったから、嫌いになった?

お兄様は目にみえるくらい狼狽えた。
目をあちこちに彷徨わせて、俺の顔を見てくれないお兄様。

「え?は?サ、サフィ?どうしたの?どういう意味かな?」

「やっぱりオレのこと、すきじゃなくなっちゃったんだ…。
疲れてたのにこちょこちょしちゃったから…」

ダメだ。ショックが大きくて泣きそう。
ゲイルーゲイルー。抱っこー!!

ってしようとしたら、グイっとお兄様の胸に引き戻される。

「え?それってどういうことなの?私がサフィを好きじゃないってどうして?」
「だって…だって、さっき『こどもはすきじゃない』って言った…」
「は?そんなことは言っていないよ?!」

やっぱり、無意識に本心が口にでちゃってたんだね…。
余計にしょんぼりする俺。

見るに見かねたらしいゲイルが、助け舟を出してくれた。

「いや、さっきお前、我を失って真っ赤になって『子供が好きだという訳ではない』とかなんとかブツブツ言ってたんだよ」
「え?ま、まさか、口に…!」
「出てたな。バッチリと」

腕を組んで「うんうん」するゲイル。
無意識に自分が口にしたことを知らされ、あわわわ、となるお兄様。

「サ、サフィ?それはそういう意味じゃあないんだよ?」

必死に言い訳を口にして、俺を慰めようとしてくれる。
いつでも優しいお兄様。
それなのに、無理させてたことに気付かなかった俺。
なんて申し訳ない。
お兄様は子供が嫌いなのに、これまでずっと俺を守ったり助けたりしてくれた。
せめて俺にできることは、これ以上お兄様に負担をかけないこと!
俺はもうツエエしたから、大丈夫!

ほんとうはとっても辛いけど、俺は精一杯頑張ってお兄様に言った。

「いままでむりさせてごめんなさい。オレはおにいさまが大好き。
だけど、おにいさまはむりしなくて大丈夫ですので!
もう、ツエエしたから、まもってくれなくてもだいじょうぶです!
いままで、たくさん、あ、あり…ありがと……ござ…ましゅ………」

一生懸命頑張ったけど、どうしても辛くって、泣きそう。
これ以上お兄様に迷惑はかけられぬ!

俺は急いでお兄様のお膝からおりて、とててとゲイルの元に。
もう限界だった。

「ゲイルううううう!ゲイルううううう!!!うええええええん!」

ゲイルが困ったみたいな顔して俺を抱っこ&よしよししてくれる。

「サ、サフィ!サフィ!違うんだ!本当にそう言う意味じゃなくって……」

慌てたように必死で俺の名を呼ぶお兄様。
俺、お兄様を困らせちゃって。ごめんね。ごめんね。
でも、やっぱり寂しいんだよおおおう!

「オレ、オレはっおっきくなって…こどもじゃ…なくなったらっ……また…っまた、なかよし…してほしっ……」

涙をぬぐってしゃくり上げながら必死でお兄様に伝える。すると
ドッカーン!
ゲイルごとお兄様に抱き着かれた。

「違う!違うんだっ!
大好きなんだ、サフィ!」

ヒック!
ビックリして涙がとまった。
ほえ?なんて言ったの?

「……きらいじゃない……?」

目を真ん丸にして固まった俺に、お兄様がヤケクソみたいに大声で叫ぶ。

「嫌いなんかじゃない!
私は!サフィのことが!好きなんだ!
どうしようもなく!大好きなんだ!!」

お兄様が!俺のことが!大好き!!



「あーーーーーーーーー!!!!
それ、今ここで言う?!てか、俺を巻き込むなっ!!」

ゲイルが髪をぐしゃぐしゃしながら横を向いた。

お兄様、お顔だけじゃなく、耳まで真っ赤だ。
ゲイルもちょっと赤い。

びっくりして固まったままの俺に、お兄様が言った。
すっごく真剣な顔で、俺の両手を掴んで、俺の目をしっかりと見つめながら。

「……あのね。私はサフィのことが大好きなんだ。サフィは私のことが好き?」

なあんだ、そうか!
お兄様のことが好きか、って?
そんなの、決まってる!

「うん!すき!
オレ、おにいさまのこと、だいすきー!!」

俺は嫌われていなかったことに安心して、満面の笑みでお兄様に飛びついた。

「よかったあ!オレがこどもでも、よき!きらいじゃない!
オレとおにいさま、なかよしですのでー!!!」
「は?え?な、なかよし?」

なぜか驚いたように目をぱちぱちさせるお兄様。

「……なかよし、ちがう?」

え?!マジで?好きなだけ?仲良しじゃねーの?
やっぱり…としょんぼりしかけたら、お兄様が慌てたように俺をぎゅっとしてくれた。

「いや、仲良し!仲良しだよ!サフィと私はとても仲良しだ!
サフィは私にとって仲良しでとても大切な子だよ!」
「えへへ。なかよし!」

よかったあ!なあんだ。子供がうんぬんっていうのは、俺以外のってことだったんだね!
もう!びっくりさせないでよねっ!

嬉しくなった俺は、さっそくゲイルに報告した。

「ゲイル!おにいさま、こどもはすきじゃない!だけど、オレはとくべつ!なかよしでだいすき!!
オレもおにいさまだいすき!ゲイルもだいすきー!!」

にこにこしながら教えてあげると、ゲイルがなんだかおかしな顔で笑った。

「…はぁ…、は……ははは…そうか。そうか!」

と思ったら、大喜びの顔になって俺の頭を高速でなでなで。

「はははは!はっはっはっはっは!!そうだよなあ!サフィ!よかったなあ!
サフィとレオンは仲良しだもんな!仲良しなんだよなあああ!
俺もサフィのことが大好きだぞっ!!」
「えへへへへ!オレもすきーーー!!!」

俺は左手でお兄様の頭を引き寄せ、右手でゲイルの頭を引き寄せ、すりすり、すりすり。
「両手に花」ならぬ「両手に好きなひと」!ふふふふーん!

もう!ちょっとびっくりしちゃったよ!
そうだよね!お兄様が俺のこと嫌いなわけないもんね!
寝る前だったから、ちょっと深夜テンションみたいになっておかしくなっちゃってた。
勝手に誤解して泣いちゃってごめんね、お兄様。



俺はお詫びのつもりでお兄様に言った。
こしょこしょ話みたいにお兄様のお耳にこそーりと。

「あのね。ないちゃってごめんなさい。
おにいさま、きょういっしょにここで寝る?おとまりしてく?」
「え?いっしょにここで?お泊り?ここって……」

察したらしいゲイルがボスン!とベットに横になり、ニヤニヤしながら自分の横をぽんぽん。

「こ・こ・だ・な!
ほーら。3人でも十分寝れるぞおー?
俺の横が空いてますよーー?」
「ゲイル………!!覚えておいてくださいよ…!!」

お兄様、ちょっとてれちゃってるみたい。
そういえば、いつもは俺の方がお泊りしてた。お兄様のお泊りは初めてだもんね。
うんうん。はじめては恥ずかしいよね。わかるわかる。

俺もゲイルのよこにピョンッと飛び乗ってベッドに寝ころがりながら、ゲイルのと俺の間をぽんぽん、とした。

「だれでもはじめてははずかしいの。でも、だいじょうぶ。あんしんしてよき。
オレがちゃんとおにいさまをだいてあげますので」

「「は?!」」

ゲイルとお兄様のお口がパッカーンした。

「3人だとちょっとせまいかもだけど。オレがしっかりとぎゅうってしててあげますから!
おっこちませんので、ごあんしんくださいませ!」

何故かゲイルに「紛らわしいことを言うな!」と頭をゴチンとされた。
解せぬ。

「そ、そっちか…」

お兄様が安心したように大きくため息をついた。
うんうん。安心できた?よきよき。
さあ、おいでませー!

ぽんぽん、と催促すると、お兄様が苦笑して疲れ切ったようにのそのそとベッドに上がり込んでくる。
ほら。ぎゅー!!これで大丈夫でしょ!まかせてね!

ゲイルがニヤリとして言った。

「俺も抱いてやろうか?」
「遠慮します!」

瞬殺だった。
ゲイル、どんまい!
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