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俺、無双

俺、聖女無双する1

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ターッタララッタララー!

王家入場を知らせるラッパの音か高らかに鳴り響く。

「ご入場です!」

従者の声と共に、居並ぶ高位貴族たちが一斉にザザッと頭を垂れた。
その統制の取れた動きは、軍隊さながらである。
壮観の一言だ。

王様、王妃様、お兄様の順でゆったりと歩みを進め、中央に。
堂々たる威厳を放つ王家。
いつもの王様たちとはまるで別人みたい。

侍従がサッと片手をあげると同時にラッパの音がピタリと止まった。

「うむ。みな、頭をあげよ」

王様の声が朗々と広間に響き渡る。
ザザッと貴族たちが頭をあげて王様に向き直った。

その姿に俺の背筋がゾクっとした。
ここに集うは、高位貴族。
自らの派閥を率いて熾烈な権力争いをくぐり抜けてきた、歴戦の猛者なのだ。

正直、俺はよく理解していなかった。
ゲイル、エリアス、公爵という3大貴族に甘やかされ、本来の彼らの姿をいつの間にか忘れてしまっていた。
彼らはその笑顔の下に鋭い爪や牙を隠した猛獣だということを。
その爪を俺には決して向けることはないが、敵に対しては容赦なく振るうのだということを。
それはここに集う彼らとて同じ。

先ほど俺が「おなかぽんぽこりん」と呼んだ穏やかそうなおじさんも、瞳の奥に知性と決意をのぞかせていた。
俊敏に頭を垂れ、その身のこなしには一部の隙もない。
成金は貴族的笑顔でその野心を覆い、かけらも隙を見せない。
下世話な笑みを浮かべていた親父も、きりりと表情を引き締めその背筋はピシリと伸びている。

これが…これが高位貴族の姿なんだ。
俺はこんな人たちをメロメロに………

できるわけないじゃん!!!

ちょとちょっとーーーー!!!聞いてないよ、聞いてない!
エリアス、メロメロにするの簡単だっていってたけど、フツーに考えたらむりだよね?!
こいつらのこういう表情かお、知ってていった?馬鹿なの?!
この空気の中で、俺、登場?
「聖女でえーっす」って?むりむりむりーー!!
すんげえ強そうだもん!こいつら、戦闘力高すぎ!
精神耐性とかだってきっとバカ高いに違いない。
怖すぎて魔法ぶっ放しちゃいそう。
なにしろ圧が凄いの!顔が怖いのっ!
さっきまで馬鹿にしてた無駄にキラキラ豪華な服だって、そういう表情かおしてたらそういうものみたいに見えるもん!





はい。正直に言いましょう。
俺、この場の雰囲気にブルってます。

ううう。こわいよおおおおう。
裏表みたいなの、ほんと怖いんだってば!
ちょっと涙目。
こんなんでちゃんとできるのかなあ。


と。
ふいに背が温かくなった。
ふわっと俺の身体を暖かなものが包み込む。ゲイルだ。

「ふは。サフィ、怖いのか?サフィでもそんなことあるんだなあ」

なんてのーんびり暢気にへらりと笑う。

「大丈夫だ。お父様がついてるだろ?
てか、俺なんて髭そられてこんな格好させられて、オッサンなのに『聖女です』つって奴らの前にでるんだぜ?
いやあ…キツイわ…。
俺に比べたらお前のほうがなんぼかマシじゃねえか?」

た、たしかに!!
肩を落とすゲイルを俺は一生懸命励ました。

「大丈夫!ゲイルはどんなふくでもにあうし、どんなときだってサイコーだし。
そのふくもにあってる。かんぺきな女王さま!
オレのおとうさま、最強だから!」
「ん?おれ?サフィ今『ぼく』じゃなくて『オレ』って言ったか?」

ゲイルがギョッと目を見開き、呆然とした様子で呟く。

「まさかのタイミングでサフィがぐれちまった…」

俺はゲイルのお顔をしっかりと見つめて言った。

「ぐれてない。がんばる決意。
きょうは戦いだから。ぜったいにかつ。
つよくなるのです!
これからは『ぼく』あらため『オレ』ですので!」

ゲイルはじっと俺の目を見つめ、そしてニヤリと俺の大好きなカッコいい笑みを浮かべる。

「そうか。そうだな!オレたちは最強の親子だ!
一緒に貴族どもをサクッと無双してやろうぜ!
勝つぞ、サフィ!」
「うん!かつよ!ゲイル!」


しっかりと手を繋ぐ。



カーテンの向こうでは、王様が「聖獣が降臨したこと」「聖女を示したこと」「聖女は膨大な魔力と多くの属性を有していること」を貴族たちに説明している。
想像もしなかった「呼び出された理由」に会場は「おお!」だの「まさか!」だのとどよめいた。
まとめちゃうと「驚愕」「希望」「恐怖」みたいな感じ。

驚愕は「聖女」だの「聖獣」だのは伝説だと思っていたから。
次の「希望」は「聖女が国を良い方向へ導いてくれる」ことに対するもの。
そして最後の恐怖は「聖女」や「聖獣」が居るのなら「魔王」の降臨が近いのではないかというこれからの不安。

そのひとつ一つに王様は丁寧に答えていく。
ルーダが言っていたことを少しぼかしつつ。

「聖獣様は後に姿を見せて下さる」
「聖女の魔力は強大であるが、聖獣様が仰るには聖女はそこに存在するだけでよいのだそうだ。
聖女が自由に好きに生きること、それこそがこの世界を平和に導くのだと。
王家は聖女の意志を尊重し、聖女の後ろ盾となることを約束した」
「魔王に関しても、聖女が既にその脅威を取り除いておるそうだ。問題はない。安心するがよい」

語られたことのひとつひとつが衝撃だったようで「婚約では?」なんて浮かれていた貴族は呆然。
あんまりにもスケールが違う話だもんね。分かる分かる。
俺だって最初聞いたときビックリどっひゃあだったもん!




「ねえねえ」

俺はゲイルの袖を牽いた。

「あのさ、聖女がママっていわないみたいでよかったね。いまのとこバレてない」

ゲイルがにがーい表情で唇を歪める。

「……なんとしても言わない方向でいこうぜ」

うん。俺もそれには完全に同意。
俺たちは目と目を合わせ、一蓮托生のママ同士としてこくりと頷きあったのだった。
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