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俺、またしてもお披露目会?!

閑話休題 公爵家の秘密のお部屋

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お盆すぎてしまいましたが、お盆にむけて閑話休題。
エリアナ様を偲んで…





※※※※※※※※※※※※※※

改装後の公爵家を案内してもらいながら、ついでに前から気になってたことをライリオに聞いてみた。

公爵の部屋の隣のドア。
あそこって、なんとなあく、公爵家奥様用の部屋なんだって認識なんだけど。
今はどうなってるんだろう。
エリアナの部屋のままなのかな?
俺が見てもいいんだろうか?

ずっと聞いてみたかったんだけど、みんなの痛みをよみがえらせちゃいそうで聞けなかったんだ。
でも、今がいいチャンスだと思う。
これを逃したら、また聞く機会を失ってしまいそうだから。
ごめんだけど、聞くよ。

「あのね。ここって、おかあさまのおへや?
ぼく、みていい?
おかあさまのしょうぞうがとか あるならみてみたい」

ライリオは、はっとしたように目を見開いた。
リオは無意識に痛みをこらえるように胸のあたりをキュッと掴んでる。

「サフィ……お母様のお顔、見たことないの?」

ライオネルは眉を下げ、項垂れた。

「すまなかった。私たちが気付くべきだったのに…」

「あのね、サフィのお母様でもあるんだよ。
僕たちに断わらなくてもいいの。サフィも好きな時に入っていいんだからね」

リオが俺の手をそっと握って、俺を部屋の前に引っ張って行った。

「鍵はかけていないんだ。いつでも会いに来られるようにと父上が」

そういってライオネルが先に扉を開けてくれる。





初めて会うエリアナに、期待と不安が入り混じったみたいなきもち。
どんな顔なんだろう。
俺に似てる?似てない?どっちなんだろう。

実は俺はエリアナの顔をよく知らない。
ゲイルの話では、俺と似てるけど似てないって。
エメラルドグリーンの俺の瞳はお母様ゆずり。ゲイルよりも明るめの新緑色。
出会ったころによく俺の瞳をのぞき込んでは切ない顔してたのは、エリアナの事を思い出してたんだろうなって思う。
でも、浮かべる表情は全く違うらしい。
普段の俺の性格は、どっちかっていうとゲイルとエリアスとエリアナを足して割った感じみたい。
えええー?ゲイル成分90%くらいにして残りはエリアナで埋めたかったなあ。
これゲイルに言ったら

「俺が言うのもなんだが…お前のエリアスの扱いはどうしてそう雑なんだ?
あいつ、サフィにはああだけど、侯爵としての顔は凄いんだぞ?」

だって。
エリアスが嫌いなわけじゃない。好き。
たぶん俺が「ゲイルもエリアスも絶対的に俺の味方」だって思ってるからだと思う。
ちょっとくらいぞんざいな扱いしても嫌われない自信があるっていうか。
そういうのを楽しんじゃってるっていうか。
「じゃあゲイルは?」って言われそうだけど、ゲイルの場合は特別!すきすぎてむり!




そんなわけで、俺がエリアナに似てるのか似てないのかすらよくわからない。
エリアナはゲイルに似てるのかな?
エリアスに似てる?
リオがよく似てるって聞いたけど、少年っぽい感じだったの?





俺はドキドキしながら、部屋の中に一歩踏み出した。

さあっと光が射し「ようこそ」とでも言うように部屋の中を照らし出す。
ここが、お母様のお部屋。



そこは…公爵夫人の部屋というよりまるで田舎の貴族のような雰囲気だった。
悪い意味じゃない。
シンプルで、温かくて、なにより空気が澄んでいる。
すう、と息をすうと、どこか柑橘系のようなさわやかな香りがした。

部屋の左側には多分公爵の私室に繋がっているだろう扉と、バスルームに続くらしき扉が。
シンプルなアイボリーの壁紙には、同系色で蔦や花が細かく描かれていた。
花瓶の代わりにあちこちに観葉植物が置かれ、居心地の良い空間を演出している。
部屋の右手には緑の蔦の模様が描かれた白いチェスト。お揃いのタンスや鏡台。
そして…エリアナの肖像画があった。

「これが………エリアナおかあさま………」

思ったより華奢だ。全然少年って感じじゃない。
聞いた話からは、もっとやんちゃそうな女性かと思ってた。
つややかな金の髪を緩く流し頬をピンクに染め、首をかしげて微笑んでいる女性は、まるで絵本の妖精のようだった。
生き生きとしているのに何故かどこか儚げで、俺は「散るはずの命だった」というルーダの言葉を思い出した。
その瞳は新緑のエメラルドグリーン。俺とリオと同じだ。
かすかにほころんだ口元は今にも語り出しそうに見える。
お母様…。この人が、俺のお母様。ゲイルの代わりに俺を産んでくれた人。

ようやく会えたね。お母様。




「……おかあさま……サフィラスです。はじめまして。あいにくるのおそくてごめんね」

ライオネルが「近いほうがいいだろう」とその額を俺の前に降ろしてくれた。

さっきより近くなったエリアナの顔に、そっと触れてみる。
お母様。
この頬はどんな感触なのかな?
きっとやわらかくてすべすべだよね。
生きてたら俺にほっぺすりすりしてくれた?
抱っこしてくれた?
そしたらきっと、王妃さまみたいにふかふかしていい匂いがしたはず。

なんとなく、肖像画の胸に頬を当ててみた。
抱きしめるみたいに。抱きしめてもらってるみたいに。

「あのね…おはなししたことないけど、だいすき。うんでくれてありがと。
ぼく、だいじょうぶ。ゲイルがおとうさまになってくれたの。
いまはまいにちたのしい。
ぼく、せいじょ。せいじゅうのしゅごもある。
ぜったいにみんなでしあわせになるから。あんしんしてよき」

冷たいはずの頬から、なんだか暖かなものが伝わってくるような気がした。



しばらくそのままでいたら、ふわりと俺の背をぬくもりが包んだ。
ライとリオだ。
左右から俺を抱きしめるようにして、ライリオもお母様に誓った。

「僕も、僕もお兄様も、お父様も、今はもう大丈夫だからね。
サフィも、これからは僕たちが守るからね」
「母上。安心してください。私たちは、幸せです。サフィも、リオネルも私がしっかりと守っていきます。
これからもどうか私たちを見守ってください」

「エリアスもいるよ。ティガーとマリーっていうなかまもできました。
おうじょうには、レオンおにいさまもいます。
おうさまとおうひさまもやさしいし、だんちょーとせんせーもいます。
なにもしんぱいしないでよきですので」

口々にお母様に報告しながら、俺はあることを思い出し、念のため言っておいた。
エリアナが後でショックを受けないように。

「あと。たぶんないとおもうけど、ねんのためいっておきます。
ゲイルがママになるかもしれません。うんめいにまけたら。
ゲイルはいやみたいだけど、こうしゃくはよわよわなので、ゲイルがほだされるかもだし。
なので、ねんのためほうこくしておきます。
ぼくはこうしゃくではなくゲイルのみかたですので。そこんとこはよろしく」
「え?それ、どういうこと?」
「それはもしかして……」


「おい!!ねえぞ!!」
「ひゃ!!」

突然の声に驚くと、部屋のドアに半身を預けたゲイルが。

「ドアが開いてるから何してるのかと思えば。
エリアナに報告はいいが、最後のは不要だ。
そんな可能性はない!ほだされねえから!!
分かったか、エリアナ!心配無用だぞ!」

最後のはエリアナに向けてどこか必死でわめくゲイル。
だから「念のため」って言ったでしょお。



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