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新生活スタート!

俺のティガーは優秀で、公爵はやっぱりしょうがない人だよねっていう話。

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お腹いっぱいでご機嫌でお部屋に戻った俺を迎えたのは、ティガー。
ねえ、さっきご飯用意して、給仕してくれたよね?
いつの間に戻ってたの?忍者?しのびのもの?
ティガー…底知れぬ…。

「いや、普通にサフィがルーと遊んでる間に『お先に失礼致しますね』ってでてったぞ」

ええ?!うっそー!全然気づかなかった!

「サフィ、ルーに夢中だったからな」

す、すまん!って、ゲイル、俺の考えてること…

「読んでない!」

読んでるじゃん!俺の周り、心の読む人が多すぎ。

「みんなすごいのうりょくしゃ……」
「いや、サフィが分かりやすいだけだって」

うんうん、と頷くティガー。ご、ごめんね。でてったの気付いてなくて。



そんな素晴らしきティガーが俺になにやら袋っぽいものを差し出した。

「?なにこれ?」

広げてみると……肩掛けバッグ?
やわらかな革っぽい素材でできており、籠みたいに革を編んで作られていた。
白い色で、ところどころに編み込まれたグリーンのリボンがアクセントに。
斜めに肩から掛けられるようになっている、可愛い感じの使いやすそうなバッグだ。

「おお!いいかんじのかばん!」

早速肩から掛けてみると…ぴったり!

「どうしたの?くれるの?」

くるくる回って見せながら問うと、

「これはこうするのですよ」

ひょい、とルー君を掴みバッグにイン!
ひょええええ!!ま、まさかのルー君バッグ?!

入れられたルー君はといえば、嫌がりもせずきょとんとした顔でバッグからひょっこりと顔を出してご満悦。
ごろごろごろと、バッグの内側に頭をこすりつけている。

「……ルーくん、きにいったみたい」

ふふふ、とみんなでバッグの中を覗き込む。
ルー君はごにょごにょした後、そのまま気持ちよさそうにすやすやと眠ってしまった。

「こうすれば、ルー君と一緒にお散歩できますよ。どうでしょう?もし気に入らないようでしたら、仰ってください。作り直しますので」
「え?!」
「?どうかされましたか?」
「い、いや、これ、まさかティガーのてづくり?!つくったの?いつ?!」
「ええ。エリアス様とサフィラス様が床で楽しんでいらっしゃる間に。大体の大きさは把握できましたので…」
「ゆうのう!!いっとうしょう!!ティガー、いっしょうぼくからはなれないでね!いっしょうそばにいて!!」

あまりの感動におもわずプロポーズみたいになってしまった俺。
ゲイルが無言の圧を放出し、有能なティガーは

「光栄です。許される限りこのティガーサフィラス様にお仕え致します」

と満点の答えをくれたのだった。本当に有能すぎん?!



ということで、午後からの「ライリオの公爵家ツアー」にはルー君も連れていくことになった。
こころなしかルー君も嬉しそうにおひげをピコピコさせてご機嫌である。
うむ。よき。

ライリオが迎えに来てくれることになっていたんだけど、俺は早くルー君を紹介したくって、待ちきれずに2人の部屋の前で待機。
さり気無さを装ってウロウロちょろちょろしていた。

すると、奥の方から公爵が。

「……サフィラス。……ひさしぶり…だな?」

昨日会ったけどね!不器用かよ!

「こんにちは、こうしゃく。おひるごはんたべましたか?」

公爵の口元がかすかに緩んだ。

「うむ。今食事を済ませたところだ。サフィラスはもう食事は済ませたか?」
「たべました。ぼくのしょくどう、ありがとうございます。ルーくんもいっしょにたべました」
「?ルー君?」

僕はそうっとカバンをあけて中で眠るルー君を見せてあげた。

「!!こ、これは…」
「エリアスがくれました。ねこ!ぼくのおとうとにしました。かわいいでしょ!」

可愛い以外の返事は認めぬ!

「猫…か。少し…私の知る猫とは違う気もするが……可愛いな。うむ。大変可愛らしい。………息はしているか?」
「してますよ。おなか、うごいてるでしょ?」
「…そ、そうか。確かに、動いているな」

2人で小さな鞄をのぞき込む。

「………触れてみても良いだろうか?」

恐る恐る、といった感じで公爵が俺に許可を求めた。

「そおっと、おこさないように。そおっとね」

おずおずと指を伸ばし、俺に言われたようにそおっとそおっと指先でルー君を撫でる公爵。
その柔らかな毛に触れたとたん公爵の目がパッと見開かれ、そして優しく細められた。

「……柔らかくて、温かいな。………とても…いい子だ」

無心で優しく優しく撫でる公爵。その表情は驚くほどに柔らかくほどけている。
こんな顔して、この人って意外と小心者なんだよね。
しかも、俺わかっちゃった。この人、かわいいものずき。小さくて可愛いものが好きなんだけど、デフォルトが怒ったみたいな顔だから、小さくて可愛いものからは好かれない。ちょっと不憫。
今みたいな顔をもっと出していけば、とっつきやすくなるのにね。

「!!」

公爵が急に驚いた顔するからどうしたのかと思ったら。
どこか幼げな表情の公爵に、俺は無意識に手を伸ばし、その頭を撫でてしまっていた。

「…………まあ、こういうこともありますので」

自分でもよくわからなくて、意味不明の言い訳を口にする俺。

「そ、そ、そう、そうだな…。こういうことも、ある、のだろう」

何気なさを装ってそのままルー君を撫で続ける公爵の顔は真っ赤で、声だって馬鹿みたいに震えていた。
ほんと、この人って。不器用なんだなあ。
ほんっと、どうしようもない人だなあ。

「………こういうこともありますので。いつもそういうかおをしたらよき」

俺はもう一度言って、もう1回頭を撫でてやる。
公爵は顔を真っ赤にしたまま、大人しく俺に撫でられていた。


ルー君は相変わらずスヨスヨしている。
うん。もうちょっと寝ててね。
こまった大人が、ちょっとだけゆるんでるから。もう少しだけゆるゆるしてあげようね。
そしたら、公爵の眉間に刻まれた渓谷だって、ちょっとは浅くなるかもしれないしね。

優しい俺とルー君は、ライリオが来るまで、公爵のゆるゆるに付き合ってあげたのだった。



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