72 / 264
王城でのまがりにん生活
俺、ついに魔法を習い始める!
しおりを挟む
昨日スタートのはずが。
バイツー先生のゴミ部屋のお陰で1日延期。今日が初めての魔法訓練となります!
待ってました!
5歳にしてようやく!魔法!
みんな魔力が落ちつく5歳から習い始めるっていうけど。
ちょっとくらいなら、いいんじゃないかと思う。
でももう魔力測定もしたし、これで大手を振って習うことができるんだもんね!
あ、でも魔力が虹だから!こそっとしなきゃ!ないしょないしょ、だよね!ちゃんと覚えてる!
てな訳で。
ゲイルたちと合流し、剣も見せて、いざ、魔塔へ!
さすがにバイツー先生も申し訳なさそうに顔を合わせた早々、がばりんちょ!90度のオジギ!
「昨日はごめんねえ!あれからみんなに怒られちゃったよお!
いやあ、もうあそこまでになっちゃうとひとりじゃ無理だよねえ!サフィちゃんのおかげでみんなが手伝ってくれたから助かっちゃった!」
かーらーのー
握手握手!
「オヤツもありがとうね!みんなすっごおく喜んでたよお!」
「今日こそはしっかり魔法を教えるからねっ!期待しててっ!」
ぶんぶんぶん!
勢いがすごい!ぴえー!腕がもげそう!
「さ、サフィ!」
慌ててゲイルが俺の脇の下に手を入れて俺を持ち上げ、脱出成功!
ふう。
「おかたづけだいじ。できないなら はやめに『たすけて』する。そしたら ああならない。オケ?」
「うん。さすがに反省したよー。それにしても、小さな子に言われると余計にこたえるもんだねえ!」
「あれは論外ですよ!気をつけてくださいね」
何を思い出したのか、お兄様もぶるりと震えながら先生を注意。
しっかり反省するようにね!
こうしてようやく先生の私室に落ち着くことができた俺たち(俺とゲイルとお兄様。ティガマリ&護衛ズは1階で待機中!)ですが。
片付けが終わった魔塔の10階は見違えるようだった。
物が溢れていた床もようやく姿を現し、時代に磨かれた光沢と美しい木目を見せている。
壁沿いには大きな本棚がびっしり。
昨日はガラガラだったのに、きちんと所定の位置に本や道具が収められ、整然と並んでいた。
ま、、魔塔の皆さん…がんばったねえええ!!
あのパイ、みんなの分も持ってくるんだった!
そう後悔してたら、お兄様がこそっと「差し入れは、魔塔の全員分も頼んであるからね」って。
お、お兄様!!さすがです!これが王族の気遣い!
俺は感謝と尊敬のまなざしでお兄様を見つめた。
「ふふ。サフィなら『みんなにも』って言うかな、ってね。当たってた?」
「おにいさま、さすが。きづかいのひと。つうじあってる!」
あまりの部屋の豹変ぶりに、俺たちはびっくり。
こんな素敵な部屋をあんな魔窟にしてしまったの?!
「……せんせー…。つかったらもどす。あとで、はダメ。そのときにやるの。おかたづけのしかた、ゲイルにならって」
「……面目ない……」
「いや、俺でも無理だろ。こいつに教えるの」
ゲイル、すっかり先生への尊敬の念が消えてしまっている。
最初はあんなにかばっていたのに。
うんうん。わかるわかる。ゲイルって意外と綺麗好きだもんね。
「……汚れはクリーンできても、物理はどうしようもねえわ。
サフィの言う通り。毎日の積み重ねだぞ?
せめて、虫だけはなんとかしとけ!あれは無理!うちのかわいいサフィが虫に刺されたらどうする!」
あ。そっちでしたか。俺のためだったのね。ありがとう。
「ごめんよおおう。虫よけの魔法でしっかりと燻して追い出したから!」
「………結界!」
「………それ、何の結界?この部屋というか、魔塔には結界ははってあるよ?」
「虫には害意なんてねえ。だから入りたい放題なんだろ?
とりあえず………一定の大きさ以下の動くもんは入れないように指定しといた」
「助かるよ。…私も虫は…勘弁願いたいからね」
「結界にそんな使い方が?!いやあ、そんな指定でいけるんだね!盲点だったよお!すごいよ、ゲイル!」
「ぼくの!ぼくのおとうさまだもん!」
どやあ。
これで安心して魔法ができます。
バイツー先生の講義は、まずは「魔法とは」みたいなことからだった。
「魔法で一番大切なことは、何だと思う?」
「はい!ぼく しってる!きのう ほんでよんだ!イメージでしょ!
たくさん しっかりイメージするとよき!」
「そうだね。よく覚えてたね!偉い偉い!
……昨日はホントにごめんねえ。待ち時間を有効活用してくれたみたいでよかったあ!
そういえば、氷魔法使ったってホント?公爵から習ってたって聞いたけど…」
あ、ヤバい!
言っていいのかなあ…?
俺がちらりとゲイルを見ると、ゲイルがうんうん、て頷いた。
後で聞いたら、団長さんと先生には俺のにじいろ話してあるんだって。
よかった!
「あのね。ほんとはならってない。ほんでよんだ。
あのね、おちゃがちょっと あつかったから。つめたくしたいなって。
こおりだしたらいいとおもったの。
やってみたらできた。
こまかくたくさんそうぞうして、エイってしたら、てからコロリンした」
俺の話にゲイルとお兄様が苦笑。
「あれは驚いたよね…。さすがはサフィ」
「まあ、公爵家自体が水や氷の扱いのスペシャリストだからな。血筋、なのか?」
先生は俺の話を聞いて、首をかしげた。
「でもねえ。普通はまず『自分の魔力を自覚する』ところからなんだよねえ。身体に流れる魔力の流れを意識して、それを集めて魔法にするんだ。サフィちゃん、初めてだったんだよね?」
「?うん。やったらできた。まりょくしらない。てからだそう っておもって 『エイっ』しただけ」
俺の言葉に今度はお兄様が首をかしげた。
「うーん…。確か、私の時はまず体内にある魔力を意識して循環させる訓練から行ったよ?サフィは魔力を無意識に制御しているのかもしれないね」
ゲイルが、顎に手をやり考え込む。
「…心あたりが無いでもない。
サフィが生まれる前から、エリアナを通じて俺のヒールを何度も試した。まあ、はじかれたんだがな。
それが訓練になっていた、なんてことはないか?」
「確かに!ゲイルの魔力ならそれなりの強さがあるはずだからねえ。生まれる前に何度も強力にヒール、なんて普通はやりたくてもできないもんねえ。ゲイルがいて初めて成り立つ、強力なヒール。それを定期的に繰り返しかけられた事が、ある意味訓練になっていた…。
うん。あり得ますねえ!なんとも興味深いなあ!」
「魔力をはじく過程で、魔力の流れた出来たのかもね。それが自分の魔力を意識することに繋がったのかもしれない」
「実際、サフィの魔力量はけた違い過ぎたからな。あそこまでとは想定外だった。今になって思えば、あんな魔力量でエリアナが無事にサフィを産めたのは、奇跡に違いんだよ。
サフィが無意識に自分の魔力を制御していたからなのかもしれんな。サフィは、腹の中で魔力制御を覚え、分からないなりにエリアナを必死で守っていたんだろう」
「そうだね。その仮説は僕も正しいと思うよお。サフィちゃんの想定外の魔力量もだけど、更にそこに魔力の多いゲイルが居合わせ何度のヒールを掛けたこと、エリアナさんの強い想い、それが揃っていたからこそ奇跡が起きたんだろうねえ…」
「ぼく、まもったの?」
「ああ。きっと守っていたんだよ。頑張ったな、サフィ!そのおかげで俺たちはお前に出会う事が出来た。エリアナの想いを繋ぐことができたんだ。よくやった、サフィ!」
俺はなんだか…むしょうにほっとした。
俺がお母様を傷つけただけじゃなく、守ってたことが、嬉しかった。
多すぎなくていい、なんて思った魔力だけど。
その中で頑張って今に繋いだ自分を、誇らしいと思った。
「サフィは、みんなの希望なんだね」
お兄様が俺をそっと抱きしめてくれる。
「ぼく…きぼう?」
「ああ、そうだ。エリアナのお前を守りたいという強い想い、お前の母親を守りたいという想い、そしてお前たちを守りたいという俺の想い。みんなの想いが奇跡を生んだんだ。サフィはみんなの希望なんだよ。
そして、それは今に繋がっている。
サフィ。お前の魔力は凄い。だが、お前はきっとそれを自由に使いこなすことができる。
俺たちが見たこともない世界を、お前は切り開いていくんだ」
「楽しみですねえ!サフィちゃんがどんなものを見せてくれるのか!僕も微力ながら全力でサポートさせてもらうからねえ!いやあ、ワクワクするなあ!」
なんだろう。
なんだろう。
今まで、ゲイルやみんなとうれしくて楽しくて幸せで。
でも、どこか胸に詰まってた「俺の魔力のせいで」「普通だったらよかったのに」って気持ち。
それが、ぱあって消えていったのが分かる。
この魔力は確かに大切な人を傷つけた。
でも一方では、大切な人を守ってもいたんだ。
みんなの希望に慣れる力なんだ。
世界を切り開く、俺の力。
そう思ったら、ぶわわわわー、って力が湧いてきた。
「ふわわわわ!ど、ど、ど、どうしよ!あふれちゃう!」
「サフィ?!」
「わああああああん!でちゃうよおおおおおお!!」
どっぱーーーーん!
びかびかびかーっ!
俺の身体から信じられない光がでた。
「うわああ!何だ?!大丈夫か、サフィ!」
「だ、ダメえええ!きちゃだめ!ぼく、なんかでてるから!!」
ダメって言ったのに、ゲイルは躊躇なく俺をぎゅうっと抱き込んだ。
「ゲイル!ゲイル!!」
しゅうううん、と光が消えた。
「ゲイル!!だいじょうぶ?なんともない?いたくない?てとかあしとか、ある?」
「だ、大丈夫だ。なんともな…いや、あるな」
「ええ?!どこが?!て?あし?おなか?!
せ、せんせえええ!ゲイルをヒールして!!ヒール!」
慌てまくる俺にゲイルが一言。
「疲れが取れた」
「………は?」
なぬ?!俺はガシっとゲイルの顔を掴み、のぞき込んだ。
見てみると、確かに昨日からずっと目の下に居たクマさんがいない。お肌だってつやっつやのぴっかぴか!
「あれ?!ゲ、ゲイル?わかくなった?クマさんいなくなって、おはだぷるんぷるん……」
お目目ぱちくりして驚いていると、「はーい!」と先生の声。
「あのねえ。僕もなんだか元気になっちゃったみたい!」
ええ?先生も?!
先生は腕をブンブン振り回しながら、満面の笑みを浮かべる。
「昨日の掃除で疲れがたまってたんだけど、今は全く疲れを感じないの。
おまけに、これまで感じたことのないパワー?みたいなのを感じる!」
てことは…まさか…?!
お兄様に視線を向けると、お兄様もすっきりさわやかな笑顔。
「うん。私も同じかな。少し疲れはあったのだが、全くそれがなくなっている。身体がとても軽く感じるよ」
しーん………。
てことは、さっきの「びかびかーん!」は………
「威力が大きすぎて一瞬ビビっちまったが…エリアヒールだな…はは…」
ゲイルが呆れたような声で笑った。
「そうですね…ちょっと威力が…ありえないけど…エリアヒールだよねえ…」
「エリアヒールだね…」
あはははは…。
でも、いい魔法だよね?よかったあああ!!何が出るのかと思ったらヒールだった!
へんなのでなくてよかったああああ!!
「どうやら、サフィの魔法は気持ちや心に連動しやすいようだな。
一度氷を出しちまったことで、タガが外れちまった。今は駄々洩れ状態だ」
「……しっかりと制御をお勉強しましょうねえ、サフィちゃん!大丈夫。きっとすぐにできるよお!」
俺は魔法を覚えるより先に、「魔法を出さない訓練」をされることに…。
なんかじいっとロウソクをみつめたりだとか、おでこに紙をぴったんこされて、ゆらすなだとか。
何この訓練。こんなの、魔法の訓練じゃない!忍者の修行じゃん!!
ぶー!ぶー!!
「まあまあ。ぶうたれるな!
お前は、たぶんイメージだけで相当魔法を使いこなせるぞ?
だから、暴走しないように先に意識的に制御する方法を学ぼうな!」
「そうだよ。サフィならできるよ!一緒にがんばろうね!」
お兄様とゲイルが、おでこの紙をぺらんぺらんしながら励ましてくれた。
俺に付き合って一緒に訓練してくれているのだ。
ありがたい。けど、ちょっと面白い。
「…ぶふっ…」
「……サフィ、笑ってない?」
「わ、わらって…っな…ないよ…っ」
だ、だめ。お兄様が一言いうたびに、顔の前で紙がぺらんぺらんって!
なまじ美形なだけに!絵面が!!
「あ、あはははははははは!!!か、かみ!かみが!ぺらんぺらん!かっこいいおかおに!ぺらんぺらんて!!」
遂に我慢しきれなくて笑い出した俺を、先生がコツン。
「こおら!笑わないのっ!これはちゃんとした訓練なんだからねえ!精神を…なんだっけ、統一!統一するのにはこれがいいんだって!」
確かにそおだけど!でもおもしろおおおおい!!!
俺が笑いだしたら、ゲイルとお兄様まで笑い出した。
「はっはっはっは!我慢してたのにっ!ダメだろ、サフィ!!」
「ふ、ふふふふふふ!も、もうダメだ!これは、これは無理っ!!」
こんなことを2時間くらいやって。
ねこちゃんのパイをおやつに食べて、みんなでお茶をして、第一回の訓練は終わった。
とにかく、俺、魔法は問題なく使えそう。禁止されてるけど。
あと、こころの小石がぽろりと取れた。
それが今日の収穫。
何ができるようになった、ってわけじゃないけど。
ものすごく濃い訓練の日になったと思う。
俺は希望。
訓練して魔法を使いこなせるようになって、新しい世界を切り開く。
みててね。みんな!
バイツー先生のゴミ部屋のお陰で1日延期。今日が初めての魔法訓練となります!
待ってました!
5歳にしてようやく!魔法!
みんな魔力が落ちつく5歳から習い始めるっていうけど。
ちょっとくらいなら、いいんじゃないかと思う。
でももう魔力測定もしたし、これで大手を振って習うことができるんだもんね!
あ、でも魔力が虹だから!こそっとしなきゃ!ないしょないしょ、だよね!ちゃんと覚えてる!
てな訳で。
ゲイルたちと合流し、剣も見せて、いざ、魔塔へ!
さすがにバイツー先生も申し訳なさそうに顔を合わせた早々、がばりんちょ!90度のオジギ!
「昨日はごめんねえ!あれからみんなに怒られちゃったよお!
いやあ、もうあそこまでになっちゃうとひとりじゃ無理だよねえ!サフィちゃんのおかげでみんなが手伝ってくれたから助かっちゃった!」
かーらーのー
握手握手!
「オヤツもありがとうね!みんなすっごおく喜んでたよお!」
「今日こそはしっかり魔法を教えるからねっ!期待しててっ!」
ぶんぶんぶん!
勢いがすごい!ぴえー!腕がもげそう!
「さ、サフィ!」
慌ててゲイルが俺の脇の下に手を入れて俺を持ち上げ、脱出成功!
ふう。
「おかたづけだいじ。できないなら はやめに『たすけて』する。そしたら ああならない。オケ?」
「うん。さすがに反省したよー。それにしても、小さな子に言われると余計にこたえるもんだねえ!」
「あれは論外ですよ!気をつけてくださいね」
何を思い出したのか、お兄様もぶるりと震えながら先生を注意。
しっかり反省するようにね!
こうしてようやく先生の私室に落ち着くことができた俺たち(俺とゲイルとお兄様。ティガマリ&護衛ズは1階で待機中!)ですが。
片付けが終わった魔塔の10階は見違えるようだった。
物が溢れていた床もようやく姿を現し、時代に磨かれた光沢と美しい木目を見せている。
壁沿いには大きな本棚がびっしり。
昨日はガラガラだったのに、きちんと所定の位置に本や道具が収められ、整然と並んでいた。
ま、、魔塔の皆さん…がんばったねえええ!!
あのパイ、みんなの分も持ってくるんだった!
そう後悔してたら、お兄様がこそっと「差し入れは、魔塔の全員分も頼んであるからね」って。
お、お兄様!!さすがです!これが王族の気遣い!
俺は感謝と尊敬のまなざしでお兄様を見つめた。
「ふふ。サフィなら『みんなにも』って言うかな、ってね。当たってた?」
「おにいさま、さすが。きづかいのひと。つうじあってる!」
あまりの部屋の豹変ぶりに、俺たちはびっくり。
こんな素敵な部屋をあんな魔窟にしてしまったの?!
「……せんせー…。つかったらもどす。あとで、はダメ。そのときにやるの。おかたづけのしかた、ゲイルにならって」
「……面目ない……」
「いや、俺でも無理だろ。こいつに教えるの」
ゲイル、すっかり先生への尊敬の念が消えてしまっている。
最初はあんなにかばっていたのに。
うんうん。わかるわかる。ゲイルって意外と綺麗好きだもんね。
「……汚れはクリーンできても、物理はどうしようもねえわ。
サフィの言う通り。毎日の積み重ねだぞ?
せめて、虫だけはなんとかしとけ!あれは無理!うちのかわいいサフィが虫に刺されたらどうする!」
あ。そっちでしたか。俺のためだったのね。ありがとう。
「ごめんよおおう。虫よけの魔法でしっかりと燻して追い出したから!」
「………結界!」
「………それ、何の結界?この部屋というか、魔塔には結界ははってあるよ?」
「虫には害意なんてねえ。だから入りたい放題なんだろ?
とりあえず………一定の大きさ以下の動くもんは入れないように指定しといた」
「助かるよ。…私も虫は…勘弁願いたいからね」
「結界にそんな使い方が?!いやあ、そんな指定でいけるんだね!盲点だったよお!すごいよ、ゲイル!」
「ぼくの!ぼくのおとうさまだもん!」
どやあ。
これで安心して魔法ができます。
バイツー先生の講義は、まずは「魔法とは」みたいなことからだった。
「魔法で一番大切なことは、何だと思う?」
「はい!ぼく しってる!きのう ほんでよんだ!イメージでしょ!
たくさん しっかりイメージするとよき!」
「そうだね。よく覚えてたね!偉い偉い!
……昨日はホントにごめんねえ。待ち時間を有効活用してくれたみたいでよかったあ!
そういえば、氷魔法使ったってホント?公爵から習ってたって聞いたけど…」
あ、ヤバい!
言っていいのかなあ…?
俺がちらりとゲイルを見ると、ゲイルがうんうん、て頷いた。
後で聞いたら、団長さんと先生には俺のにじいろ話してあるんだって。
よかった!
「あのね。ほんとはならってない。ほんでよんだ。
あのね、おちゃがちょっと あつかったから。つめたくしたいなって。
こおりだしたらいいとおもったの。
やってみたらできた。
こまかくたくさんそうぞうして、エイってしたら、てからコロリンした」
俺の話にゲイルとお兄様が苦笑。
「あれは驚いたよね…。さすがはサフィ」
「まあ、公爵家自体が水や氷の扱いのスペシャリストだからな。血筋、なのか?」
先生は俺の話を聞いて、首をかしげた。
「でもねえ。普通はまず『自分の魔力を自覚する』ところからなんだよねえ。身体に流れる魔力の流れを意識して、それを集めて魔法にするんだ。サフィちゃん、初めてだったんだよね?」
「?うん。やったらできた。まりょくしらない。てからだそう っておもって 『エイっ』しただけ」
俺の言葉に今度はお兄様が首をかしげた。
「うーん…。確か、私の時はまず体内にある魔力を意識して循環させる訓練から行ったよ?サフィは魔力を無意識に制御しているのかもしれないね」
ゲイルが、顎に手をやり考え込む。
「…心あたりが無いでもない。
サフィが生まれる前から、エリアナを通じて俺のヒールを何度も試した。まあ、はじかれたんだがな。
それが訓練になっていた、なんてことはないか?」
「確かに!ゲイルの魔力ならそれなりの強さがあるはずだからねえ。生まれる前に何度も強力にヒール、なんて普通はやりたくてもできないもんねえ。ゲイルがいて初めて成り立つ、強力なヒール。それを定期的に繰り返しかけられた事が、ある意味訓練になっていた…。
うん。あり得ますねえ!なんとも興味深いなあ!」
「魔力をはじく過程で、魔力の流れた出来たのかもね。それが自分の魔力を意識することに繋がったのかもしれない」
「実際、サフィの魔力量はけた違い過ぎたからな。あそこまでとは想定外だった。今になって思えば、あんな魔力量でエリアナが無事にサフィを産めたのは、奇跡に違いんだよ。
サフィが無意識に自分の魔力を制御していたからなのかもしれんな。サフィは、腹の中で魔力制御を覚え、分からないなりにエリアナを必死で守っていたんだろう」
「そうだね。その仮説は僕も正しいと思うよお。サフィちゃんの想定外の魔力量もだけど、更にそこに魔力の多いゲイルが居合わせ何度のヒールを掛けたこと、エリアナさんの強い想い、それが揃っていたからこそ奇跡が起きたんだろうねえ…」
「ぼく、まもったの?」
「ああ。きっと守っていたんだよ。頑張ったな、サフィ!そのおかげで俺たちはお前に出会う事が出来た。エリアナの想いを繋ぐことができたんだ。よくやった、サフィ!」
俺はなんだか…むしょうにほっとした。
俺がお母様を傷つけただけじゃなく、守ってたことが、嬉しかった。
多すぎなくていい、なんて思った魔力だけど。
その中で頑張って今に繋いだ自分を、誇らしいと思った。
「サフィは、みんなの希望なんだね」
お兄様が俺をそっと抱きしめてくれる。
「ぼく…きぼう?」
「ああ、そうだ。エリアナのお前を守りたいという強い想い、お前の母親を守りたいという想い、そしてお前たちを守りたいという俺の想い。みんなの想いが奇跡を生んだんだ。サフィはみんなの希望なんだよ。
そして、それは今に繋がっている。
サフィ。お前の魔力は凄い。だが、お前はきっとそれを自由に使いこなすことができる。
俺たちが見たこともない世界を、お前は切り開いていくんだ」
「楽しみですねえ!サフィちゃんがどんなものを見せてくれるのか!僕も微力ながら全力でサポートさせてもらうからねえ!いやあ、ワクワクするなあ!」
なんだろう。
なんだろう。
今まで、ゲイルやみんなとうれしくて楽しくて幸せで。
でも、どこか胸に詰まってた「俺の魔力のせいで」「普通だったらよかったのに」って気持ち。
それが、ぱあって消えていったのが分かる。
この魔力は確かに大切な人を傷つけた。
でも一方では、大切な人を守ってもいたんだ。
みんなの希望に慣れる力なんだ。
世界を切り開く、俺の力。
そう思ったら、ぶわわわわー、って力が湧いてきた。
「ふわわわわ!ど、ど、ど、どうしよ!あふれちゃう!」
「サフィ?!」
「わああああああん!でちゃうよおおおおおお!!」
どっぱーーーーん!
びかびかびかーっ!
俺の身体から信じられない光がでた。
「うわああ!何だ?!大丈夫か、サフィ!」
「だ、ダメえええ!きちゃだめ!ぼく、なんかでてるから!!」
ダメって言ったのに、ゲイルは躊躇なく俺をぎゅうっと抱き込んだ。
「ゲイル!ゲイル!!」
しゅうううん、と光が消えた。
「ゲイル!!だいじょうぶ?なんともない?いたくない?てとかあしとか、ある?」
「だ、大丈夫だ。なんともな…いや、あるな」
「ええ?!どこが?!て?あし?おなか?!
せ、せんせえええ!ゲイルをヒールして!!ヒール!」
慌てまくる俺にゲイルが一言。
「疲れが取れた」
「………は?」
なぬ?!俺はガシっとゲイルの顔を掴み、のぞき込んだ。
見てみると、確かに昨日からずっと目の下に居たクマさんがいない。お肌だってつやっつやのぴっかぴか!
「あれ?!ゲ、ゲイル?わかくなった?クマさんいなくなって、おはだぷるんぷるん……」
お目目ぱちくりして驚いていると、「はーい!」と先生の声。
「あのねえ。僕もなんだか元気になっちゃったみたい!」
ええ?先生も?!
先生は腕をブンブン振り回しながら、満面の笑みを浮かべる。
「昨日の掃除で疲れがたまってたんだけど、今は全く疲れを感じないの。
おまけに、これまで感じたことのないパワー?みたいなのを感じる!」
てことは…まさか…?!
お兄様に視線を向けると、お兄様もすっきりさわやかな笑顔。
「うん。私も同じかな。少し疲れはあったのだが、全くそれがなくなっている。身体がとても軽く感じるよ」
しーん………。
てことは、さっきの「びかびかーん!」は………
「威力が大きすぎて一瞬ビビっちまったが…エリアヒールだな…はは…」
ゲイルが呆れたような声で笑った。
「そうですね…ちょっと威力が…ありえないけど…エリアヒールだよねえ…」
「エリアヒールだね…」
あはははは…。
でも、いい魔法だよね?よかったあああ!!何が出るのかと思ったらヒールだった!
へんなのでなくてよかったああああ!!
「どうやら、サフィの魔法は気持ちや心に連動しやすいようだな。
一度氷を出しちまったことで、タガが外れちまった。今は駄々洩れ状態だ」
「……しっかりと制御をお勉強しましょうねえ、サフィちゃん!大丈夫。きっとすぐにできるよお!」
俺は魔法を覚えるより先に、「魔法を出さない訓練」をされることに…。
なんかじいっとロウソクをみつめたりだとか、おでこに紙をぴったんこされて、ゆらすなだとか。
何この訓練。こんなの、魔法の訓練じゃない!忍者の修行じゃん!!
ぶー!ぶー!!
「まあまあ。ぶうたれるな!
お前は、たぶんイメージだけで相当魔法を使いこなせるぞ?
だから、暴走しないように先に意識的に制御する方法を学ぼうな!」
「そうだよ。サフィならできるよ!一緒にがんばろうね!」
お兄様とゲイルが、おでこの紙をぺらんぺらんしながら励ましてくれた。
俺に付き合って一緒に訓練してくれているのだ。
ありがたい。けど、ちょっと面白い。
「…ぶふっ…」
「……サフィ、笑ってない?」
「わ、わらって…っな…ないよ…っ」
だ、だめ。お兄様が一言いうたびに、顔の前で紙がぺらんぺらんって!
なまじ美形なだけに!絵面が!!
「あ、あはははははははは!!!か、かみ!かみが!ぺらんぺらん!かっこいいおかおに!ぺらんぺらんて!!」
遂に我慢しきれなくて笑い出した俺を、先生がコツン。
「こおら!笑わないのっ!これはちゃんとした訓練なんだからねえ!精神を…なんだっけ、統一!統一するのにはこれがいいんだって!」
確かにそおだけど!でもおもしろおおおおい!!!
俺が笑いだしたら、ゲイルとお兄様まで笑い出した。
「はっはっはっは!我慢してたのにっ!ダメだろ、サフィ!!」
「ふ、ふふふふふふ!も、もうダメだ!これは、これは無理っ!!」
こんなことを2時間くらいやって。
ねこちゃんのパイをおやつに食べて、みんなでお茶をして、第一回の訓練は終わった。
とにかく、俺、魔法は問題なく使えそう。禁止されてるけど。
あと、こころの小石がぽろりと取れた。
それが今日の収穫。
何ができるようになった、ってわけじゃないけど。
ものすごく濃い訓練の日になったと思う。
俺は希望。
訓練して魔法を使いこなせるようになって、新しい世界を切り開く。
みててね。みんな!
2,235
お気に入りに追加
5,170
あなたにおすすめの小説
そばにいてほしい。
15
BL
僕の恋人には、幼馴染がいる。
そんな幼馴染が彼はよっぽど大切らしい。
──だけど、今日だけは僕のそばにいて欲しかった。
幼馴染を優先する攻め×口に出せない受け
安心してください、ハピエンです。
【完結済】病弱な姉に婚約者を寝取られたので、我慢するのをやめる事にしました。
夜乃トバリ
恋愛
シシュリカ・レーンには姉がいる。儚げで美しい姉――病弱で、家族に愛される姉、使用人に慕われる聖女のような姉がいる――。
優しい優しいエウリカは、私が家族に可愛がられそうになるとすぐに体調を崩す。
今までは、気のせいだと思っていた。あんな場面を見るまでは……。
※他の作品と書き方が違います※
『メリヌの結末』と言う、おまけの話(補足)を追加しました。この後、当日中に『レウリオ』を投稿予定です。一時的に完結から外れますが、本日中に完結設定に戻します。
旦那様、愛人を作ってもいいですか?
ひろか
恋愛
私には前世の記憶があります。ニホンでの四六年という。
「君の役目は魔力を多く持つ子供を産むこと。その後で君も自由にすればいい」
これ、旦那様から、初夜での言葉です。
んん?美筋肉イケオジな愛人を持っても良いと?
’18/10/21…おまけ小話追加
選ばれたのは美人の親友
杉本凪咲
恋愛
侯爵令息ルドガーの妻となったエルは、良き妻になろうと奮闘していた。しかし突然にルドガーはエルに離婚を宣言し、あろうことかエルの親友であるレベッカと関係を持った。悔しさと怒りで泣き叫ぶエルだが、最後には離婚を決意して縁を切る。程なくして、そんな彼女に新しい縁談が舞い込んできたが、縁を切ったはずのレベッカが現れる。
婚約破棄されたら魔法が解けました
かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」
それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、王太子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。
「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」
あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。
「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」
死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー!
※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です
義妹の嫌がらせで、子持ち男性と結婚する羽目になりました。義理の娘に嫌われることも覚悟していましたが、本当の家族を手に入れることができました。
石河 翠
ファンタジー
義母と義妹の嫌がらせにより、子持ち男性の元に嫁ぐことになった主人公。夫になる男性は、前妻が残した一人娘を可愛がっており、新しい子どもはいらないのだという。
実家を出ても、自分は家族を持つことなどできない。そう思っていた主人公だが、娘思いの男性と素直になれないわがままな義理の娘に好感を持ち、少しずつ距離を縮めていく。
そんなある日、死んだはずの前妻が屋敷に現れ、主人公を追い出そうとしてきた。前妻いわく、血の繋がった母親の方が、継母よりも価値があるのだという。主人公が言葉に詰まったその時……。
血の繋がらない母と娘が家族になるまでのお話。
この作品は、小説家になろうおよびエブリスタにも投稿しております。
扉絵は、管澤捻さまに描いていただきました。
【魅了の令嬢】婚約者を簒奪された私。父も兄も激怒し徹底抗戦。我が家は連戦連敗。でも大逆転。王太子殿下は土下座いたしました。そして私は……。
川嶋マサヒロ
恋愛
「僕たちの婚約を破棄しよう」
愛しき婚約者は無情にも、予測していた言葉を口にした。
伯爵令嬢のバシュラール・ディアーヌは婚約破棄を宣告されてしまう。
「あの女のせいです」
兄は怒り――。
「それほどの話であったのか……」
――父は呆れた。
そして始まる貴族同士の駆け引き。
「ディアーヌの執務室だけど、引き払うように通達を出してくれ。彼女も今は、身の置き所がないだろうしね」
「我が家との取引を中止する? いつでも再開できるように、受け入れ体勢は維持するように」
「決闘か……、子供のころ以来だよ。ワクワクするなあ」
令嬢ディアーヌは、残酷な現実を覆せるのか?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる