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王城でのまがりにん生活

俺、ついに魔法を習い始める!

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昨日スタートのはずが。
バイツー先生のゴミ部屋のお陰で1日延期。今日が初めての魔法訓練となります!

待ってました!
5歳にしてようやく!魔法!
みんな魔力が落ちつく5歳から習い始めるっていうけど。
ちょっとくらいなら、いいんじゃないかと思う。
でももう魔力測定もしたし、これで大手を振って習うことができるんだもんね!
あ、でも魔力が虹だから!こそっとしなきゃ!ないしょないしょ、だよね!ちゃんと覚えてる!

てな訳で。
ゲイルたちと合流し、剣も見せて、いざ、魔塔へ!
さすがにバイツー先生も申し訳なさそうに顔を合わせた早々、がばりんちょ!90度のオジギ!

「昨日はごめんねえ!あれからみんなに怒られちゃったよお!
いやあ、もうあそこまでになっちゃうとひとりじゃ無理だよねえ!サフィちゃんのおかげでみんなが手伝ってくれたから助かっちゃった!」

かーらーのー
握手握手!

「オヤツもありがとうね!みんなすっごおく喜んでたよお!」
「今日こそはしっかり魔法を教えるからねっ!期待しててっ!」

ぶんぶんぶん!
勢いがすごい!ぴえー!腕がもげそう!

「さ、サフィ!」

慌ててゲイルが俺の脇の下に手を入れて俺を持ち上げ、脱出成功!
ふう。

「おかたづけだいじ。できないなら はやめに『たすけて』する。そしたら ああならない。オケ?」
「うん。さすがに反省したよー。それにしても、小さな子に言われると余計にこたえるもんだねえ!」
「あれは論外ですよ!気をつけてくださいね」

何を思い出したのか、お兄様もぶるりと震えながら先生を注意。
しっかり反省するようにね!




こうしてようやく先生の私室に落ち着くことができた俺たち(俺とゲイルとお兄様。ティガマリ&護衛ズは1階で待機中!)ですが。

片付けが終わった魔塔の10階は見違えるようだった。
物が溢れていた床もようやく姿を現し、時代に磨かれた光沢と美しい木目を見せている。
壁沿いには大きな本棚がびっしり。
昨日はガラガラだったのに、きちんと所定の位置に本や道具が収められ、整然と並んでいた。

ま、、魔塔の皆さん…がんばったねえええ!!
あのパイ、みんなの分も持ってくるんだった!
そう後悔してたら、お兄様がこそっと「差し入れは、魔塔の全員分も頼んであるからね」って。
お、お兄様!!さすがです!これが王族の気遣い!
俺は感謝と尊敬のまなざしでお兄様を見つめた。

「ふふ。サフィなら『みんなにも』って言うかな、ってね。当たってた?」
「おにいさま、さすが。きづかいのひと。つうじあってる!」



あまりの部屋の豹変ぶりに、俺たちはびっくり。
こんな素敵な部屋をあんな魔窟にしてしまったの?!

「……せんせー…。つかったらもどす。あとで、はダメ。そのときにやるの。おかたづけのしかた、ゲイルにならって」
「……面目ない……」
「いや、俺でも無理だろ。こいつに教えるの」

ゲイル、すっかり先生への尊敬の念が消えてしまっている。
最初はあんなにかばっていたのに。
うんうん。わかるわかる。ゲイルって意外と綺麗好きだもんね。

「……汚れはクリーンできても、物理はどうしようもねえわ。
サフィの言う通り。毎日の積み重ねだぞ?
せめて、虫だけはなんとかしとけ!あれは無理!うちのかわいいサフィが虫に刺されたらどうする!」

あ。そっちでしたか。俺のためだったのね。ありがとう。

「ごめんよおおう。虫よけの魔法でしっかりと燻して追い出したから!」
「………結界!」
「………それ、何の結界?この部屋というか、魔塔には結界ははってあるよ?」
「虫には害意なんてねえ。だから入りたい放題なんだろ?
とりあえず………一定の大きさ以下の動くもんは入れないように指定しといた」
「助かるよ。…私も虫は…勘弁願いたいからね」
「結界にそんな使い方が?!いやあ、そんな指定でいけるんだね!盲点だったよお!すごいよ、ゲイル!」
「ぼくの!ぼくのおとうさまだもん!」

どやあ。
これで安心して魔法ができます。





バイツー先生の講義は、まずは「魔法とは」みたいなことからだった。

「魔法で一番大切なことは、何だと思う?」
「はい!ぼく しってる!きのう ほんでよんだ!イメージでしょ!
たくさん しっかりイメージするとよき!」
「そうだね。よく覚えてたね!偉い偉い!
……昨日はホントにごめんねえ。待ち時間を有効活用してくれたみたいでよかったあ!
そういえば、氷魔法使ったってホント?公爵から習ってたって聞いたけど…」

あ、ヤバい!
言っていいのかなあ…?

俺がちらりとゲイルを見ると、ゲイルがうんうん、て頷いた。
後で聞いたら、団長さんと先生には俺のにじいろ話してあるんだって。
よかった!

「あのね。ほんとはならってない。ほんでよんだ。
あのね、おちゃがちょっと あつかったから。つめたくしたいなって。
こおりだしたらいいとおもったの。
やってみたらできた。
こまかくたくさんそうぞうして、エイってしたら、てからコロリンした」

俺の話にゲイルとお兄様が苦笑。

「あれは驚いたよね…。さすがはサフィ」
「まあ、公爵家自体が水や氷の扱いのスペシャリストだからな。血筋、なのか?」

先生は俺の話を聞いて、首をかしげた。

「でもねえ。普通はまず『自分の魔力を自覚する』ところからなんだよねえ。身体に流れる魔力の流れを意識して、それを集めて魔法にするんだ。サフィちゃん、初めてだったんだよね?」
「?うん。やったらできた。まりょくしらない。てからだそう っておもって 『エイっ』しただけ」

俺の言葉に今度はお兄様が首をかしげた。

「うーん…。確か、私の時はまず体内にある魔力を意識して循環させる訓練から行ったよ?サフィは魔力を無意識に制御しているのかもしれないね」

ゲイルが、顎に手をやり考え込む。

「…心あたりが無いでもない。
サフィが生まれる前から、エリアナを通じて俺のヒールを何度も試した。まあ、はじかれたんだがな。
それが訓練になっていた、なんてことはないか?」
「確かに!ゲイルの魔力ならそれなりの強さがあるはずだからねえ。生まれる前に何度も強力にヒール、なんて普通はやりたくてもできないもんねえ。ゲイルがいて初めて成り立つ、強力なヒール。それを定期的に繰り返しかけられた事が、ある意味訓練になっていた…。
うん。あり得ますねえ!なんとも興味深いなあ!」
「魔力をはじく過程で、魔力の流れた出来たのかもね。それが自分の魔力を意識することに繋がったのかもしれない」
「実際、サフィの魔力量はけた違い過ぎたからな。あそこまでとは想定外だった。今になって思えば、あんな魔力量でエリアナが無事にサフィを産めたのは、奇跡に違いんだよ。
サフィが無意識に自分の魔力を制御していたからなのかもしれんな。サフィは、腹の中で魔力制御を覚え、分からないなりにエリアナを必死で守っていたんだろう」
「そうだね。その仮説は僕も正しいと思うよお。サフィちゃんの想定外の魔力量もだけど、更にそこに魔力の多いゲイルが居合わせ何度のヒールを掛けたこと、エリアナさんの強い想い、それが揃っていたからこそ奇跡が起きたんだろうねえ…」

「ぼく、まもったの?」

「ああ。きっと守っていたんだよ。頑張ったな、サフィ!そのおかげで俺たちはお前に出会う事が出来た。エリアナの想いを繋ぐことができたんだ。よくやった、サフィ!」

俺はなんだか…むしょうにほっとした。
俺がお母様を傷つけただけじゃなく、守ってたことが、嬉しかった。
多すぎなくていい、なんて思った魔力だけど。
その中で頑張って今に繋いだ自分を、誇らしいと思った。

「サフィは、みんなの希望なんだね」

お兄様が俺をそっと抱きしめてくれる。

「ぼく…きぼう?」

「ああ、そうだ。エリアナのお前を守りたいという強い想い、お前の母親を守りたいという想い、そしてお前たちを守りたいという俺の想い。みんなの想いが奇跡を生んだんだ。サフィはみんなの希望なんだよ。
そして、それは今に繋がっている。
サフィ。お前の魔力は凄い。だが、お前はきっとそれを自由に使いこなすことができる。
俺たちが見たこともない世界を、お前は切り開いていくんだ」
「楽しみですねえ!サフィちゃんがどんなものを見せてくれるのか!僕も微力ながら全力でサポートさせてもらうからねえ!いやあ、ワクワクするなあ!」


なんだろう。
なんだろう。
今まで、ゲイルやみんなとうれしくて楽しくて幸せで。
でも、どこか胸に詰まってた「俺の魔力のせいで」「普通だったらよかったのに」って気持ち。
それが、ぱあって消えていったのが分かる。

この魔力は確かに大切な人を傷つけた。
でも一方では、大切な人を守ってもいたんだ。

みんなの希望に慣れる力なんだ。
世界を切り開く、俺の力。

そう思ったら、ぶわわわわー、って力が湧いてきた。

「ふわわわわ!ど、ど、ど、どうしよ!あふれちゃう!」

「サフィ?!」

「わああああああん!でちゃうよおおおおおお!!」


どっぱーーーーん!
びかびかびかーっ!

俺の身体から信じられない光がでた。

「うわああ!何だ?!大丈夫か、サフィ!」

「だ、ダメえええ!きちゃだめ!ぼく、なんかでてるから!!」

ダメって言ったのに、ゲイルは躊躇なく俺をぎゅうっと抱き込んだ。

「ゲイル!ゲイル!!」

しゅうううん、と光が消えた。

「ゲイル!!だいじょうぶ?なんともない?いたくない?てとかあしとか、ある?」
「だ、大丈夫だ。なんともな…いや、あるな」
「ええ?!どこが?!て?あし?おなか?!
せ、せんせえええ!ゲイルをヒールして!!ヒール!」

慌てまくる俺にゲイルが一言。

「疲れが取れた」
「………は?」

なぬ?!俺はガシっとゲイルの顔を掴み、のぞき込んだ。
見てみると、確かに昨日からずっと目の下に居たクマさんがいない。お肌だってつやっつやのぴっかぴか!

「あれ?!ゲ、ゲイル?わかくなった?クマさんいなくなって、おはだぷるんぷるん……」

お目目ぱちくりして驚いていると、「はーい!」と先生の声。

「あのねえ。僕もなんだか元気になっちゃったみたい!」

ええ?先生も?!

先生は腕をブンブン振り回しながら、満面の笑みを浮かべる。

「昨日の掃除で疲れがたまってたんだけど、今は全く疲れを感じないの。
おまけに、これまで感じたことのないパワー?みたいなのを感じる!」

てことは…まさか…?!
お兄様に視線を向けると、お兄様もすっきりさわやかな笑顔。

「うん。私も同じかな。少し疲れはあったのだが、全くそれがなくなっている。身体がとても軽く感じるよ」

しーん………。
てことは、さっきの「びかびかーん!」は………

「威力が大きすぎて一瞬ビビっちまったが…エリアヒールだな…はは…」

ゲイルが呆れたような声で笑った。

「そうですね…ちょっと威力が…ありえないけど…エリアヒールだよねえ…」
「エリアヒールだね…」

あはははは…。
でも、いい魔法だよね?よかったあああ!!何が出るのかと思ったらヒールだった!
へんなのでなくてよかったああああ!!



「どうやら、サフィの魔法は気持ちや心に連動しやすいようだな。
一度氷を出しちまったことで、タガが外れちまった。今は駄々洩れ状態だ」
「……しっかりと制御をお勉強しましょうねえ、サフィちゃん!大丈夫。きっとすぐにできるよお!」






俺は魔法を覚えるより先に、「魔法を出さない訓練」をされることに…。

なんかじいっとロウソクをみつめたりだとか、おでこに紙をぴったんこされて、ゆらすなだとか。
何この訓練。こんなの、魔法の訓練じゃない!忍者の修行じゃん!!
ぶー!ぶー!!

「まあまあ。ぶうたれるな!
お前は、たぶんイメージだけで相当魔法を使いこなせるぞ?
だから、暴走しないように先に意識的に制御する方法を学ぼうな!」
「そうだよ。サフィならできるよ!一緒にがんばろうね!」

お兄様とゲイルが、おでこの紙をぺらんぺらんしながら励ましてくれた。
俺に付き合って一緒に訓練してくれているのだ。
ありがたい。けど、ちょっと面白い。

「…ぶふっ…」
「……サフィ、笑ってない?」
「わ、わらって…っな…ないよ…っ」

だ、だめ。お兄様が一言いうたびに、顔の前で紙がぺらんぺらんって!
なまじ美形なだけに!絵面が!!

「あ、あはははははははは!!!か、かみ!かみが!ぺらんぺらん!かっこいいおかおに!ぺらんぺらんて!!」

遂に我慢しきれなくて笑い出した俺を、先生がコツン。

「こおら!笑わないのっ!これはちゃんとした訓練なんだからねえ!精神を…なんだっけ、統一!統一するのにはこれがいいんだって!」

確かにそおだけど!でもおもしろおおおおい!!!

俺が笑いだしたら、ゲイルとお兄様まで笑い出した。

「はっはっはっは!我慢してたのにっ!ダメだろ、サフィ!!」
「ふ、ふふふふふふ!も、もうダメだ!これは、これは無理っ!!」



こんなことを2時間くらいやって。

ねこちゃんのパイをおやつに食べて、みんなでお茶をして、第一回の訓練は終わった。
とにかく、俺、魔法は問題なく使えそう。禁止されてるけど。
あと、こころの小石がぽろりと取れた。
それが今日の収穫。
何ができるようになった、ってわけじゃないけど。
ものすごく濃い訓練の日になったと思う。

俺は希望。
訓練して魔法を使いこなせるようになって、新しい世界を切り開く。
みててね。みんな!


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